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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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053 水外の魔物

「くうっ!」


 空を飛ぶ魚の魔物。そのまま呼ぶ名前は空飛魚。正式名は不明。

 そんな魚が複数匹でネーデを襲う。もっとも、その数は十にも満たない数である。


「やっ!」


 剣を振れば斬り捨て叩き落せる。その程度の魔物。

 襲われてもさほど脅威はない。

 しかし、数がそろえばやはりなかなかに厄介ではある。

 そしてそれ以外の魔物も当然いる。


「きゃっ!?」


 ぱぁんっ! と破裂音を鳴らすものも存在する。

 空を飛ぶもう一種類の魚。ハリセンボンのように膨れ上がり風船のように飛んでいる。

 それがネーデに近づいてある程度近づくと破裂してネーデに危害を加える。

 危害。そう、ネーデが反応できないように危機にもならないほどの攻撃でしかない。

 魔物として存在しているとはいえ、おかしな話である。何のために生きているのか。


(生物って不思議だな。ただ近づいて破裂するだけの魔物? 人工の魔物か何かなのか?)


 その様子を見ていたアズラットはその魔物に興味を覚える。

 スライムですら自己分裂という形で繁殖するのに風船のような魚は一体どういう繁殖を行うのか。

 敵に近づき破裂すると言う能力を持つのは一体なぜなのか。それに何の意味があるのか。

 そんな能力を持つというのに繁殖はどうするのか。そもそも攻撃能力が低すぎる。


(考えられるとすれば、今の一匹、一匹だけが近づいて破裂しびっくりさせ、その間に他の仲間を逃がす……という感じだが。この階層に他の仲間がいる、というのは納得できるからそうする理由もわからなくもない。もしくは……あの破裂攻撃が繁殖にも使われること。あれで種のようなもの、魚だから卵をばらまいているとか? ありえない……とはいえないか。でもそうするとネーデからうじゃうじゃと稚魚が……さすがにそれは、ない、よな?)


 想像すると少々怖い話であるが、流石に魔物とはいえそこまで酷くはないだろう。


「はああああっ!」


 ネーデが剣を振り近づく魚を叩き落とす。

 そのうちの一匹が水辺に近づき、そして水に引き込まれて消える。


『(ネーデ、水辺には近づくなよ!)』

「わ、わかってる!」


 僅かとは言え、ネーデでも見えていた。

 いや、<身体強化>を行っているネーデですら辛うじて見えるくらいである。

 それくらいにその動きは速かった。

 水辺に近づいてきた魚を水の中から伸びた触手が襲う。

 触手、それは水中に存在する磯巾着である。

 しかも普通の磯巾着ではなく、これまで出てきたような動物系と同じ巨大種。

 水辺に落ちた魚に対してするように食欲を満たすためにその触手を伸ばす。

 例えそれが人間、冒険者相手でも。

 そして恐らくはそれから逃げることは難しいだろう。捕まれば一巻の終わり。

 アズラットは最初からそれを感知しておりネーデに水辺に近づくなと警告を出していたのである。

 水辺から出てくる危険とはいえ、魚たちは大したものではないのだから。

 なお、アズラットのみならばたいした危険ではない。

 物理攻撃をしてくる相手に現時点ではアズラットは半ば無敵に近い。


「ふう……」


 全ての魚を斬り捨て、周囲に叩き落とす。そうして少し休める……と思ったのだが。


『(ヤドカリが近づいてるから離れるぞ)』

「あ……はい」


 ヤドカリ。これもまたそれなりに大きくはあるが、大きさよりはその硬さが厄介な魔物である。

 攻撃能力はさほどではないが、食べるものがない場合執拗に周りにいる生物を襲ってくる。

 そしてその防御力はかなり高く、ネーデではそのヤドカリの宿貝を斬り裂くことはできないくらいに硬い。

 対処する場合、ネーデの代わりにアズラットがわざわざ出るくらいだ。

 なので食べるものがある状態ならば襲ってこない。そして食べている間に離れる。

 空飛魚はそういう囮の餌としてありがたいものである。


「っ! 上から!?」

『(またかっ!)』


 壁際を進んでいる限り時々降ってくる海星。これはまたウザったい魔物である。

 アズラットもいるし、ネーデも<危機感知>があるから対処ができる。強さもさほどではない。

 しかし、壁際を進んでいる限り頻繁に襲われるのはやはり厄介な話だ。


「やっぱり道を……」

『(確かにそうしたほうがいいか? 水路に囲まれるから少し危険だとは思うんだが……)』


 この六階層は水路の階層である。当然ながら多くの魔物は水の中にいる…………はずなのだが。

 ヤドカリ、海星、空を飛ぶ二匹の魚。

 ブルースライムもそうだが基本的には水の外にいる魔物ばかりだ。

 水の中にいる魔物と言ったら、磯巾着くらい。


「アズラットさん、あの穴……」

『(あれの住処っぽいな。道が分かれているし、避けるか対処して進むか)』

「もうあまり戦いたくない……」


 この階層に来てからネーデは結構な頻度で戦っている。

 疲労困憊、とまではいかないが少し休憩したほうがいいだろう。

 そういうことなので水路内部、壁寄りの道ではない方向へとネーデとアズラットは進んだ。


「こっちは魔物が出てこない……」

『(見える範囲では海星もヤドカリもいない。空を飛ぶ魚も今は出てこないか。怖いのは磯巾着だが、流石にあれだけでかいと水の中のどこにいるかはわかる。だが…………動く気配があるな)』

「え?」


 アズラットが水の中を動く何かの気配を感知する。それはネーデ達の進む先へと向かっている。


『(戻るか?)』

「……行こう。戦って倒せばいいんでしょ?」


 簡単にネーデはアズラットにそう答える。そして返事を待たずそのまま道なりに先へと進んだ。

 そして彼女が出たのはその道の先にあったそれなりに大きな広場。


「………………」

『(来たな)』


 広場の横には斜めになっている坂道が存在する。当然それは水路に続いている。

 その水路からざばっと水を持ちあげて上がってくる影が一つ。


「蟹!?」

『(蟹だな。っていうか見たことあるのか?)』

「川とかで……」

『(沢蟹とかか?)』


 蟹についての知識はアズラットは詳しくないので細かい所はさておき。

 自ら上がってきたのは片方の鋏だけが巨大な体の大きな蟹であった。

 少なくともその大きさはネーデが見上げるくらい。

 とはいえ、ネーデは幼いこともあり身長は低め。

 大きいとは言っても上を見上げるくらいではなく、少し上目遣いをすれば最も高い所が見えるくらいだ。


『(……逃げたほうがいいんじゃないか?)』

「………………」


 甲殻類。そう呼ばれるようにその甲殻は中々の堅牢さを持つことだろう。

 先のヤドカリと比べてどちらが硬いか不明だが、ネーデでその守りを貫けるのだろうか?


「やるだけやってみる!」


 ネーデは巨大な蟹に斬りかかった。がぎん、という音と共に傷を残すことは出来ている。

 だが、それが生み出すことができたのはその傷のみ。その内側に剣は届いていない。


「ひゃあああああっ!?」


 そして近づいたネーデに向けて振るわれる大きな鋏。

 ぎゃりりっと床を擦る音とともにネーデの前を通過する。

 <危機感知>はとても有能なスキルである。自信を襲う命の危機を的確に感知してくれる。

 その感知が教えてくれた攻撃をネーデは後ろに移動し回避した。それで辛うじてまだ生きている。

 地面床天上、迷宮内の建築部分は基本的に破壊できない。

 そのため音程度で終わっているが、仮に破壊できるのなら大きく床を破壊した一撃だっただろう。


「ちょ、ちょっと無理です!!」

『(まったく……まあ、しかたないよな)』


 ネーデの頭の上からアズラットが跳躍し、巨大な蟹に襲い掛かる。

 物理攻撃はアズラットに通用しない。巨大蟹の攻撃は基本的に物理攻撃のみ。

 つまり、巨大蟹にアズラットを倒す手段は存在しない。詰みである。

 そして巨大蟹はアズラットに飲み込まれ、ゆっくりと消えていったのである。

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