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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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052 闇の下、水辺

 五階層を順調に進み橋を越えたアズラットとネーデ。

 橋を越えた先には洞窟がありその先には階段が続いている。

 二人は周囲を警戒するが、その階段を下りる間は特に危険なことはない。

 アズラットの振動感知の感覚ではその場所に魔物は存在しないし、振動的に階段しか存在しない場所。

 その階段のある空間はあるが、結局のところそれだけの空間であった。


「魔物がいないの?」

『(みたいだな……ここは他の階層で言う境目みたいなものなのか?)』


 五階層とその階段を下りた先に存在するだろう六階層。

 その中間地点がこの階段である。アズラットはそう予測を立てる。

 階段自体はそれなりに長くはあるものの、降りるのに大変というわけでもなく危険があるわけでもなく。

 そのまま二人は階段を下りきって次の階層へと進む。


「うわあ……」


 そこは五階層や四階層、一から三階層とも違う階層であった。


(……ここが境目か。やっぱり階段は中間地点か? 振動的に……上か)


 アズラットは上の方へと意識を傾ける。そちらに存在するのは空を飛ぶ魔物。

 しかし、それはあまり下へと降りてくる様子がない。

 それもそのはず。アズラットの感知したその空を飛ぶ存在は五階層に存在する魔物と同一であった。

 いや、そもそもからしてこの六階層の上は五階層なのである。

 階段を下りてきたわけだからそれもおかしな話ではない。


(吹き抜けなのか……上から落ちてきた魔物や落とされた冒険者には注意するべきだな。っていうか、水路? これはまた……厄介な)


 水路。アズラットが言うようにこの六階層は水路を携えている構造だ。

 階層自体は吹き抜けで天井も壁もない、五階層へと続く光景である。

 しかし地面は石畳で水路が迷路のように存在している。


(この水路…………)


 アズラットは水路へと意識を向ける。

 アズラットの知覚で把握する限り水路はかなり厄介なものであると判明した。

 スライムの持つ振動感知の能力。

 これはかなり広い部分を感知でき、またそこにいる存在を把握できる。

 アズラットだけでは難しいが、音などの振動さえあればそこに何かいることを把握できる。

 僅かな動きであってもそれが振動を生み出せば感知できる。微かな空気の動きでも。

 だが、それは水路、水中に関してはかなり適用されにくい物であるとアズラットは感じている。

 実際水の中にいる魔物に関してはアズラットでも感知が難しい。


「水の道……水かあ」

『(ネーデ、近づくな)』

「え……っ!?」


 アズラットの念話を受けネーデは一瞬止まり、また何かを感じたのか水辺から跳び退る。

 その次の瞬間水辺から飛び出してきた飛来する魚。


「きゃあっ!」


 ネーデは水辺から離れた。しかし、そんなネーデを魚は追いかける。

 水から飛び出した魚は空中に躍り出た状態なのにまるで空中を泳ぐかのようにネーデに接近する。

 とはいえ、今のネーデにはそれは空を飛ぶ魔物とほとんど同じ。

 つまりその動きを見極め的確に攻撃を当てることができる。

 その魚自体は肉食魚であり襲われれば危険性はあるのかもしれない。

 だが群れでもないただ一匹の空中を遊泳するだけの魚がネーデにとって脅威になることはない。


「ふう……」

『(突然だったが大丈夫だったか?)』

「あ、うん……大丈夫でした。教えてくれてありがとう」

『(いや、<危機感知>にも反応したみたいだからそこまで危なくはなかっただろうからな)』


 アズラットがネーデに水の中の魔物の存在を伝えずとも、ネーデはそれを回避できただろう。

 しかし、アズラットに止められたこともネーデが完璧に無事でいられた理由である。

 流石にネーデだけだと<危機感知>に反応しても近づきすぎで回避できなかった可能性がある。


『(とりあえず、水辺には近づかずに進もう)』

「でも、あの水路を超えて行ければ……」


 水路自体はそれなりに大きく、迷路のように入り組んでいる。

 しかし、そこに行き来を遮るような壁のようなものはない。

 そしてネーデからも見えるが遠目に次の階層への道であるだろう洞穴が見える。

 そこへと一直線に良ければかなり楽なのだが。


『(やめておいた方がいい。水路を飛んでいくのは簡単じゃない。さっきのように突然魔物が出てくることもあるし、この水路には思った以上に魔物がいるぞ? 近づかないと見れないだろうからわからないと思うが……)』


 水路の構造は思ったよりも深めになっている。

 そういうこともあって遠くから見るだけでは魔物の存在を察知できない。

 しかし、近づけば先ほどのように水の中から魔物が出てくる可能性が高く、危険も大きい。


「……でも、あれくらいなら」

『(もっとでかいのもいる。それに水の中の生き物は色々といるからな。蛸、エイ、貝類……毒針持ちとか危険度は高そうだし、海星や海月もいろいろと危険はある。魚だってさっきみたいな小さいの以外にも鮫やそれこそ鯨でもいたらやっかいだろう。流石にこの水路にそんな大物がいるとは思わないが、それだけ魚にはいろいろな種類がいて、それがどういう魔物として存在しているかもわからない。恐らくここは淡水系だが……それでも色々と脅威になるものが出てくる可能性は高い。だからやめておいたほうがいい)』

「……はい」


 ネーデはあまり納得がいっていないようだが、流石にここまでアズラットに言われてはその意見を無視できない。

 実際にアズラットが言うほどの危険は確かにないだろう。

 しかし水中というあまり人間には馴染みのない場所にいる敵であり、不意打ちのような襲い方をしてくる敵。

 そういった敵が数多く存在する以上そこまで楽にいかない。

 少し注意するくらいがちょうどいい。


『(ある程度、行き止まりになるような場所はわかるから道案内くらいはするぞ)』

「お願いします」


 迷宮の構造は振動感知にて大まかにだがわかる。特にこの階層は広く壁がない。

 水路は音や空気の振動さえあればわかるので迷路のような構造でも迷うことがない。


『(ただ、その前に一つ。壁や穴には注意しろ)』

「……わかった」


 アズラットの警告はネーデの<危機感知>がある以上そこまで重要なものでもない。

 しかし、事前に知っているのと知らないのでは全く警戒も意識も違う。

 言われた通り、ネーデは進みながらも周囲に警戒しながら進んでいく。






「っ!」


 上からバラバラと振ってくる海星。

 アズラットの警告の一つ、壁に注意の内容に該当する魔物である。


「やっ! たあっ!」


 剣で斬る、払う、そうでなくともネーデを直撃する海星ばかりではない。

 なのでそこまで危険でもないが、<危機感知>のような襲い掛かる危険を感知する能力を持たなければ危なかっただろう。


「ふっ!」


 地面に落ちた魔物もネーデが止めを刺す。

 そのまま放置していても壁に戻るかネーデに襲い掛かるだけだ。

 殺してもいずれまた出てくるので殲滅する意味もそこまでないが、一応レベルの足しにはなる。


「ふう……」

『(上から降ってくるのはそこまで気にする必要もないと思うけどな)』

「アズラットさんに頼りっぱなしは悪いですし」


 上から降ってくる魔物は頭上にアズラットがいる以上そこまで極端な危険はない。

 もちろんアズラットが守り切れる位置に降ってくるとも限らないのでネーデが対処する方がいいだろう。


『(そうか……まあ、時々は俺もいろいろとやりたいんだけどな)』

「……そうですね。ずっとアズラットさんは頭の上にいるだけだし」

(うぐっ)


 最近はアズラットはこれといった活躍をしていない。

 別に全く仕事をしていないわけではない。振動感知による構造の把握や魔物の探知をしている。

 しかし、これといって目立つ活躍はしていない。

 もっともこれまでネーデが見たアズラットの活躍はゴブリンの集落での行いなわけだが。


『(そう俺が動くようなことがあってほしいとは思わないんだけど)』

「……そうだね」


 ネーデの実力は今まだレベルで二十を超えないくらい。

 一般的な人としてはそれなり、冒険者としてはまああまなくらいだろう。

 しかしそれだけのレベルでもこの階層でやっていける程度の実力はあるということになる。

 もちろんそれは一人ではなく仲間がいての話。アズラット無しでは辛いものだが。

 それに対しアズラットはそろそろ三十レベルになるくらい。

 とはいえアズラットはスライムである。進化しているとはいえ、そこまで極端に強くはない。

 それでもネーデとアズラットではアズラットの方が強い。相性の問題もあるかもしれないが。

 ともかく、アズラットが動くような危険となると少なくともこの階層では想定されないような危険である。

 確かにそれはない方がいいのだろう。アズラットにとってもネーデにとっても。

 代わりにアズラットは強い魔物を食する機会も、己の強さを確認できる機会もない。なかなかに厳しいところである。

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