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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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051 一寸先は

 アズラットとネーデは双方とも四階層に存在する最強の魔物を倒せるようになった。

 四階層を制することのできる戦闘能力を得たと言うことで彼らは次の階層へと向かう。

 一応四階層と五階層の境目である場所からその様相は見えなくもない。

 しかし、基本的に彼等はその階層に関しては初めて行く場所である。

 そこに出てくる魔物との戦闘経験も、戦う舞台となる場所に関する知識も有していない。

 それゆえに彼らは五階層で恐ろしい目に遭う。


「ア、アズラットさん? だ、大丈夫かなこれ!?」

『(……落ち着け。足場はそれなりに広いんだ。簡単に落ちたりはしないはずだ)』


 これまでの階層は一階層から三階層は遺跡のような構造をしていた。

 四階層は洞窟のような構造をして、全て閉鎖的な空間、四方が壁天井床で占められる場所だった。

 しかし五階層は違う。五階層は最初に入ってきたところが崖となり他の地面がほぼない。

 崖から先は橋となって先へと通じている、そんな空間だった。

 当然ながらその橋から足を踏み外せば落下してしまう。

 底が見えないほど深いと言うわけではないものの、落ちてしまえば死ぬ可能性が高い。


「そ、そう?」

『(というか、落ちないでほしいと言うのが俺としては本音だな。ネーデの安全のために頭の上に乗っているわけだからネーデが落ちれば俺も一緒に落ちる。俺一人なら床を這って移動するから落下することはないんだけど)』

「……ごめんなさい」


 アズラットはネーデを守るために頭の上に乗っている。

 場合によってはネーデの代わりにアズラットが戦いに参加できるように。

 そういった都合上アズラットは地面に接地して移動できない。

 なのでネーデが落ちた場合、それに巻き込まれてアズラットは落下する。

 アズラットだけであれば落ちることはありえない。

 壁すら登れる移動手段を行っているのだから。


『(そこを責めるつもりはない。一応足場はしっかりしているし、ある程度広さはある。下手な行動をして足を踏み外して落ちないように注意な)』

「はい」


 足場はそれなりに広い。

 人間が五人ほど手をつなぎながら歩いてもまだ少し余裕がある程度には広い。

 とはいえ、戦っている最中だとそういった足場に対する意識は向かない危険性も高い。

 それゆえにアズラットはネーデに注意を促している。


「怖いなあ……」

『(……高さ次第なら落ちても安全かもしれないが、戻ってこれるかはわからないんだよな)』

「そうなの?」

『(ネーデは落ちたら死ぬだろうけどな。一応俺が衝撃を和らげるように配慮してみるが、確実にそれができるとも限らないから落ちないことを念頭にして行動しろ。さっきから言ってるけど)』

「は、はい……」


 一歩一歩、慎重にネーデが進む。この階層にも当然魔物が存在する。

 そんな魔物の姿も道の先に幾らか見えている。

 だが同時にこれまで以上に道中に存在する冒険者がはっきりとしている。

 なぜなら橋には障害物もなにも存在しない。そしてこの橋以外に道を行くことはできない。

 それゆえにこの階層を進む冒険者がいる場合、その姿は確実に見えることになるしすれ違いも確実に起こり得る。


「………………」

「………………」


 冒険者同士お互い無言ですれ違う。

 正直言ってネーデみたいな存在は幼さゆえに迷宮においては場違いな感じである。

 そして、その頭の上にはスライムを乗せているという特殊な魔物使いとしての要素。

 そういった二つの要素はすれ違う冒険者の興味を引く。

 しかし、それ以上の行動は相手も見せない。

 少なくともネーデのような冒険者は多くの場合訳ありの冒険者である。

 そんな冒険者に積極的に関わりたい者はいない。

 そもそも迷宮に挑む冒険者は自己責任。

 それを理解しているがゆえに自分たちの仲間以外との関わりは薄い。

 もちろんそういった冒険者ばかりではないが。


「ふう……」


 これに関してはネーデの方にも問題がある。

 もともとネーデは冒険者側に拒絶されたような立場だ。

 今は自分一人で四階層に挑めるようになっているのでやろうと思えば仲間を作るのは可能かもしれない。

 しかし、一度拒絶されたがゆえに冒険者側への不信が存在する。

 それは大きなものではないものの、無意識に近い不信であり本人も気付いていない。

 だがそれは他の冒険者もなんとなく察するものである。それゆえの反応でもある。


(……まあ、こちらとしては幾らか心配が晴れるが。でもこの先の事を考えると少し心配かな)


 ネーデのその様子はアズラットとしては心配事項である。

 アズラットにとっては下手に冒険者と関わり自分が殺されかねないのは嫌なところだ。

 しかし、ネーデが他の人間と関われなくなるのもそれはそれで問題であると考えている。


(なんとか……するのは無理か。少なくとも俺が面倒みているうちは。まあ、時間に任せるかどこかで人付き合いを作って何とかなるのを待つくらいしかないかな)


 この点に関してはアズラットではどうにもできない。冒険者でも人間でもないのだから。






 五階層は足場が崖から伸びた橋となっている部分しかない。

 この階層は珍しいこと死体などを処理する分解者としての役割を持つスライムが存在しない。

 もちろんスライムの代わりに死体を処理する魔物は存在する。

 足場が存在しないこの階層は原則として空を飛ぶ魔物が存在する階層となっていた。


「くっ!」


 四階層のように群れてこそいないものの、一階層や四階層に存在するものよりも強い大蝙蝠が襲ってくる。

 もちろんそれだけではない。壁に這い、橋の裏に隠れるように存在するゴキブリの姿をした魔物。

 それは時々足元から現れ噛みついてくるし、壁側から飛翔して襲ってくることもある。

 たまに落下して自殺していることもあるが、その素早い動きはかなり厄介である。

 もっともネーデの場合は危機感知がある。

 飛翔する多くの魔物が襲ってくる危険はすぐに察知できるのでそれなりに安全に進めている。

 とはいえ、襲ってきているのは飛行する魔物。簡単に倒せる相手でもない。


「やっ!」


 <身体強化>により動きを追うことができる、相手の動きに合わせ攻撃を合わせられる。

 そういった戦い方ができるからこそネーデは空を飛ぶ魔物と戦える。


「ふう……っ!」


 <危機感知>により察知された危険な存在。それを一気に切り裂く。


『(やっぱりそれは危険か……)』

「落ちかけたから……」

『(そうだな。あの時は本気で落ちるかと思った)』


 切り裂かれたのは虫の魔物、蝶の魔物である。

 当然ながら普通の蝶よりも大きいが、魔物としてはかなり弱い。

 そもそもからしてこの魔物は戦闘能力を持たない。しかしその危険性は極めて高い。


『(搦め手には注意。あの光の魔物もそうだな)』

「あ、あれ本当によくわからないんだけど……」

『(虫じゃないみたいだが……光の塊? それともゴーストとかの幽霊系の魔物なのか?)』

「さあ……」


 蝶の魔物の危険性はその性質。

 鱗粉や蝶の羽の模様を見ることで軽い催眠作用の影響や幻惑に誘われてしまう。 

 それにより一度ネーデが蝶を追って橋から落ちかけた。

 アズラットがネーデを正気に戻して助けたが。

 それ以外にも特殊な性質を持つ魔物として光の塊の魔物が存在する。

 こちらは危険性が蝶より低いのだが、ネーデの感覚によると触れることでとても疲労するようだ。

 触れることで相手を疲労させる魔物、または精神的な作用のある魔物であるということなのかもしれない。

 戦闘における危険性こそないものの、搦め手のような手を打ってくるのは中々に厄介である。


「あれなら梟の方がマシかな」

『(単純に襲ってくるだけの相手は倒せばいいだけだからな)』


 アズラットやネーデにとっては単純に戦って倒せる相手の方が楽である。

 少々脳筋の思考をしながら、彼らは順調に五階層を進む。強力な魔物はここには存在しない。

 搦め手の厄介さを持つ魔物は存在するが、脅威としてはそれくらいの階層だった。

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