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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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050 壁を越えて

「アズラットさん!」


 入り口から入って来た一人の冒険者が誰もいない迷宮で叫ぶ。

 それに反応して幾らか近くにいた魔物、大蝙蝠や大鼠が近づく。

 それにちょっと驚き小さく悲鳴を上げつつも彼女の持つ剣を振るい対応している。


(何やってるんだ……いや、まあ俺を呼んだせいではあるんだろうけど)


 当然ながらその相手はネーデである。なぜ彼女は叫んだのか?

 彼女は何処にアズラットがいるかわからない。

 当然ながら声を届け自分が来たことを伝えるのが一番わかりやすい。


(さて……)


 ネーデが来ていることはアズラットはわかっている。しかし、すぐには出ていかない。

 なぜならネーデがアズラットを退治するために他の冒険者を連れてきていないとも限らない。

 それゆえに振動探知を使い他に誰かいないかを確かめている。


(……いないな。なら安全か)

『そうは問屋が卸しません!』

『アノーゼ?』

『いえ、別にネーデさんが冒険者を連れてきてアズさんを殺そうとしていると断言するわけではないのですけど。ただ、アズさんは少々油断しすぎです!』

『えっと……』


 突然のアノーゼの<アナウンス>にアズラットは戸惑う。


『アズさん、自分のスキルの事を覚えていますか? それにどんなスキルあがるかわかっています?』

『ええっと、まあ』

『ならわかりますよね? スライムの能力で存在しないと探知できたとしても、絶対にそうではないということが』

『……<隠蔽>か』


 アズラットはアノーゼの言っていることに関して理解を示す。

 つまりは何らかのスキルによって隠れている何者かがいるかもしれないと言うことだ。

 もちろん<隠蔽>スキルではない。

 <隠蔽>は動いたら分かってしまうのでネーデについてくることはできないだろう。

 しかし、<気配遮断>など他にも己の存在を隠すスキルは存在する。

 そういったスキルを使いアズラットを殺そうとしている可能性はなくもない。

 ただ、ネーデという幼い冒険者からアズラットの話を聞いてそこまでの事をするかというと疑問ではあるが。


「アズラットさーん!? どこですかー!?」

『……あれ、そこまで心配する必要はあるのか?』

『……無いと思います。ですが、油断はしないようにしてください。世の中何があるか、何が起こるかわからないのですから』


 ネーデがそうするつもりでなくとも何かを引き連れてくる危険性がある。

 それは別にアズラットを害する意図ではないかもしれない。

 だが、それに巻き込まれる危険性はある。

 そう言ったことをアノーゼは注意しているのである。


『わかったよ。早く出て行ってやらないと』

『そうですね……まあ、頑張ってください。こちらからずっと見ていて応援しています』

『…………おう』


 そのアノーゼの言葉にアズラットは色々と不安に思うのであった。






『(ネーデ!)』

「あ、アズラットさん! ようやく見つけた……」

『(悪い。すぐに出てこれなくて)』

「いえ、いいんです……一階層はもう大変でもないし」


 今のネーデは四階層でまともに戦えるくらいの強さである。なので一階層では苦戦しない。

 それに今のネーデはこれまでのような様子ではなくきちんとした装備をしていた。


『(それ、装備買ったみたいだな)』

「はい。武器は今まで通りでいいですけど、防具はちゃんとしないと……これでもうちょっとまともに戦えます」


 今までネーデは四階層で戦ってきたが、攻撃を受けることができない状況だった。

 防具の一つもなく、武器を頼りにスキルを駆使し戦っていた。

 だが今は防具がある。多少の攻撃なら防具で受けることができる。

 防具があるから万全というわけでもないが、ないとあるでは雲泥の差だ。


『(そうか……まあ、とりあえず……色々買ってきたみたいだな。また戻る必要はあるかもしれないが、それはその時。今は四階層に戻ろうか)』

「はい!」


 そうしてアズラットとネーデは合流して四階層に戻る。

 四階層の元ゴブリンの集落。そこには幾らか戻ってきたゴブリンたちがいた。

 もともと彼らの住んでいた場所、これで全部かはわからないがネーデとアズラットがそのゴブリンたちを始末する。

 そうしてまた元ゴブリンの集落は彼らの拠点として使われることとなる。






「たあっ!」

「ガアッ!」

「ぐぅっ!」


 そうして四階層へと戻って来たネーデとアズラットは修行として魔物との戦いを再開する。

 以前倒せた巨大熊から、巨大熊以上に戦いづらくタフな角河馬へと戦う相手を移す。

 最初は倒せそうになく、大人しく巨大熊相手に戦闘の鍛錬を積むこととなる。

 そして巨大熊をある程度余裕を持って倒せるようになり、今度こそと角河馬へと挑む。

 ネーデの身体能力であれば角河馬くらいの速度ならばそれなりに対応できる。

 時間はかかるものの、なんとか角河馬を倒せるようになる。

 そうして最後に挑む相手は四階層における生態系の頂点、最強の魔物である石皮虎。

 ネーデは巨大熊の毛皮を持ち帰ったが、石皮虎の皮は石皮というように鉱物に近い硬度を持つ。

 皮でそのような性質をもつ物は珍しく、それゆえに四階層という浅めな階層であるが結構な値が付くくらいである。

 当然その皮を持つ石皮虎は高い防御力を持ち、虎というように鋭い爪の攻撃、高い機動力を持つ。

 つまり単純に言って強い。


「はあっ、やっ!」


 ネーデの攻撃を躱し石皮虎はネーデから距離をとる。

 角河馬も倒せるようになったネーデは石皮虎を相手するようになった。

 しかし戦績としてはまだ一勝もできていない。

 もっとも一勝でもできれば四階層から先に進もうということになっているので当然なのだが。


「ガアアアアッ!」

「っ!」


 虎の攻撃を今度はネーデが躱す。初動と攻撃速度は流石に速い。

 <危機感知>がなければ避けることはできないだろう。

 しかし、<危機感知>に<身体強化>を合わせ、ネーデは石皮虎の攻撃に対処する。

 場合によっては<危機感知>に感じる攻撃に自身の攻撃を合わせるほど。

 しかし相手は虎であり、それゆえに相手の体重もあって単純に攻撃できるほど楽ではない。

 それでもネーデは攻撃を躱しながら僅かずつ石皮虎に傷をつけていく。


「はあっ! やあああっ!」


 ネーデの攻撃は石皮虎に対し決定打となることはない。そこはネーデの弱さによるものである。

 それをネーデ自身分かっている。ゆえにネーデの攻撃は小さく、相手に傷をつける程度。

 大きく切り裂くようなことはできない。だが、それでも。

 微かな傷とはいえそれを蓄積していくことを選んでいる。

 それに焦れて石皮虎の方が攻撃が大振りになる。

 そこをネーデが隙をついて少し大きめな攻撃を入れている。

 何度も何度も、ネーデの体力的な問題があるものの、それを繰り返しつつ石皮虎との戦闘を行う。


「ガアウ…………」


 体力を失い、力尽きるように倒れこむ石皮虎。

 しかしネーデも今度は油断をしない。

 以前巨大熊の時に油断し死にかけたことがある。

 今回もまた、その時みたいに最後の一撃を入れてくるかもしれない。 

 そう思いネーデは油断せず石皮虎を見る。

 それは経験則だけではなく、<危機感知>のスキルも理由にあった。


「ガアアアアアッ!」


 最後の一撃。己の体力を振り絞る石皮虎はネーデに跳びかかる。

 <危機感知>はその攻撃をネーデに伝えていた。

 以前の経験から最後の攻撃が来るかもしれないとネーデは思っていた。

 そうであったため、ネーデはその攻撃に対し、反撃の一撃を与えることができた。

 大きく切り裂かれる石皮虎。その傷は誰が見ても、どう考えても致命傷であった。


「ガ…………」


 どざっと鈍い音を立てて石皮虎は倒れた。


「はあっ……はあ…………や、やったああああああああ!!」


 ネーデが石皮虎に勝利した。これで彼女はようやく五階層へと進むことができる。


(……ふう、ようやくか。ま、ネーデも頑張ったよな。これで四階層でやっていけるだけの証明はされた。この先の魔物はもっと強いのがいるかもしれないから何とも言えないけど、十分戦えるはず。ようやく次に行けるな)


 魔物は階層を進めば進むほど強くなる。

 単純に強くなるわけではないが、基本的にはそうなる。

 なのでその階層の魔物に勝てるくらいの強さが必要であるとアズラットは考えていた。

 そして四階層で最強の魔物は先ほどの石皮虎。

 それを倒せるようになれば次の階層でも十分にやっていける。

 そう思い、ネーデにその相手を倒せることを要求していたのである。

 それを成した以上、ネーデと共に先に進むのに問題はない。


『(よしっ! ネーデ! 休んで次の階層に行くぞ!)』

「はいっ!」


 流石に石皮虎と長期戦を行っていたネーデをそのまま次の階層へと連れていくつもりはない。

 それに四階層の拠点に残している物もある。そういったものを回収しなければならない。

 そうしたことをやって、ようやくネーデとアズラットは長らく滞在していた四階層を超えて五階層へと向かうのであった。

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