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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
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005 スライムの生態

 スライム穴から出て人間に倒されただろう魔物の死体を食べる毎日。

 とうぜんながら地道な努力とはいえ、力ある者の肉を食べればスライムは成長する。

 しかし、よくよく観察してみるとスライムにも面白い特徴が見える。


(スライムは食べると増える……分裂するのか)


 スライムは死体を食べると大きくなる。

 徐々に徐々に大きくなり、ある程度大きくなると分裂する。

 スライムの増殖方法は有性生殖ではなく無性生殖、自分のコピーを作るような分裂である。

 そもそも見た目で性差などわからないし、核を中心とした生物にどうやって生殖行為をしろと言うのか。

 仮に生殖で増えるとすればどうやって生み出すのかも疑問である。

 ちなみに分裂方法はまるで細胞分裂するかのような……といった表現が近い物だろう。


(……俺も分裂するのか? あんな感じに? もしかして俺が増える可能性も?)

『ありません』

(うおっ!?)『と、突然声をかけてくるのはびっくりすると思います!』

『ご、ごめんなさい……でも、変なことを考えていたのでつい……』


 ついでいきなり声をかけられればびっくりする。

 もっとも、普段からアノーゼからのアナウンスは突然である。


『えっと、アズさんは特殊なスライムです。分裂することは不可能ではないですがアズさんが増えることはありません』

『へえ、分裂できるのか…………どうやって?』


 アズラットは自身の分裂方法など知らない。

 そもそもアズラットは自分の生態でも知らないことが多い。

 スライムとなったアズラットも、なんとなく本能的に察せることはある。

 体の動かし方や食事法など。

 だが、生殖、分裂に関することはアズラットは本能的な部分でも理解することができていない。


『そうですね、スライムはある一定以上の食事をし、大きくなることで自分の分身ともいえるスライムを増やすことができます。ただ、アズさんの場合は人間の知識や意思体が宿っていますから、自分の分身を増やすようにする分裂は難しいでしょう。そもそも、スライムの分身はレベルの分割に等しい、サイズの分割に等しい行為ですから、アズさんのように強くなりたいと言う意思と分裂行為は相反する内容に近いです。それにアズさんの場合、分裂する必然性が思い当たらないでしょう? スライムを増やすというのは人間で言えば子孫を残す行為、人間であったころならばともかくスライムである今、子孫を残す必要性を考えることはないのではないですか?』

『…………ふむ』


 スライムの分裂は自己分裂に近い行為ではあるが、同時に生殖行為、子を残すと言う行為でもある。

 生物として子を生し子孫繁栄、種を残すのは普通のことであり、スライムもまたその例にもれず子を作る。

 だが、アズラットの場合、スライムではあるが宿る意思はスライムとは別の存在であり、それゆえに子を残す必要性が思い浮かばない。

 スライムではないのにスライムである子を残す必要性に思い至らないゆえに、分裂行為に意識が繋がらない。

 また、分裂行為は自身を削ることに等しく、それにより上がったレベルや大きくなった体が削られ小さくなる。

 大きく強く、生き残るために強さを得ることを選んだアズラットには自身の喪失による弱体化は致命的な行為ともいえる。


『それは確かにやる必要性の無いこと……かな?』

『ですよね。ですからあまり考える必要はないと思います』

『んー……少し聞いてもいいか?』

『はい、何でも聞いてください!』


 嬉しそうにアノーゼが応える。

 アノーゼにとってアズラットに頼みごとをされることはとても嬉しいことだ。

 頼られる、というのはそれだけ信頼、信用されていると言うことでもある。

 伊達に寵愛を与えているわけではない。

 そういった心の繋がりはアノーゼにとってとても重要なものだ。


『スライムって何ができる? 一応体を動かしてみたりして慣れている感じはあるが、何ができるとかあれこれわからない部分が多くて。さっきの分裂も、食事したスライムが分裂するのを見て初めてそうできるのを知ったんだ』


 アズラットはスライムになったばかりの存在。

 そして、何よりもスライムとして生まれるはずではない存在である。

 何の因果かスライムに人の知識を持って宿った彼はスライムの体を十全に扱えない。


『そうですね…………現状の初期レベルのスライムではできることは少ないでしょう。スライムは数多くの種を持つ者であり、マグマ、アクア、アイスの属性スライムから、レッド、イエロー、グリーンの色のスライム、それ以外にも様々な性質を有することのある環境適応能力の高い生物です。水中にも適性があり、アズさんでも水中に潜り行動することは出来ます』

『へえ』

『でも、代わりにスライムは移動能力が低い……移動速度の極端な鈍重さ、また機敏な行動、反射的な行動が難しいと言うのがあります。それは実感できていますよね?』

『まあ、そうだな……』

『スライムはその液状の体を操作し色々とすることができます。生物に取り付いたり、触手のように伸ばしたり。ですが、今のアズさんはスライム、スライム種でも最もレベルの低い最低位のスライムです。せめて一段進化しないとそういったことは碌にできないと思います』

『進化?』


 今のアズラットでは特に何かできる、というほどできることは少ない。

 せいぜいが高い消化能力を有するくらいだ。

 その消化能力でも、一部の金属の消化は難しく、無機物系は有機物よりも消化に時間がかかる。

 だが、アノーゼは進化について言及する。


『はい、進化です……スライムに限らず、魔物の多くは進化することが可能な種が多いです。進化すれば、今よりも断然強くなれますよ!』

『進化か……そういうのあるのか』

『具体的には、アズさんの場合レベル十を目指しましょう。十の桁の数字がそのままスライムの各位になりますから』

『なんとまあ、具体的と言うかシステム的と言うか……』


 ステータスを見ればわかることだが、魔物の多くはステータスを見れない。

 鑑定能力でもあればそのステータスで相手の魔物のレベルを確認できるだろう。

 そうしてレベルを確認すれば相手がどの程度の強さの段階にあるかが分かることだ。

 見た目の差が少なくとも、レベルで判断できる。

 このレベル差による種族の違い、各位の存在は意外に重要なものであり、レベル九とレベル十で起こる進化は大きな差となる。

 スライムの場合、進化先はビッグスライムだが、スライムの大きさと強さに対しビッグスライムの大きさと強さは十倍はある。

 レベルではたった一の差なのに、強さでは十倍以上の差となるのだ。

 それくらいに進化は重要な代物である。

 なお、スライムだから十で進化できるのであり、他の種では別のレベル帯での進化であったり、特殊な進化条件を有することもある。


『それと、進化すれば獲得できるスキルが一増えるのでお得ですよ!』

『そうなの?』

『はい。スライム種は初期段階でスキル一つ、一段進化するたびに獲得できるスキルが一つ増えます。魔物にもよりますが、だいたい魔物のスキル獲得数は進化ごとに一つ増えるというのが一般的ですね』

『…………魔物以外は?』

『人間は最初からスキルが三つ獲得できます。レベルが五上がるごとに獲得できるスキルが一つ増えます』

『人間優遇され過ぎじゃない?』


 通常なら、スライムで例えるとレベル二十で二段目の進化をしたスライムが三つのスキルを獲得できる。

 それに対し人間の場合その段階で七つのスキルを有することができる。

 スキルと言う点において人間が魔物よりもはるかに優遇されていると言っていい。

 だが、それはスキルと言う点においての話である。

 確かにスキルの差はそれなりに大きい事項ではある。


『でも、魔物は進化ができますから……それに多くの魔物は同じレベルであれば身体能力は人間よりも優れています』

『なるほど、そのあたりでどっこいどっこいなのか……』


 生物の強さの差がある代わりにスキルの数で補う。

 人間は生物的に弱くとも、そういう面で強みを持つ。

 ゆえにこの世界で人間は魔物に負けず繁栄できているのかもしれない。

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