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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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049 人待ちの一時

 一階層。アズラットにとっては既にもう用事もない階層。

 アズラットはその場所にあるスライム穴に籠りながら時々外から入ってくる虫を取っている。

 そしてそれらを食事にしながらのんびりとしていた。


(この階層も久々だな……ここにいた頃が懐かしい)


 二階層、三階層と進み、雰囲気の変わる四階層にまでアズラットは既に進んでいる。

 今更一階層に戻る必要もないし、戻らなければいけない理由もない。

 ゆえに今回のようなことがなければ戻る必要もなかった。

 いや、今回のことも別に戻る必要性がなかったと言える。

 ネーデのことはネーデがするべきことであり、アズラットにかかわりはない。

 アズラットとしてはネーデに頼られていると言う立場であるだけである。

 なのでアズラットがそこまでネーデに気を使う必要性はなかっただろう。

 それこそ四階層で待ち合わせにしてもよかったはずだ。


(しかし……装備に食事、その他多様な道具か。そういうのはそういえば考えたことはなかったな)


 ネーデは冒険者としては大した実力ではない。

 それゆえに一日で入って戻るのが基本だった。

 それで三階層に来たばかりでいきなり魔狼に襲われその後ゴブリンに攫われ帰ることができなくなった。

 そんな彼女であるが、一日で迷宮の外に出るとしてもそれなりに道具は持ち込んでいる。

 昼食として食べる携帯食、必要な時に呑む水、生理用品の類など。

 もっともそれは魔狼に襲われ落とし、ゴブリンたちに攫われ回収不可となったことだろう。

 その後は恐らく誰かに拾われたかスライムの餌になったことだろう。

 冒険者カードだけは常に身に着けていたこともあり何とか残ったようだが。


(……っていうか、今まで食事が肉ばっかだったけど大丈夫なのかな?)


 迷宮ではまともな食材を得られない。基本的に得られる食材は肉ばかり。

 というのもそこにいる魔物の問題がある。

 鼠蝙蝠蜥蜴狼、人型ならばゴブリンなどがいるくらい。

 ゾンビやスケルトンは肉として食らうには向かず、スライムはどちらかというと液体要素が多い。

 四階層にいる巨大熊や角河馬、石皮虎も結局は肉である。

 入り込んだ虫や微かに存在する自然的な要素もなくはないが、結局のところ主食は肉である。

 栄養的に肉ばかりというのは偏りが強すぎるのではないか?

 食物繊維などを摂る必要性はないのか? そういう風にアズラットは考えた。


『気になります?』

『そりゃ気になるって。って言うかまたいきなりだな……』

『もちろんいきなりですよ? 目の前にいることができないのですから話しかけるときはいきなりになるのは仕方がありません。事前にお話しますよーって通達するわけにもいきませんからね。無言を<アナウンス>で送ってもいいかもしれませんが』


 アノーゼはこの世界に実在しない存在。

 <アナウンス>でのみ現状はコンタクトの出来る相手である。

 それこそ彼女がアズラットの作り上げた空想の存在である可能性すらあり得るかもしれないのである。

 そんなそこにいない相手であるがゆえに、会話は<アナウンス>で突然連絡してくる以外のものしかできない。

 なのでどんな時もアズラットからすればいきなりなのである。

 なお、アノーゼからはどれだけ急に連絡してもいきなりにはならない。

 アズラットはアノーゼに常に観察されている。


『まあ、そんなことはどうでもいいでしょう。食事に関する問題についてですよね』

『ああ、うん。俺はスライムだから気にする必要はないんだろうけど、ネーデは違うからさ』


 アズラットはスライムなので食事に関する問題はまったく存在しない。

 スライムである彼はあらゆるすべて、肉から石などの無機物まで全ての物を食することができる。

 しかしネーデは人間である。食べることのできる物は限られる。


『まず……彼女に限った話ではありませんが、迷宮において食物とされる物は一般的には何でしょう?』

『そりゃ……魔物じゃない?』

『そうですね。他にまともな生き物がいませんし』


 迷宮内に存在する生物は基本的に魔物である。

 一階層なら入り込んだ虫、四階層なら洞窟らしくコケや僅かな植物はあるかもしれない。

 しかし基本的にそれらが存在する場所ばかりではない。


『その生き物を食べるのは?』

『え? そりゃあ………………冒険者とか、同じ魔物だな』

『そうです。魔物は魔物も食べるものです。先ほど彼女の心配をしましたが、その問題は他の魔物また同様なわけです。ですが……そもそもの疑問として。迷宮の魔物とはいったいどこからきて何を食べどのように生きるのか?』


 迷宮の魔物は何処から生まれ何処からくるのか。それはアズラットには不明なことである。

 しかし、アノーゼは一応神であるがゆえにある程度は知り得ている。

 まあ、その内容に関しては結局のところわからない点が多い、ということになるが。


『迷宮の魔物は迷宮によって生み出されるもの。一応繁殖もできますが、それは迷宮の環境が許しません』

『……まあ、そうみたいだな』

『例外はありますが繁殖のしない魔物は迷宮によって生み出される。それもすぐに活動の出来る成体として。そしてその魔物は殆どが殺し合いで失われ肉となり食される。長生きするような魔物はそう簡単には生まれない。ではこの迷宮によって生み出される魔物とは?』


 魔物でも長生きすることはなくはない。殺し合いの中経験を積み重ね生き残る者はいる。

 もっとも迷宮には冒険者が訪れ彼等によって殺されることも多い。

 迷宮の魔物の敵は魔物だけではない。

 それゆえに、今も生き残っている歴戦の魔物とは迷宮においてはそれほど多くはないだろう。


『結論から言いますと、迷宮における魔物は生まれ出た時点でその時点で生きるのに必要な要素を有した状態、それもしばらくは食物を得ずとも生き残れるほどに有する、という感じで生まれてくる……のだと思います。まあ、つまりは栄養豊富な状態であるということです。そして、それを食すると言うことは豊富な栄養を取り入れるということになる、つまり栄養的に十分な状態になるということになります』

『……つまり魔物は完全栄養食!?』

『まあ、そこまで極端ではないでしょうけど……魔物を食べている限り、少なくとも栄養失調になることはないのではないでしょうか』


 魔物は栄養的に問題の無い食物である。それがアノーゼの語った結論である。

 もちろんこれがすべて正しいとは限らない。

 アノーゼはスキルの神であり迷宮を管理する神ではないのだから。

 もっとも、迷宮に存在する冒険者たちの生活を考えれば……アノーゼの語った結論が間違っていない可能性は高い。

 彼等は迷宮に滞在する期間が長い。その間どうやって食料を確保しているのか。


『ってことは魔物を食べている限りは大丈夫なのか……』

『でも不安がないわけではありませんよ? 絶対の安全性はありません。迷宮は迷宮で、魔物は魔物なのですから』


 当たり前のことを言っているのだが、つまりはどちらも自分たちが全てを知りえるものではないということである。

 両者とも未知の多い物。絶対に安全とは言えないのだから。


『安全性と言えば……アズさんは彼女がちゃんと戻ってくるものだと思っていますか?』

『ネーデのことか?』

『はい。彼女が大人しく、目的だけを遂行しここに戻ってくる……そうなると思っていますか?』


 ネーデに関する不安。それに関してアノーゼがアズラットに訊ねてくる。

 アズラットは魔物としては異常な存在であり、人間からすればとても危険な魔物である。

 もし冒険者が発見すればその討伐に全力を費やす必要性がある、と言わざるを得ないくらいに危険である。

 なぜならゴブリンの集落を呑み込んだように、ヒュージスライムとは一種の災厄に近しい存在だ。

 ネーデは頼る者がなく、弱者であったがゆえにアズラットに頼らざるを得なかった。

 しかし今のネーデはそれなりに強い。

 アズラットがいなくとも四階層をいずれ攻略できるようになる。

 そんなネーデがアズラットを裏切らないとは言い切れない。


『……ま、不安がないわけでもない』

『なら』

『でも、信じるのも必要じゃないか? 仮にも弟子みたいなもんだしさ』

『……そうですか』


 アズラット自身完全にネーデを信頼しきっているわけではない。

 しかし、信用し信頼する。同じ人間としてアズラットはネーデを信頼する。


『ならいいです。ゆっくり待ちましょうか』

『……退屈だけどな』

『なら色々とお話ししましょう。こちらも退屈なんです』

『神様の仕事はどうした』

『ちゃんとやっていますよ?』


 そんな風にアズラットはアノーゼと会話をしながら一階層で待つ。

 その退屈しのぎの会話はネーデが戻ってくるまでの間、時々行われるのであった。

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