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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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048 一時撤退

「たあああっ!」

「ガアアアッ!」


 剣が振るわれる。それを巨大熊が避けられず体で受けることになった。

 しかし、それを受けつつも巨大熊は剣を振るった相手、少女であるネーデにその腕を振り降ろす。

 ネーデの身長は小さい。少女であるネーデに対し巨大熊は大きい。

 本来巨大熊の大きさであれば腕を振るうよりは体当たりなどをした方が攻撃しやすいだろう。

 なぜ立って攻撃しているのかは謎だが、魔物なのでそういうものだと考えればいいのだろう。

 そんなことはさておき、巨大熊の攻撃をネーデは避ける。

 今のネーデの実力であれば巨大熊の攻撃は突進ぐらいに勢いのある攻撃でなければ避けられる。


「っ! やああっ!」

「グアオッ!」


 <身体強化>による動体視力の上昇はそれなりで、今のネーデのスキルはまあまあレベルが上がっている。

 全体的な身体能力の全てが強化されているので攻撃力も回避力も上がっている。

 防御能力に関しては相手の攻撃力が高くネーデの防御力が元々低いので少し上がってもあまり意味はない。

 巨大熊は魔物であるがその名前にある通り熊、普通の熊よりは強いがそこまで極端な強さはない。

 ちまちまとネーデが傷をつけ、少しずつ体力を削っていく。


「グ……グオオオッ!」

「きゃあっ!?」


 巨大熊の大ぶりな攻撃を受け止めネーデは弾き飛ばされる。

 もっとも剣で受け止めたので何とか飛ばされる程度で済んだ。

 通常ならばこの後巨大熊の追撃が来てもおかしくはないが、今回は来ない。

 先ほどの一撃を最後に巨大熊はその体を地に横たえたのである。


「はあっ……はあ、はあっ……あ、あれ? や、やったの?」

「ガアアアアアッ!」

「ひゃあああっ!?」

『(最後まで油断するなっての! きっちり首飛ばすくらいしてから気を抜け!)』


 一瞬気を抜いたネーデに巨大熊が襲い掛かろうとした。隙を狙っていたのだろうか。

 しかしその攻撃をアズラットが上から巨大熊にのしかかり抑え込む。

 アズラットの重さが理由ではなく、本当にそれが最後の力だったのだろう。

 何かするでもなくそのまま倒れたまま力弱くなり巨大熊は息絶えた。


(……さっきのが本当に最後の一撃だったか)『(終わったぞ)』

「……本当に倒せたの?」


 ほっとした様子でネーデが息を吐き力を抜く。

 流石に巨大熊相手ではネーデもかなり疲労が大きい。


『(さっきのを油断せず対処できれば完璧だったんだが……まあ、自力で熊を倒せるくらいになってるってだけでも十分ネーデは強くなったよな)』

「そ、そうかな……?」

『(まあ、ここだと河馬に虎の二種がまだいる。特に虎は速くて硬いから辛いぞ)』

「ええっ!? そ、それもやらなきゃダメ?」

『(ダメ。特に虎はな……あの速さ、硬さに対処できるくらいに強くならないと先には進めないんじゃないかな。あれがここでは一番強いし。この先もっと強いのがいてもおかしくないはずだからな)』

「ううー…………」


 アズラットとしては強くなる目標はその階層の全ての敵を倒せるようになるくらいというのが基本である。

 別に全ての敵を倒せずとも先には進めるが、その先の階層で何が出てくるのかわからない。

 それゆえに全部を倒せるだけの実力とそれまでに得られる経験を重要視しているのである。

 当然アズラットが鍛えているネーデにもそれを要求している。

 ただ、ネーデの方はアズラットに比べ明らかに成長が早い。

 これはアズラットがスライムだったのが原因だろう。

 スライムと人間では人間の方が圧倒的に成長率が高い。

 そして四階層という過酷な戦場であるのも理由になる。

 経験値は魔物の強さで一定だが、スキルのレベルは相手との差、本人の実力でいくらか変動する。

 <危機感知>は危機を感じる機会が増えれば増えるほど強くなる。

 スキルを使う機会が増えるからだ。

 そういう意味では得たスキルを全力で使い続けなければならない四階層での戦闘はネーデを急速に強くする。


「……ねえ、熊はどうするの?」

『(基本的には俺が食べて処理する。でも、何か欲しい物でも? ああ、肉か)』

「えっ……と、その、毛皮を貰ってもいい?」

『(……まあ、いいっちゃいいけど。俺はそういうの処理の仕方とか知らないし。解体できるのか?)』

「うっ……あんまりやったことないけど……でも、そのまま運んで持ってくのは出来ないし……」

『(……どこの部分かさえ教えてくれれば俺が他の部分を食べて言ってくれた部分を残すが)』

「……うん、お願いします」


 アズラットが巨大熊の肉を食らい、頼まれた通り巨大熊の毛皮だけを何とか頑張って残した。


『(しかしそれどうするんだ? 寝るところにでも敷くのか?)』

「えっと……その……それなんだけど……」


 ネーデがなにやら言いづらそうにぼそぼそと話す。


『(ネーデ?)』

「その、一度迷宮の外に出てもいい?」

(…………ふむ)『(理由は?)』

「防具とか欲しいし……武器の調整もしたいし……たまにはお肉以外も食べたいし……色々と買って備えたいと言うか……」


 ネーデの言っていることはもっともな話である。

 今のネーデはまともな物を持っていない。

 現状のネーデの食料は迷宮で得られた魔物のみ。

 持っている装備は武器ぐらいしかまともなものがない。

 防具やそれ以外にもいろいろと日常生活を送るための道具が欲しいと思うのは当然だろう。


(ふうむ…………)


 アズラットもネーデの言い分はわからないでもない。


『(ま、確かにそうだな。でも……戻るのはいいが………………いろいろ大丈夫なのか? 俺は外についていかないぞ)』

「え……? えっ!? それ本当に!?」

『(本当だ。色々と不安が大きいからな。安全面で。もっと強くなるまで、それこそ人に襲われても大丈夫になるまでは外に出ない。ネーデと一緒だと幾らか見逃されるのかもしれないが……それでもな)』


 アズラットは幾らか迷宮内部で人間と出会っている。

 一人の時は振動感知を利用し回避していたが、ネーデといるときは数多の上に乗った状態で他の人に出会っている。

 ネーデは一人で冒険者をやっているということもあり幾らかネーデと出会う冒険者は面白い物を見たかのように見てくる。

 そしてその視線にネーデの頭の上にいるアズラットも含まれる。

 アズラット自身奇妙なものを見るかのような視線を感じていた。

 しかし、そんなネーデとアズラットに冒険者は手を出してこない。

 だいたいこの迷宮に来る冒険者で四階層に来る冒険者は新人以外は既に通り道になっている冒険者である。

 なのでネーデとアズラットの存在は気にする価値がある程のものでもない。

 多少の興味は惹くかもしれないが。


「え、じゃあ……私、置いていかれるの?」

『(それはこちらとしては主義に反するからな。一階層までは送る。そして、ネーデが外に出てから暫くは戻ってくるのを待つ。入り口付近でネーデを見かけたら合流するから、必要な物は買ったりして手に入れてきなさい。それが最大の譲歩だな)』

「…………うん、わかった」


 ネーデとしてはアズラットがネーデを置いていき下の階層へと向かうのではないかという心配がある。

 それに外に出ても他の冒険者がどうネーデに関わってくるかわからない。

 そのためアズラットがいてほしいという思いがある。

 戦闘において守ってくれるアズラットにネーデもそれなりに信頼を寄せているのである。まだまだ不信な所もあるが。

 しかしアズラットもまたネーデについていく際の心配がある。

 外における安全性がどの程度なのか。

 ネーデと一緒にいるからと言って確実に安全を確保できるとも限らない。

 ネーデごと消される危険性もあるのではないかとも考える。

 なのでアズラットはネーデについていかない。

 スキルの中には魔物を従える<従魔>というスキルが存在するが、アズラットはそれは考慮に入れていない。

 <従魔>で従えられている魔物は冒険者のパートナーであると判断され安全を確保できるが、代わりに支配下に入らなければならない。

 アズラットは誰かに従えられるつもりはない。それがたとえネーデであったとしても。

 なのでアズラットは危険のあるかもしれない外には出ず、ネーデを見送るのである。






「じゃあ、行ってくる。多分……三、四日くらいで戻ってこれると思う」

『(ああ。こっちは一応感覚的に一週間くらいまでなら待つから。あまり急がなくてもいいぞ)』


 こくりと頷きネーデは迷宮の外へと出て行った。アズラットはスライム穴に隠れる。

 こういう時スライム穴で待つと言うのは便利である。


(……一週間。迷宮内部だと一日の変化が分からないんだよな。スライムは寝る必要もないし)


 アズラットに明確な一日の判断は不可能である。

 なので一週間と言ったがもっと待つことになるかもしれない。

 まあ、それはネーデが戻ってこない場合で戻ってくるのならば心配はない。

 一応アズラットもネーデに対してはある程度の信頼はある。なのでそこまでは心配していない。

 しかし世の中に絶対と言えることはそうないため、警戒もしている。

 そうして一階層の入り口付近のスライム穴にアズラットは隠れ、ネーデが戻ってくるのを待つのであった。

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