表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
45/356

045 人のスキル

 アズラットはアノーゼの提案に少し悩むように唸る。


『ううむ……まあ、そりゃそうだって話なんだけどな……』

『なんですか? 何か問題あります?』

『いや、ネーデの人生はネーデの物だろ? あまり強く干渉しすぎるのはどうかなとは思うんだが』

『わかります、気持ちはよくわかります……ですが、アズさんには干渉しても構わない権利があると思いますよ?』

『……それはどういう?』


 アノーゼはアズラットにはネーデの人生を好きにしても構わない権利がある、と言う。

 いや、そこまでアノーゼは強く言い放ってはいない。

 しかし彼女としてはそれくらい構わないと思う所であるようだ。


『彼女はアズさんに命を救われています。いえ、殺されるわけではなかったでしょうから人生を救われた、という所でしょうか? まあ結末が死であることに変わりがないので結局命を救われたと言ってもいいです。そして、その後もアズさんに戦闘の手助け、強くなるための補助、この迷宮の攻略に携わることになっているのでしょう? であればアズさんは彼女に対し莫大な貸しがあると言うことではないでしょうか? その貸しを彼女を強くするためのスキルを覚えさせるために使うのであれば全く問題の無い、むしろまた貸しが増えるような話ではないですか?』

『そういうものかなあ?』


 アノーゼの言う理論はアズラットにとっては少し受け入れにくい内容であった。

 しかし、実際にはアノーゼの言うことも間違ってはいないである。

 そもそもスキルを自発的に覚えると言うことをネーデは知らなかった。

 その時点で覚えるべきスキルに関してアズラットから色々話を聞いて、教えられ、そして自分の力となるスキルを覚える。

 それに何の問題があると言うのか。


『そういうものです』

『……』

『だいたい既に<危機感知>を覚えさせているのでしょう? なら他のスキルを覚えさせるのに何の問題がありますか? 彼女はアズさんの言うことを聞いてくれるのでしょう? 師として、教えるものとして、導くものとして、彼女のためになるものを覚えさせるのであれば何も問題はないはずです』


 一度ネーデに<危機感知>のスキルをアズラットは覚えさせている。

 であれば今更他のスキルを覚えさせるのに何の問題があるのか。

 一回やったのなら二回やっても構わない。少なくともネーデが問題ないと言うのなら問題はない。

 役に立たないスキルを覚えさせるわけではないのだ。

 役に立つスキルを覚えさせるのに何の問題があるのか。


『うーん…………』

『そこまで嫌ですか? では一度発想を変えてみるのはどうでしょうか』

『発想を変える?』

『はい。覚えさせるかどうか、を決めるのは後に回すとして、何を覚えさせるかです』


 微妙に言い回しでアノーゼがアズラットを誘導している。

 どうするかを決めていない段階で何を覚えさせるのかを決める。

 一度決めてしまえばあとはどうするかを決めるだけ、そしてそれをネーデに訊ねればいい。

 アズラットがネーデのために、と決めたことにネーデは否と答えることはないはずである。

 少なくともアノーゼはそう考えている。


『何を覚えさせるか、か』

『彼女は人間ですからアズラットさんとは覚えるスキルが違います。まあ、人間は基本的に覚えられるスキルを考える必要はあまりなかったりします』

『そうなのか?』

『はい。人間はスキルを覚えやすい、というのは前に言ったことがあったような気もしないでもないかもしれないですが』

『言い回し』

『多分言ったと思いますが、人間は覚えるスキルが多い。具体的には生まれつき三つ、レベルが五あがるごとに一つ枠が増える。つまり今の彼女はレベルが十なので彼女の覚えられるスキルの枠は五つ。これが魔物、アズさんみたいなスライム種の場合……レベルが十でビッグスライムに進化して二つ覚えられると言うのが一般的になりますね。つまり人間はスキル的にかなり優遇されています。これに関しては人間は他の生物よりも肉体的に脆弱である、という点が加味された結果、種族スキル、種族の特性、種族の性質としてスキルに対する適性が高いという特徴を持つわけです。まあ、それでも覚えることの出来ないスキルもないわけではありません。そのあたりの出来る出来ないは色々複雑ですが、生物として不可能なものはまず覚えることができないでしょう』


 アノーゼはスキルの神である。

 ゆえにスキルに関する話は彼女にとっては自分の専門分野であり話が長い。

 要はネーデのような人間は殆ど全てのスキルを覚えることができる、今のネーデはあと三つスキルを覚えられるということだ。


『あらゆるスキルを覚えられるのは利点ですが、しかしそれは同時に何を覚えればいいのか迷う結果にもなります。これしか覚えることができないという状況ならばそれを覚えれば済みますが、選択肢が増えるとやはりどれを選べばいいのかという話になります』

『そうだな』

『ですので、彼女には一体何が必要なのか? 何が足りていないのか? それを考えるべきですよね』


 一体今のネーデに足りていないものは何なのか? それを示し、それを補うスキルを得る。

 もしくは今のネーデができること、そこから一つを選択し特化させるのも一つの選択肢である。

 しかし今はその特化させられるほどにこれに秀でている、というものはない。

 せいぜいがスキルで持っている<剣術>くらいか。


『そうだな。まずネーデに足りていないのは小さいが数で襲ってくる相手への対処法、体力や防御力の高い相手に有効な高い攻撃力、基本的にはそんな感じか。防御も気になるが、防御は装備さえきちんとすればいいし最悪俺が守りになるのもありだ。戦闘は基本的に俺が戦う時以外は彼女が攻撃して倒せなければならない。小さな相手、数で攻める相手、防御力の高い相手、そういった相手に攻撃を通す手段が欲しいよな』

『小さい相手、数で攻める相手、防御の高い相手……種類は多いですが全部にそれぞれ対応するスキルを覚えさせる、というわけには流石に行きませんよね』

『そりゃあな。できれば一つで済ませたいところだが……』

『そんな都合のいいスキルなんてありませんよ? まあ、そうですね……やはり単純に攻撃力を上げればいいと思います。小さいと当てづらいのはしかたありませんが、薙ぎ払ったら全滅させるくらいに強い攻撃ができれば当てることを意識しなくてもいいですから』

『無茶言うなよ……』


 アノーゼの言った話はどう考えても無茶な話である。

 まあ、確かに大雑把でも広範囲に強力な一撃ができれば防御も数も関係ないだろう。

 数が厄介なのは一々一匹一匹相手しなければならないためで、それが豆腐のようにまとめて切り裂けるのであれば困難ではない。

 小さい相手は厄介だがそこはネーデが鍛えれば済む。

 小さく数で攻めてくるなら大きな一振りで薙ぎ払えるようになればいいだろう。

 それらの目的を行うために得るべきものとして一番簡単なのが単純に強い攻撃力になる。

 しかし、そんな強化を簡単にできるほど世の中は簡単ではない。

 そんな都合がいい便利で万能なスキルがあるわけがない。


『そうですね、確かに簡単に覚えればそれですむスキルはないですね。すぐそんなことができるのならば誰も苦労はしません……ですが、単純に攻撃力防御力を上げられるスキルはありますよ?』

『……どんなスキル?』

『<身体強化>です。攻撃力に特化させたいのなら<怪力>や<剛力>でもいいかもしれません。防御力だけなら<防御>や<守護>などもいいかもしれません。ですがどちらも強くしたいのなら、<肉体強化>や<身体強化>などの全体的な物でしょうね』

『それ、どう違うんだ? 肉体も身体もそこまで違わないんじゃ?』


 スキルの中にはこういったわかりにくい違いという物がある。

 例えばネーデの覚えた<危機感知>というスキルだが、近い物に<危険感知>というスキルがある。

 また<危機察知>、<危機探知>のスキルもある。

 こういった微妙な違いは地味にスキルに反映されているが分かりにくい。


『単純に反映の仕方でしょうか? 肉体と言うと体の全て、筋肉や神経など、そういった肉体そのものの強化になります。身体ですとその体の全体、そうですね、自分の身体をまとめてひっくるめて強化する、という感じです。<肉体強化>は生物的に身体能力を強化する、<身体強化>は身体能力をステータス的に強化する、といった感じでしょうか?』

『……わからん』


 アノーゼの話す内容はこの世界のものでない人としての知識もあるアズラットですらもわかりづらい。


『まあ、とりあえず<身体強化>を私からはお勧めします。戦闘能力、攻撃防御ひっくるめて高まりますし、<危機感知>との相性もいいでしょう。避ける速度も上がるわけですから』

『<肉体強化>はお勧めしないのか?』

『今の彼女ではお勧めできませんね……幼い体には反動が危険な可能性が高いです。それならステータス的に上昇する<身体強化>の方がいいでしょう』

『ああ、なるほど』


 ひとまずアズラットはネーデに対し<身体強化>のスキルの取得を提案することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ