044 アノーゼに相談
ゴブリンを倒したネーデはそのまま集落で休む。その日はそれでゆっくり休んだ。
その次の日。その日にやったことは食料集めである。
彼らの生活している迷宮において食料となる物は基本的に魔物の肉である。
一階層から三階層まで生息している魔物では主に大鼠、大蝙蝠、大蜥蜴、魔狼が一般的。
ゴブリンに関しては基本的に食用にはしない。
できなくはないが人型の魔物はあまり味がよくない。
他の魔物は良いのか、と言われると微妙なところであるが人型と獣型であれば基本的には獣の方が味がいい。
四階層では巨大熊や角河馬、石皮虎と獣系でそれなりに美味い魔物もいるが強さが全く違う。
他にも大蜥蜴大鼠大蝙蝠とそれまでの階層にいた魔物もいる。
ゾンビやスライムは食用に向いていない。
ネーデにとっては三階層に魔狼を狩りに戻りたいところであるが、四階層から移動するのは大変である。
ゆえに四階層での狩りとなるのだが、これもやはり大変である。
前日での戦闘結果を見ればわかるが数の有利に攻撃能力の乏しさ、防御力の低さなど厳しい戦いばかり。
アズラットの手助けがあるので狩り自体はそこまで困難ではないがそれでも大変である。
ちなみに大きな獲物をアズラットが狩り殺して回収すると言うのも考慮された。
しかしそれは拠点と使っている場所がゴブリンの集落のあった場所、入り口が小さい場所であったため無理と判断。
そのため基本的には鼠と蝙蝠と蜥蜴が彼女の食事である。まああるだけましというべきか。
水分に関しては迷宮には壁から水が出ているような場所があったりするので問題ない。
そもそも彼女たちが拠点としている場所はゴブリンが集落を作っていたことを考えると水があるはずだ。
そういった感じでそれなりに食事や水などの問題は解決していた。
「………………」
『(大丈夫か?)』
「ちょっと…………ダメかも……」
食事や水は問題ない。しかしネーデは幼くまだまだ弱い肉体の出来ていない少女。
それゆえに連日のアズラットの特訓のせいもあってネーデは疲労で倒れてしまった。
『(まあ、今日は休んでていいか。ずっと戦ってばかりってのもつらいだろ。食料とかも俺の方で確保してくるからネーデは休んでろ。ここにある分は食べることができそうなら食べておけ。体力付けておかないとつらいからな)』
「はい…………」
そうしてアズラットはネーデから離れる。ここの集落の安全は一度完全に探索して確保している。
しかしアズラットが外に出るとなるとネーデの安全はどうしても完全に守られるわけではない。
ここに戻ってきたときのようにまだ外に残っているゴブリンが戻ってくる可能性もある。
そういうこともあってアズラットは入り口に出てきてあまりそこから離れず近くに寄ってきた魔物を狩ることにした。
(安全は確保しておかないとな…………)
四階層は既にアズラットにとっては問題の無い階層となっている。
巨大熊、角河馬と四階層の中でも強い方の魔物も今のアズラットならば十分に倒せる。
つらいのは石皮虎。捕らえることさえできればアズラットでも十分倒せるが、動きが早い。
そういう本能か、またはスキルでもあるのかアズラットが攻撃しようとすると的確に避けるのである。
それさえ倒せれば後はネーデが強くなれば先に進むことも考慮に入る。
(……しかし、ネーデはどう育てればいいのか)
ネーデの強さは大した強さではない。
これはアズラットがネーデの戦闘の様子を見てそう判断した。
まあ今弱くともアズラットが鍛えるのであるが、これといった特徴もない彼女をどう育てるべきか。
スキル的には元々持っていた<剣術>とアズラットが覚えさせた<危機感知>を持っているので戦士系にするべきなのだろう。
しかし、今のネーデの身体能力ではどうしてもそうさせるには弱い。
できなくもないがこれからやっていけるのか不安が大きい所であった。
それゆえにどう育てればいいのか、どう育てていくのがいいのかとアズラットは考えている。
(こういう時アノーゼに頼れれば……)
『呼びましたかアズさん!』
(のおっ!? 不意打ち!?)
久々のアノーゼの登場。
今まで連絡が取れなかったがようやく連絡が取れるようになったということだろう。
アズラットはいつもステータスを確認しているわけではない。
それゆえに<アナウンス>のスキルが復帰しているのに気づかなかった。
『アノーゼ? ストーカー気質のアノーゼさんですかな?』
『誰がストーカー気質ですか!? いえ、まあアズさんに関してのみは否定できないかもしれませんが』
『否定してくれよ……いや、まあいいんだけど。あれ? もう話せるようになったの?』
『はい! スキルで<アナウンス>の項目を確認すれば既に<アナウンス>が復帰しているのが分かりますよ』
『マジでかー』
確認すれば分かると言われたが、直接話をしている以上話せることが分かっているのだから確認する意味もない。
そういうことでアズラットは自分のステータスは確認せず話を続ける。
『それで、アノーゼに頼みたいこと……というよりは頼りたいこと、相談したいことがあるんだけど?』
『はい、別にいいですよ。まあ既にアズさんを見続けている私にはわかっています……アズさんを頭に張り付けたあの泥棒猫のことですね!』
『おい……』
『冗談です』
『冗談には聞こえないんだが……』
『冗談は冗談です。冒険者の少女である彼女……ネーデという子をどう育てればいいのか、そういうことに関しての話ですよね?』
『ああ、うん、そうだよ』
アノーゼは基本的にボケているのか本気で言っているのか発言の真贋がわかりにくい。
彼女は基本的に嘘はつかないのだが、言い回しは色々と変えていることが多い。
そのせいもあって色々と発言が怖い。
元々彼女がストーカーっぽいのはアズラットの行動をつぶさに観察している様からもわかる。
そしてその周りに女性の影があればそれに敵意を向けるのは女性としての精神的にわからなくもない。
まあ彼女にとってアズラットの周りに女性が増えても構わないようだ。
今回のようなボケをかましてくるのが困るところだが。
『少し色々と彼女の情報を見させてもらっていますが……難しい話です。まず年齢が幼いこと。成人していない幼い少女である彼女はどうしても肉体がまだ発展途上の段階です。これから年を重ね成長すれば十分レベルに見合った……女性冒険者としての肉体の強さを得られるでしょう。しかし今すぐはレベルを上げてもどうにも厳しい所があります』
『そうだな……子供のままだとやっぱりきついってことか』
ネーデの最大の問題は年齢による肉体の完成度が低いこと。
成人は大人として扱う年齢のことだが実際に肉体の年齢が大人として扱われる年齢でもある。
そもそも、なぜその年齢が成人として扱われるのかは肉体がきちんと出来上がる年齢だから、というのが大きいだろう。
『はい。でも、だから育てることができないと捨てるわけにもいかないのでしょう?』
『そんなことするつもりはない。一度きちんと受け入れて担当する以上ちゃんと育てるのは当然だろう』
『そうですね……最後まで育てきるまで責任を持って付き合う。それは当然と言えば当然でしょう。なので私からアズさんにお勧めする一つの提案が』
『それは……?』
<アナウンス>越しでも彼女がにっこりと笑う姿が浮かぶくらいの嬉しそうな声で彼女は言う。
『スキルを覚えましょう!』




