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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
二章 魔物と人の二人組
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043 四階層の壁

「ひゃあああああああああっ!?」


 四階層。そこに戻って来たネーデとアズラット。

 向かう先はゴブリンの集落だった場所……なのだが。

 そこに向かうまで、四階層に入ってすぐに大蝙蝠の群れに襲われかける。

 ネーデが扱う武器は剣である。

 それゆえに空を飛ぶ相手、小さい敵、集団で襲ってくる魔物、そんな相手に対抗する手段がない。

 一匹二匹ならまだ相手もできるだろう。

 しかし相手の数が十や二十となればネーデではどうしようもない。


『(まったく……)』


 頭の上のアズラットが膨れ上がり蝙蝠たちを飲み込む。

 数匹は何とか避けることができたようだ。

 その数匹はアズラットに怯えすぐに逃げ出した。


(これでよ……っと)『(ネーデ? 大丈夫か?)』

「ア、アズラットさん、戻って、お、重……」

『(ああ……なぜか知らないけど圧縮解除すると重くなるんだよなあ)』


 アズラットの体は実際にはゴブリンの集落を飲み込んだ時くらいの大きさを持つ。

 しかし普段は体は普通のスライムのときと同じ大きさである。

 これは大きな体を圧縮によってその大きさまで縮めて維持している状態である。

 なので本来重さは変わらないはずなのだが……小さくするとネーデの頭の上に乗れるくらいの重さになる。

 一体なぜか。恐らくはスキルの恩恵なのだとアズラットは考えている。

 しかし実際のところはわからない。

 そんなことを考えつつアズラットはネーデの頭の上で小さな大きさに戻る。


『(ほら、こんなもんでいいだろ)』

「はあ……死ぬかと思った」

『(蝙蝠に襲われて吸いつくされる方がよかったか?)』

「そそそ、そんなことないからっ!?」


 流石にアズラットなしでネーデが四階層を進めるはずがない。

 ここはアズラットに頼るしかないネーデである。

 と、そんな風に完全にアズラット頼りなのが四階層である。


「ひぃいいいいいいいいっ!?」


 ざざざと大地を走る黒い影。

 四階層には群れの魔物は二種類。大蝙蝠と大鼠。

 空を大蝙蝠が飛び回り大地を大鼠が駆け巡る。

 地を征く冒険者はその両方に襲われる危険がある。

 先ほど大蝙蝠に襲われたのを助けられたネーデは今度は大鼠に襲われかけていた。


(またか!)


 ネーデの頭の上からアズラットが圧縮解除しながら飛び降りる。

 そのままネーデの壁となり大鼠の群れを受け止める。

 アズラットの体に入り込んだ鼠たち、そのまま後続が突き当たり奥へと入る。

 スキルを使えるスライムゆえに消化に圧縮、体内に入ると攻撃手段が多様である。

 あっさり鼠を食らいつくす。

 ざざざと走りながらアズラットから逃げた鼠もいるが大体は喰らいつくした様子である。


『(……ふう。ネーデ、無事かー)』

「はいぃ…………」

『(じゃあ乗っかるぞー)』

「あ、はい……どうぞー」


 ネーデの上に戻るアズラット。もはやネーデの頭の上はアズラットの定位置である。

 そうしてそろそろ例の小穴、というところでまた魔物である。


「やああああああっ!」


 今度は相手は一匹だったのでネーデから斬りかかる。

 この魔物は三階層で見覚えのある魔狼に近い見た目であった。

 身体能力的にも大差はない。それゆえにネーデは自分でも倒せるだろうと思っていた様子だ。

 しかしいくら斬りつけようとも動きは鈍らず苦痛に喘ぐ様子もなく。

 ただネーデに襲い掛かってくる。


「ひええええええええええっ!?」


 たった一匹なのにネーデが不利になる。

 いくら斬りつけようとも死なず倒れず……血もあまり出ない。


『(首を落とせ!)』

「ふぐっ! やってみ、るっ!」


 アズラットに言われた通り狙いを首だけに絞り襲ってきた狼に対し攻撃する。

 何度か攻撃をして、ようやく首を斬りおとした。首を斬りおとしても少し体が動いていた。

 しかし、すぐにふらりと倒れ動かなくなる。


「はあぁー…………怖かった……」

『(お疲れさん)』

「はい……何で今の魔物は攻撃しても倒れなかったの?」

『(あれゾンビだろうからな。もう死んでるから幾ら攻撃したところであまり意味がない。首を斬り落としたり四肢を斬りおとして動けなくしたり、体を半分くらいにしないとまだまだ動くから)』

「ゾンビ……それでかー」


 ネーデの戦闘力の欠点の一つがここでまた新たにわかる。攻撃の威力の問題。

 仮に今回の相手が一撃で奥深くまで切り裂けるのであればネーデは苦戦することはなかっただろう。

 武器の問題……というよりはネーデの腕と身体能力の問題といったところだろう。

 一朝一夕で身につくものではない。


『(のんびりしていないで穴に逃げ込むぞ。まだそこら中に魔物は居るんだからな)』

「そ、そうだった! まだ安全じゃないんだね。早く……休みたい……」


 四階層は過酷である。一階層から三階層までの大人しい魔物の種類と数ではない。

 それまでの倍くらいの魔物がいる。そしてその強さも厄介さも跳ね上がっている。

 三階層に出てくる魔狼はこの階層の前座ともいえる魔物である。数の暴力を教えてくれる。

 まあ、四階層の魔物は数の暴力でも勝てないような強さを持っていたり、数の暴力も魔狼とは比べようもない数であったり。

 そんな階層であるがゆえに、この迷宮、竜生迷宮において四階層という場所は冒険者にとっては壁になる階層である。

 そして今のネーデではどうしても実力的には到底攻略できそうにないような階層である。


「これ、入るのはできるけど……」

『(中は狭いからな。俺が先に進む)』

「お願い」


 ゴブリンの集落だった場所に通じる道はかなり狭い。

 ゴブリンならば狭いが苦もなく通れるとしても人は違う。

 ネーデはまだ幼く小さめだが、それでも体を下げなければ進めない。

 それゆえにネーデが進むには危険すぎる。

 体を下げている状態で先に何かいたら戦闘できない。

 なのでアズラットが先を進む形である。

 アズラットならば何がいようと対処できるし道を塞ぐことでネーデの安全を守れる。

 そうしてアズラットとネーデは小道を抜けて集落であった場所、今では少しの建物が残るだけの場所についたのである。


「っ!? 魔物が!」

『(まあ、いるかなとは思ってたが……やっぱり残ってたか)』


 ネーデがこの隠れた場所に存在する魔物に驚いた様子に声を上げる。

 対照的にアズラットは冷静である。

 その魔物は人の姿を持ち、小型で武器を持っている。つまりはゴブリンである。

 ここにゴブリンがいる理由は別に難しい話ではない。ここはゴブリンの集落であったのだから。

 この場所にいた頭のいいゴブリンから指示を受け彼らは外へと出ていた。

 人や魔物を餌として持ち帰るために。

 武器を持ったゴブリンたち。その集団。彼らはネーデを見てギャッギャッと騒ぎ出す。

 何故ここにいるのか、この場所に他のゴブリンがいないのはなぜか。彼らも疑問はあるだろう。

 だがそれ以上に、目の前に一応穴のある性別女の人間がいる。

 そういうことで彼らは倒して襲おうとする。

 彼等も集落があった頃に数は少ないながらも既に経験済みである。

 その楽しさを覚えてしまっている。


「ギギャッ!」

「ギギギーッ!」


 ゴブリンが叫びながらアズラットとネーデに向かってくる。

 数は五匹、三階層にいた一般的な群れの数。


『(ネーデ)』

「う、うん!」

『(殺すぞ。スケルトンよりも小さくて厄介さは上、数もいる。油断するなよ)』

「わ、わかった!」


 ふるふるとネーデが震えながら答える。

 前にゴブリンに掴まったのが恐怖症になっているのかとアズラットは思った。

 もっとも彼女が震えている理由はアズラットの<念話>による会話があまりにも冷たく感じて怖かったりするからである。

 ネーデよりもアズラットのほうがゴブリンたちに対する負の感情は大きいようである。

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