041 三階層での修行風景
三階層。魔狼や武器持ちのスケルトンが敵として出現する階層である。
今はまだゴブリンたちも残っているが、それもいずれ居なくなる。
彼らのリーダーであるゴブリンたちに指示を出す存在、そして集落が滅んだ。
また同じような存在が生まれない限りは四階層で細々と過ごすようになるだろう。
本来迷宮にいるゴブリンにそういったものを作る能力は殆ど無い。
さて、そんな話はさておくとして、三階層における脅威は基本的に魔狼である。
数を揃え、連携をとった戦闘を行う魔狼は初めて三階層に侵入した多くの冒険者を食い殺す。
「やあああああっ!!」
そんな魔狼に挑む一人の冒険者がいる。幼さを残す、未だ成人していな少女。
そんな少女が魔狼に斬りかかるが単調で単純な一撃でやられるほど魔狼も甘くはない。
魔狼は後方へと少女の攻撃を躱し、そのまま空いた場所に少女を誘導する。
そこを回り込むように横から他の狼たちが攻撃する。
「ひゃああっ!?」
少女に襲い掛かる二匹の狼。
しかし、その二体は少女の頭の上に張り付いてた何かによって吹き飛ばされる。
少女の頭の上に張り付いていたのは帽子のように見えなくもないかもしれない薄っすらと透明な何か。
それは一般的にスライムと呼ばれるような存在だろう。
それが少女の頭に帽子のように張り付いている。
そのスライムが己の体を一瞬で急速に伸ばし、それにより少女に襲った狼を弾き飛ばしたのである。
『(ネーデ! 攻撃したらすぐに退くこと! 相手の方が数が多いんだから突っ込んだら死ねるぞ!)』
「は、はい! ごめんなさいアズラットさん!」
少女、ネーデに対し上にいたスライムはは念話で叱責する。
<念話>を持つ稀少なスライムである。
そしてそのスライム、アズラットに少女は謝る。
助けられるようなミスをして申し訳ないと言う感じである。
『(やっぱり魔狼はきついか……? もっとスケルトン相手に戦い慣れてから挑むか、それとも二階層で修行を積んでからの方がいいか……時間はかかるけどな)』
「どうでしょう! わからないですっ!」
アズラットが色々と考えている間もネーデは魔狼たちと戦っている。
もっともアズラットも全く手を貸さないわけではない。
そんな感じでネーデは魔狼たちと戦いながら戦闘の経験を積んでいる。
戦いは少し魔狼を倒した時点で相手が逃走、ネーデもかなりの苦労をしながらも魔狼を倒せはする。
しかしかなり効率は悪いと言える。二階層で雑魚を倒しまくるほうがよほどいいくらいだろう。
(やっぱりスキルの問題か? スキルのレベルが表示されないのがな……どのくらいの強さかわからないのは面倒だ。レベルで大まかに判断は下せるんだろうが……新しいスキルを覚えて今覚えてる<剣術>の補助になるスキルを得たほうがいいか?)
ネーデの現状ではレベルの問題もあるが三階層でまともにやっていくには辛い状況である。
単純にネーデのレベルだけが問題というわけでもない。ネーデの年齢の問題もある。
ネーデの年齢はまだ成人前、そんな幼い状態ではレベルがあがってもそこまで強くなれるわけではない。
体ができた状態でなければなかなかレベルが上がることによって強くなると言うのは難しいのである。
だからこそ彼女は一人で迷宮に入り込む結果となっているのだが。
『(ネーデ)』
「なに?」
『(スキルを覚える気はあるか?)』
「……別にあんまり覚えてないからいいけど。でも何がいいの?」
『(それが問題なんだよな。今の<剣術>を補助できるようなスキルがいいのか、それとも戦闘全般に関われるスキルがいいのか、魔法とかそういう遠距離攻撃や特殊な攻撃ができるものがいいのか。もっともネーデの強さが強さだからどうするべきなのかって言われると難しいだろうけど……)』
「酷いよ、アズラットさん」
ネーデの強さが大したものではない。それはネーデ自身が一番わかっていることである。
しかし、それをはっきり言われると流石にネーデも傷つく。
アズラットはそういう点で容赦がない。
『(例えば<剣術>に合わせるなら<剣技>とか、<怪力>とかそういう感じか?)』
「力が足りてない、技が足りてないっていうならそうなのかも?」
『(まあそこはネーデが自分で強くなればいい話ではある。なので今は別にするとして、戦闘全般……となると<体捌き>とか<軽業>とか<直感>とかそういうものか? 特に<危険感知>とかそういうのがあれば襲われる場合でもすぐに何かわかる可能性はある。<感知>に関わる能力なら相手の次の行動を相手の動きから予測できるとかも可能になるかもしれん)』
「そんなの全然わからないんだけど……」
『(魔法、まあ例えば<火炎魔法>とか、<風魔法>とかあれば遠距離からの攻撃もできる。他にも流用できるだろうし……まあ、あまりこういったスキルは覚えない方がいい可能性があるな。一つ所に集中して極めるほうが強いし)』
「……そういうものなの?」
『(例えば魔法使いでも<火魔法>、<風魔法>、<水魔法>、<土魔法>と四種類の魔法を覚えるよりも、<火魔法>、<魔力強化>、<詠唱加速>、<範囲拡大>とかそういう感じで一点強化するほうが強い魔法を使えるようになるって話だ。もちろん前者の四種類の魔法が使える場合<火魔法>が効かない相手にも対処できるからどちらが良くてどちらが悪いってわけではない。どっちにもいい所はあるし悪い所もある、ってはなしだ。そこから何を選びどういう選択をするかってことになる)』
「……? よくわかんない」
『(……ネーデにはちょっと早い話だったか)』
知識の問題もあるが、ネーデ自身の経験の問題もあるのだろう。
何もできない今のネーデでは根本的な部分から何がいいのか、どうすればいいのかがわからない。
ある程度経験を得て、何が足りずどうしていくのがいいのかがわかってからでなければそういった判断をするのは難しい。
「とりあえず何かスキルを覚えればいいの?」
『(戦闘向きが一番いいだろうな。攻撃能力にするか防御能力にするかはその時々だろうが……)』
「……今の状況だと戦う力よりも守る力の方がいいかな? 全部アズラットさんに任せきりだし」
『(確かに武器は良い物を持ってるが防具は微妙か。一応探したけどあまりいいのはなかったんだろ?)』
「うん……」
ゴブリンの集落で武器防具を探したもののあまり防具でいいものはなかった。
そもそも武器と違い防具はかなり使う者を選ぶ。
性能云々の問題ではなく体に合うかどうかの問題だ。
武器ならばそこまで問題にならないが防具であると体の動きについてこないせいで動きが阻害される危険だってある。
そのせいもあって武器は良い物を得ることができたが防具はその限りではなかった。
それゆえに攻撃力はそこそこ高いが防御力は低いと言うのが今のネーデの状況である。
攻撃は当たりさえすれば有効なのならば当たれば終わりの防御能力を鍛えるほうがいい。
防御さえしっかりしていればいずれは隙をついて攻撃できるかもしれない。
『(感知、探知、攻撃を避けるためのスキル……<回避>とか? でもスキルレベルの低い状態でどこまで機能するかは怪しいよな……)』
「……わかんない」
『(一番いいのはスキルを得て実感することなんだけどな。<振動感知>か<危機感知>とかそんな感じのスキルでも得てみるのもありか? どう思う?)』
「アズラットさんの言ってることよくわからない。だから……どうすればいいのかはっきり言ってくれた方がいいよ」
『(うーん、ネーデの意思で決めるのが一番いいんだが……)』
アズラットがネーデの決めるべきことを全て決めてしまうのは良くない。
そう思うからこそネーデの意思に任せたい。
しかし、ネーデはそういう部分がよくわからない。
それゆえに決めるのはアズラットに任せたいと言うことである。
これはアズラットを信頼していると言うことなのか、それともそう言ったことが全く分からないからなのか。
『(なら万能性の高いスキルなら後に響かないからそうするのがいいか。じゃあ<危機感知>を取得してみてくれ)』
「うん、わかったよ」
そうしてネーデは<危機感知>のスキルを入手した。
それがいいことなのか悪いことなのかはわからないが。




