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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
おまけ 神生活にて
355/356

322 後日話2 実力決定戦

「ねー! 誰か戦おうよー! ここなら死なないんでしょー!!」

「……アクリエル。ちょっと我が儘はいけないと思いますよ?」


 神の世界にて、アクリエルが戦いたいと我が儘を言う。

 いや、元々彼女はそれを目的にここに来たようなものである。

 来なければ剣を取り上げられていたとはいえ、本来の目的はそれだ。

 しかし来たはいいがそれができないのは彼女にとっては問題だ。

 今の所神の来訪者もなく、他の神に関わるようなこともなく。

 彼女の満足するようなことは何一つない。戦いたがっているのである。


「ううん、アクリエルと戦うくらいいいんじゃない?」

「……ネーデ。でも」

「アクリエル、なら私と戦おう。アズラットの眷属だし、どれくらい強いのか…………本気でやってみたいかな」


 じわり、と周囲に満ちる剣気。

 ある種の威圧になるが、その程度で弱るほどここにいる者は弱者ではない。


「う、こ、怖いんだけど……」

「あ。ごめん、シエラ」

「い、いいの……でもそういうのは私がいないところでやってほしい、かな……?」


 ただ一人、この場において戦闘能力を一切持たないシエラを除き。

 神の世界に来てネーデ、クルシェ、アクリエルと戦える人物ばかり。

 アズラットももちろん含める。

 しかしシエラはそもそもの在り様、肉体すら持っていなかったことから彼女は存在としては極めて弱い。

 大本のシエラ本人も戦闘能力がなく魔物の使役でやっていた人物であり、商売人でそれ以上のものではない。

 ゆえに戦闘能力のヒエラルキーにおいて彼女は最下層である。

 まあ、色々な意味で愛される弱さを持つキャラ性なので別に構わないところかもしれない。


「とりあえず場所を移そう」

「そーだね……じゃ、とりあえずあのあたりで」

「……いいんでしょうか?」

「いいんじゃないかな? 別にアノーゼも何か問題があるなら先に言ってきてるだろうし」

「そうですね……」


 現状アノーゼが何か言ってくるようなこともない。

 こんな神の世界でもアノーゼはアズラットに視線を向けている。

 常に視界の一部にアズラットの周囲状況を映しているらしい。ガチのストーカーである。

 まあ、そういうことなのでこちら側で何か問題があるならアノーゼから連絡があるだろう。

 それがないということは別に問題がないということである。

 と、いうことで二人は場所を移し戦うこととなった。






「じゃあ、とりあえずどっちかが死んだら負け、敗北ということでいいか?」

「いいよ」

「いいよー!」

「よしっ! じゃあはじめっ!」


 アズラットの合図でアクリエルが先に動き出す。それに対しネーデは動きを見せない。


「やあっ!」

「ふっ!」


 アクリエルが振るう剣にネーデは剣を合わせる。

 剣と剣のぶつかり合い、その結果アクリエルが弾き飛ばされた。


「っ! まだ、行くよっ!」


 たん、たん、たんとアクリエルは己の動きを揺さぶりネーデに対してフェイントをかける。

 アクリエルは戦闘に対する感、直感的な物が強い。

 ただ剣を振るうだけでは絶対に勝てないと理解した。

 ゆえに己の動きを読ませない動きをして、そうして戦う。


「はっ!」

「遅い」


 しかし、そんな多少の揺さぶりで動揺するようなネーデではない。

 単純な戦闘経験でいえば彼女はアクリエルよりも戦闘を経験している。


「っ!」

「強者との経験と言う点ではあなたより私の方が多いよ。だから……」


 とん、と軽く地面を蹴る。それだけでアクリエルの目の前にネーデが移動していた。


「あなたに勝ち目はない。アクリエル、あなたは全然弱いの。一人で神に至った私と比べれば全然ね」

「あああああああっ!」


 アクリエルの全力の一撃も、ネーデには届かない。

 たとえ魔剣を持っていたとしても、その一撃は届かない。

 ネーデの持っていた人間時代のスキル。

 かなりの数であり、強力なスキルも多く、戦闘にて鍛えられた。

 今そのスキルの多くをネーデは使わずにアクリエルを圧倒している。

 単純にネーデとアクリエルでは戦闘経験が違う。

 強者との戦闘回数もそうだが相手にする魔物の問題もある。

 アクリエルがやっていたのは多くが雑魚の相当。

 時折強い魔物との戦いもあるが、それ以上に弱者との戦いが多い。

 それゆえに彼女はネーデにかなわない。

 数多の迷宮主を屠った迷宮殺しと呼ばれたる彼女には。


「う……ぐ……」

「アズラット。どう判断する?」

「……ネーデの勝ち、だな」

「そうですね……ネーデの勝ちです。アクリエル、あなたの負けですよ」

「…………っ!」


 悔しそうにアクリエルは涙を浮かべる。

 普段負けても戦闘できれば満足する、と言うような彼女であるがここまで圧倒されることは想定していなかったのかもしれない。

 負けて悔しい。当然の感情であるが、初めて彼女はそれを意識したのではないか。


「さて……」

「クルシェ? どうしたの?」

「いえ。アクリエルはですね、私の妹分のようなものなんです。私は主様、アズラット様の眷属です。アクリエルも同じ。同輩、同胞、姉妹のような存在。妹を泣かされて、姉が動かないことはありえないでしょう?」


 クルシェはクルシェで色々と複雑な思いがあるらしい。

 彼女はアクリエルを妹のように思っている。

 立場的な意味もあるし、アズラットと進む旅の途中で一緒に過ごしていたのもある。

 いろいろと世話を焼いたのも記憶している。


「……ク、クルシェ! 私は!?」

「シエラももちろんですよ。こちらに来て初めて会った時は今まで放置せざるを得なかったのをすまなく思っていましたよ……」

「クルシェは読唇術? とかで頑張ってくれてたよ……うん、でもそう言ってくれるなら嬉しいかな」


 その想いは最初から、ではないだろう。ここで過ごすうちに培われたものかもしれない。

 アズラット組、眷属として存在するクルシェ、シエラ、アクリエルは形はどうあれ同胞同輩の仲間である。

 それゆえにか、その中のまとめ役として年長であるクルシェは独特の感情をもっているのだろう。


「……仲間外れにされてる気がする」

「実際ネーデは立場が違います。あなたは主様と同輩同胞でしょう。こちらはそれを羨ましいと思うのですが?」

「そうだね。でも、こっちもちょっと複雑だよ」


 そう言いながらも、クルシェに向けて剣を構えるネーデ。

 クルシェの方は武器を構えないが既に臨戦態勢だ。


「……死亡で勝敗決定、でいいか? っていうかアクリエルの際は死亡で決まらなかったが」

「いいよ」

「いいですよ。アクリエルの場合は勝っている側が審判に判断を求めたから殺さなかっただけでしょう。ですが……果たして今回はそう行きますか?」

「…………ヴァンパイアとはあまり戦ったことがないけど、勝ってみせるよ」


 ヴァンパイアはめったに出現しないため、出現傾向の関係でネーデはあまり戦った経験がない。

 それゆえにクルシェ相手にはネーデも少し不安がある。

 そもそも、クルシェ自体元々強いゆえに厳しい戦いである。


「じゃあ、開始っ!」


 がぎん、と剣が何かに衝突した音がする。

 ネーデが高速でクルシェに対して振るわれた剣はその肌の手前で止められている。

 防御ではなく遮断、全てを遮る力。アノーゼからの話とは違う遮断の使い方。

 まあ、あの時のアノーゼの発言、内容に関しては多少脚色があったのだろう。

 スキルの応用、限定的な使い方などに関してアノーゼは詳しく言わなかっただけ、かもしれない。

 根本的に元々のアズラットに近いアズラットへと誘導していたのが最大の要因と思われるが。

 ゆえに遮断のスキルを使いにくいと言っていたのかもしれない。

 と、そんな話はさておき。クルシェはネーデの懐に入り込む。


「っ!」

「あなたの武器は剣。剣を振るえない状態でどれほどの力を振るえますか?」


 肉体、近接戦はクルシェに分がある。

 剣の戦いはネーデに分がある。

 水の中ならアクリエルが一番強い。

 それぞれの向き不向き、相性、環境の問題に状況、様々な要素が各々の強さに関わる。

 自分が最も有利に戦える状況持ち込めれば有利はクルシェにある。


「防ぎますか」

「当然。あなたのそれと同じようなことは私だってできる」


 防御。それにより近接攻撃を防ぎつつ、相手の動きを阻害し己の有利をとれる距離に離れる。


「でも、あなたのそれで……これは防げる?」

「…………っ!?」


 ネーデの持つ中で最も特殊であり、最も単純であり、最も強い一撃を振るえるスキル。

 斬と呼ばれるあらゆるものを斬ることを可能にするスキル。

 それはスキルの効果すら例外とは言えない。

 決してクルシェの遮断は弱いわけではない。ただ、大本の目的が光を防ぐことにある。

 この神の世界では光による影響はなく全力を振るえるので使う必要がないが。

 と、それ自体は関係ない。遮断の使い方、その性質。それは元々防御用ではない。

 その応用方面に使うことは少なく、ゆえにその性能はそれほど高くない。

 だからこそ、ネーデはその防御のための遮断を切り捨てることができた。


「さよなら」

「…………!!」


 首が飛ぶ。クルシェは首から上、首から下で別れ死を迎える。


「……………………勝ち、でいい?」

「厳密にはダメだが、まあ今回はネーデの勝ちでいいんじゃないか?」

「そうですね」

「えっ!?」


 首だけでクルシェが話し始める。

 彼女はヴァンパイア……まあ、ヴァンパイアでも首をはねられるとかなりあれだが。


「首をはねられても完全に死んでるわけじゃないです。でも……まあ、さすがにこれは私の負けでしょう。悔しいですが」

「………………生きてるの?」

「あくまでまだ死んでいない、です。首、戻しますね」


 自分の首を拾い首に当て、切断傷を治すクルシェ。

 辛うじて死んでいないと言うだけでその状態でも生きられるわけではない。

 生命力の高さ、不死性の強さゆえにまだ死なないというのがヴァンパイア。

 しかし、生存に必須な条件は満たしていなかった。

 ゆえに勝ち目は薄いがまだ負けではない状況、だ。

 あの状況ならばネーデが生死判断で油断したところを体の方を動かして攻撃できた。

 とはいえ、ネーデの場合はそれでも防ぐことができただろう。彼女は危機感知できるゆえに。

 だからこそ勝ち目はないと言わざるを得ない。なのでクルシェは負けを認めた。


「とりあえず三人の中で一番強いのはネーデか……次点はクルシェだな」

「まあ、アクリエルよりは上ですからね」

「うー……すごく悔しいなー」

「なら鍛えましょうか。戦闘訓練は主様の持つ戦力強化になりますから」


 クルシェがアクリエルを鍛えることが決定したらしい。


「……アズラットの強さを見てみたい」

「ええ?」

「主様とネーデですか。どちらが強いと言われれば当然主様でしょう?」

「どっちだろ? うーん……わかんないかな」

「私としてはアズラットに私はこれだけ強くなったんだって見せたいよ? パートナーとして相応しいくらいにね」

「……わかったよ」


 おまけでアズラットもネーデと戦うことになったらしい。その決着については……また別の機会にて。

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