321 後日話1 個々の感情
ハーロー!
「……そこは普通にこんにちは、でいいんじゃありません? しかしお久しぶりですね。下の恋愛事情はもういいのですか?」
あはは! 普通に今も見てるって。まー、全然面白いことも特にないけどね。
時々家族愛でやっちゃったりとかー、同性愛の発展してないこの世界で薔薇とか百合とかあったりとかもあるけどね。
結局面白いことはないのよねえ。文化的発展ばかりはこういう世界ではどうしようもないわ。
基準世界だと面白いことも多いんだけど……ま、そのあたりは何処も似たり寄ったりかもしれないけどね?
「私の知ったことではありませんが……スキルの神である私にスキルのない世界のことを話されても困ります」
別にないわけじゃないとおもうけどねー。世界によりけりかしら?
ま、私も詳しいこと知らないけど。
「それで、何故ここに? 私と話をするためと言うわけじゃないでしょう」
うふふー。聞いたわよ? 久々のこの神の世界に来た新しい神格の存在!
この世界の神格基準は緩いんだけど、それでも成立することが少ないのよねー。
レベル制だから本当はやりやすいはずなんだけど……昔はそれなりにいたのに今はつい最近に二人でしょ?
しかもあなたの管轄で一人はかなりの特殊事例。もう一人もその関係者。
今や人間を含めこちらにこられる存在は神の手助け無しじゃいないのかしらねー。
「神に最も近い場所の多くが管理地になっています。それも原因だと思いますが、根本的に人が魔物と戦い鍛える必要性が減ったことも大きいでしょう。あの時代は迷宮攻略が成されず魔王が発生していました。それゆえに人間も強くなる必要性を感じ鍛えることとなった。しかし今ではその必要もなく、またレベルが最高峰で神に至ることができるという話も眉唾物の伝説、御伽噺。辛うじて少数に伝わっているくらいでほとんどが知り得ないことでしょう。私たち側の情報統制も原因の一つではありますが……」
無秩序に神様の乱立はよくないものね。まあ、これも時代かしら?
膠着しすぎるとまた再構築の話になるかもしれないけど、どう思う?
「今の私にはあまり関係のない話ですね。どうでもいいです。私は前回残したやるべきことは既に果たし終わったので」
彼よね? ふっふっふっー。女の子侍らせっちゃってまあ。あなたがいるのにねー?
「……私は許容しています。それに、あなたから見てもそう思える関係性ですか?」
ちっ。その反応面白くないわね。まあいいわ。
確かにね、彼女らの感情は基本的に恋愛感情薄いわね。つまらないわー。
どうせならここででいいからドロドロの殺し合いでもしてくれればちょっとは楽しめるのに。
「乱暴な発言ですね……」
ま、恋愛ごとはそれくらいドタバタがないと面白くないのよ。あ、寝取りは除く。
あれはこの世界では禁止事だものね。ここだけに限らず。
ところで、"評価"しようか? いろいろとそれぞれの想い、知りたくない?
「…………興味はあります」
ふふふ、あなたも好きねえ。
ま、自分の想う子に近づく女の子たちの気持ちだもの。むしろ当然かしら?
まずあの小さな子から行きましょうか。
「シエラですか」
あの子はかなりわかりやすいわ。
基本的な恋愛感情は一切ない……なんというか、人間的な感情じゃないわねあれ。
純粋な想いの塊と言うか……そういう感じに見える。普通じゃないわよあれ?
「一応あの子は神意の指環に残された持ち主の想いの残滓ですから……」
"一緒にいたい、暮らしたい、過ごしたい"。
なかなかいい、強い純粋な思い。あそこまでまともに形になってるのはなかなかね。
それで、あの人間じゃないスライムな子への彼女の想いは……親愛、家族に対する愛情ね。
子供らしさと大人らしさの同居、でも一番はやっぱり子供らしさ。
想いの強さはその子供の部分が強い。
ペットへの愛……に近いけど、やっぱり家族愛に近いそれね。
「やっぱりそうですか……まあ、わかっていたことではありますが」
でも求めあうのならどんなことにも応えそうではあるわねー。
もっと恋愛よりの家族愛にならないかしら。夫婦的な。
今の彼女は兄と妹、親と娘に近いからないかしらねー。残念。
「夫婦の座は私の物ですから? 流石にふざけたこと言っていると私も起こりますよ?」
おー、怖い怖い。
次はあの子ねー。んー? なにあれ? なんであの子ここにいるわけ? あー、眷属?
「アクリエルですね。あの子は特にアズさんに想いを抱いているわけではないはずです」
そうでもないわよ? まあ、全部戦いに関連付けられてるけど、殺し愛したいって言ってるわ。
っていうか、それあの子に限らずだけど。
でも、信用、信頼の気持ちもあるから何とも言えないわ……
んー、戦うためなら何でもするような戦いに全ての愛情を向けているような子ね。
でも同時に自分のその気持ちを受け入れ認めそのための力を与えてくれる彼はすごく信頼してるわ。
愛情とまではいかないみたいだけどー……うーん、そこが残念ねえ。
でも戦いでの殺し愛はすごく求めてるわ。他もそうだけど。
周りの子、特にあのもう一人の剣を持ってる子相手には特に。
あの子の愛って恋愛とかじゃなくて全部戦い方面に関連付けされてるからまずまともな恋愛無理よあれ……
「恋愛の神にそこまで言われますか……」
もうあの子戦いが嫁でいいんじゃないかしら。
あの子は……なんというか愛がひん曲がってない? 愛と信仰が一緒くたになってるような。
「……いろいろな意味で仕方ありません。クルシェの場合は前世の影響もありますから」
狂信、妄信、彼女の彼への想いはそれが強い。信じ、愛し、全てに答える。
盲愛でもいいわね。半ば狂気に足を踏み入れているわ。
求められればどんなことにも、あらゆるすべてに応える。
たとえ殺されても受け入れるんじゃない?
狂気的ね。どうすればこんなのができあがるのかしら?
ねえ、アノーゼ? あなたへの想いもあるわよ?
「……いろいろとあったんです。最初はそこまで酷くなかったのに、今回はとても酷い目にあって……心が無事だったのは私の干渉もあったからこそでしょう。神の恩寵を受け、それを心に宿し、それが彼女の強さとなって……だからこそ耐えることができた。あとはアズさんが助けてくれたからですが、そこも前世の彼女の想いがあったからこそでもあるでしょう。主従の契約となり、そのまますべてを受け入れたのは。その原因も私のあげた加護が原因ですけど……」
下手に神が人間に干渉するべきではないわよー? 面倒くさいことになるだけなんだからー。
まあ、干渉権のある部分だったから大丈夫だったんでしょうけど。
それにしても、神の眷属が神を盲愛妄信するとか……面倒ねえ。
おー。なんか結構純粋ねー。
ただ、恋愛感情とはまた違うわねえ。
でも受け入れるところを見ると近い物かしら?
「………………そういう判断をされるのはちょっと複雑ですね。ネーデは今回受け入れましたが、私としてはあの子は許容しがたいというか、納得がいかないというか……まあここにこられるだけの資格を持っていたわけですし、アズさんへの想いも事実ですから許容しましたけど」
嫌いってわけでもないのねえ。まあ、あなたに近いと言えば近いのかしら。
彼女は自分は隣にある者、パートナーとして認められるべきであると考えているわ。
恋愛感情とは違ってパートナー、隣に立ち、背中を預け、信頼できる物事を任せられる相手。
その先の感情が一切ないとは言わないけど、なんというか薄いわね……っていうか、あの子のあれ、人と言うか……
「言っておきますがアズさんは元々はスライムですので。あの子が一番接した時間もその姿ですよ」
あー、それで。
人として接するそれ、人へ向ける愛とはまた違う……でもパートナーはパートナーね。
でもその分、下手をすればあなたよりも…………ああ、それはないわ。
「……人の心を見て何を言ってるんです」
あの子の想いは少なくともあの中じゃ一番よ。でも、ここにおいて一番は別にいるわ。
ねえ、アノーゼ。あなたが一番あの子のことを想っているでしょう?
なんというか、熟成しすぎたワインとか梅干しとかそんな感じの想いよそれ?
「言わないでください」
なんというか、偏執的? ストーカー的な……
「さんざん言われたのでそれ以上いいですから!」
なんというか、もうとんでもない昔からのよね、それ。何千年?
「……時間に関しては覚えていません。最初にアズさんを見て、それから彼の活躍を見ているうちにいつの間にかです。再構築の際、やり直す機会を与えられ、それからずっと待ってようやくなんです。何年だろうと私には関係ありません。ようやく、ようやく届いたんですから」
はいはいご馳走様。そこまで言うならさっさと懇ろになりなさいよ。
「わかってます」
まあ、一番の問題は彼でしょうねー。彼、恋愛感情が滅茶苦茶ないんだけど。
「……聞きたくなかったです」
精神的に人間に近い形してるのに、根本的な部分で人間的じゃないんだもの。変すぎ。
「……スライムだった弊害でしょう。そっち方面の欲求が極めて薄いのは」
ま、がんばんなさいな。私は恋愛の神として人の恋愛模様を面白可笑しく楽しむだけだもの。




