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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
349/356

316 迷宮主撃破

「行くよー!!」


 最初に攻撃を仕掛けるのはアクリエル。

 駆け抜けて一気に巨大魔虫へと迫る。

 その後ろを脇に抜けるようにネーデが駆けていく。

 通常の速度であり、アクリエルよりも遅い。

 クルシェは動かず、<土魔法>による動きの阻害を狙う。

 直接の戦闘よりも支援を選んだようだ。

 アズラットはネーデの頭の上に乗っていた。

 決してネーデが攻撃する機会に一緒に攻撃するつもりではない。

 ネーデの攻撃とは別にアズラットは攻撃するつもりであり、ネーデの移動途中で離れるつもりだ。


「たーっ!!」


 アクリエルの動きに合わせ巨大魔虫がその足を振るう。

 今回は電撃を使っていない。

 単純にスキルを使うだけの力がない状態か、あるいはアクリエルだから必要がないと思われたか。

 実際アクリエルは巨大魔虫の攻撃を防ぐ、対応はできても巨大魔虫に接近し攻撃を入れることはできていない。


「っと! わっ!」


 攻撃を受けた時点で体当たりのように巨大魔虫が迫り、剣はそれを防ぐために合わせられる。

 振るわれない剣は<剣術>や<剣技>のスキルの恩恵はほとんど受けず、斬ることはできない。

 そのまま巨大魔虫の力によってアクリエルは押し出して吹き飛ばされる。

 体当たりをした巨大魔虫の横からネーデが迫る。

 それを巨大魔虫は察しているのか、ピリッと電撃が足に走る。

 巨大魔虫は大きいため地上にいる者が狙う場合足からになる。

 そうでなくとも背中の甲殻は硬く攻撃が通じにくい。

 <剣術>などの剣系等のスキルを持ち、<神格者>になるほどの高レベルなネーデでも簡単には攻撃は通用しないだろう。

 ゆえに足からという判断になるがその足に電撃が走る。

 持っている武器が金属であれば確実に電気を通す。


「っ!」


 電撃が走ったところでネーデは一瞬で退く判断をする。

 彼女は<危機感知>を持っているので危険は容易に知覚できる。

 また相手に近づく途中までは普通の速度だが、かなり近くになった時点で<高速化>を使っている。

 その状態では判断も速く停止も用意、避けるのも難しくはない。

 ネーデの剣は魔物を素材としているため金属とは言い難い物だが電撃を通さないわけではない。

 いや、絶縁の電撃を通さないにしても剣で電撃に触れるのはあまりよくないだろう。

 スキルの電撃は厳密に通常の電撃と同じ作用が起こるとは限らず、意味が解らない動きをする危険もある。


「はっ!」


 しかし近づかなければ攻撃できないというわけではない。

 <剣術>など剣系統のスキルの中には飛ばせる斬撃の類もある。

 衝撃波などを利用した斬撃、それによる攻撃だ。

 またネーデの場合<投擲>のスキルもある。

 ただ常に持ち歩くような小さな武器の類はないので近くにある適当な物品を投げるのが基本だろう。

 やはり彼女の最大の攻撃手段は剣を使っての剣の技。

 だが近づけないのでは有効打を出せない。


(とっ、上から失礼させてもらおうかな!)


 小さな影、巨大魔虫のような大きな生物からではなかなか発見しにくい小さな球状の存在。

 それが巨大魔虫の背中に取り付く。アズラットだ。

 アズラットは人型の時なら見えやすいがスライムの姿の時は元々の大きさである。

 <圧縮>によるものだがそれは迷宮のスライム穴と呼ばれる小さな穴、空間に入り込める大きさだ。

 それゆえに意識の外に脱出されると動きが見えない場合発見がしにくい。

 小さいゆえに発見自体がやりづらい。

 まあ、それでもぽんぽんと動いていたら流石にその軌道、動き故に見えるのだが、今回は相手の上、背中の方だ。

 巨大魔虫はそれなりに視界が広いものの、背中に眼がついているわけではないため自分の背にいる相手は見えない。

 流石にそこに張り付かれている今はその存在を察知できるが、手を出しようがない。


(さて、巨大化……<圧縮>を解除する? いや、部分的な解除と<穿孔>で……おおおっ!?)


 アズラットが考えているとビリビリと体に電撃が走る。

 背中にいても雷は作用するようだ。

 巨大魔虫の雷は砲撃のように発射するだけでなく多少纏うようにも扱える。

 足に発した時点でそれがわかる。

 それを背中側に発し、そこにいる存在を排除しようと考えたためこのような作用となった。

 アズラットの体は水分要素の強い液状の何かであるため雷は比較的通しやすい。

 とはいえ、肉体、肉質の作用もありそれによる電撃の阻害もある。

 しかし、ある程度は通す。それは核にも悪影響を出す。

 流石に弱い現在の電撃では死なないが、それなりの悪影響がある状態になっていた。


「あ! っ! とっ!」

(うおっ…………)『(わ、悪いネーデ。助かった!)』

「これくらいなら別に!」


 <高速化>し<跳躍>、<空中跳躍>、<治癒>、<防御>などいろいろなスキルを使い背中のアズラットを掻っ攫うネーデ。

 背中に走る電撃の影響で多少の痺れと痛みがあるがアズラットが優先、また<治癒>で回復できる範囲である。


「主様!」

『(大丈夫! でも、あの電撃は厄介だな)』

「どうする? 電撃を無視して突っ切ってもいいけど……」

『(命がけはな……アクリエルに使われないのはありがたいが)』


 最初に攻撃していたアクリエルには電撃が使われていない。

 真向から特攻するだけのアクリエル相手に使われていないのはありがたい。

 何も考えずに突っ込んで電撃の餌食になるのが確定的だ。


「やーっ!」

『(あー……)』

「また吹っ飛ばされた」

「……アクリエルには電撃が使われていないのは脅威と思われていないからでは?」

『(それはわかってるんだけど……だから何だと言う話でもあるし……)』

「多少<土魔法>を使えば動きの阻害はできますが、すぐに復帰されます。一瞬しかできません。地面を突き上げはさほどですが、穴は少し、土による拘束、固めはすぐに破壊。腹への土塊もそれほどではありません。傷を狙っているのですが……」

「生命力が強いから傷自体はくっついてる。並の攻撃で修復したばかりでも傷を開かせるのは難しい」

「そういうものですか」


 迷宮主との戦いの経験が多いネーデは迷宮主の強さを理解している。

 それゆえに生易しい相手出ないと知っている。

 魔剣によるアクリエルの傷も、今も傷として残っているわけではない。

 傷跡は残り回復しきってはいないがそれでもある程度治っている。

 それではクルシェの<土魔法>では痛打を与えることはできないだろう。

 元々クルシェの<土魔法>は隠遁用である。

 スキルは様々な使い方で使用できるが、レベルとは違う練度もある。

 これはどちらかというと本人の慣れになるが。

 使い慣れた使い方ならば容易にできる、高威力になるがあまり使わない使い方では威力も精度も速度も落ちる。

 そういう点では拘束があっさり破られる要因はそういった使い慣れないという部分の影響もあるかもしれない。


『(……動きの阻害か。背中に取り付けばうまくいくか?)』

「さっき駄目だったよね? それにあの電撃、危ないよ?」

『(スキルを使えば電撃対策ができると思うから、そっちを試してみる)』

「……わかった。危なそうならすぐに逃げてね」

「主様!? それは……」

『(いつまでも戦ってるわけにはいかないし。ああ、でもちょっとこっちに意識退くだけだとだめか?)』

「私が決めるよ。竜王を倒した一撃ならなんとかなるよ……あ、アズラットも斬れるかもしれないからそこは安全を確保してね?」

『(契約がまだ残ってるから恐らく大丈夫だと思うが……まあ、攻撃が来た時に<圧縮>で逃げさせてもらおう)』

「………………」


 アズラットとネーデはそれなりの期間を共に過ごしている。

 それは戦いの経験、共闘してきた経験。

 それゆえに二人はクルシェやアクリエルよりもはるかに息が合う。

 あるいは契約の影響か。


『(クルシェ?)』

「えっと、私も<土魔法>で行動疎外の支援をしますので」

『(頼む)』


 クルシェもネーデの攻撃を成功させる動きへの参加を表明する。

 残りのアクリエルは未だに叫びながら巨大魔虫に斬りかかり吹き飛ばされている。

 これはこれで相手の意識を誘引している点では三者の話し合いをまとめる時間を作ってくれてありがたい行動だった。


『(よし、じゃあネーデ、<投擲>頼む!)』

「わかった!」


 ネーデの<高速化>を行っての<投擲>、そしてそれに合わせ<加速>しての<跳躍>。

 加速状態での高速の投擲に跳躍を合わせることにより加速、さらにスキルでの加速を踏まえとんでもない速度に。

 相手認識される前に相手の上へと行く。

 普通ならここでそのままかっ飛んでいくことになるが、<空中跳躍>で軌道を変える。


(部分的に<圧縮>解除! そして<穿孔>!)


 高速で飛び出すアズラットの体の一部、そして<穿孔>によりそれは背中の装甲を辛うじて貫き背中にめり込む。

 流石に内部での<圧縮>を解除するほどまではできるくらいではない。

 流石にそれを行い破壊できるほど容易ではなかった。


(っと、これでかなりこちらに意識を寄せるだろうな。あとは全体の<圧縮>を解除……包み込んでやる!)


 そして<圧縮>を解除し巨大魔虫の背中全体を己の体で包み込む。

 アズラットの持つ消化能力は万能の消化である。

 死んでいれば容易に消化できるが生きている相手の消化は難しい……しかし不可能ではない。

 その溶解能力、消化能力に背中の甲殻が徐々に消化されていく巨大魔虫。

 一応それはわかるようだ。

 アズラットの体が消化しきって貫通するまでは極めて時間がかかるので正直言って攻撃としては現実的ではない。

 だがそれを無視できるほどの思考は巨大魔虫にないし、それが脅威であることもまた事実。

 故に背中のアズラットを排除するために電撃を発しはじめる。


(悪いな。<変化>で電撃が通じないようにしてるんだ)


 <変化>。物質的な性質をある程度変化させることのできるもの。

 粘着力を高めたり、酸の性質を持たせたり。

 今回はそれにより絶縁性を持たせ電撃を通じないようにした、ということである。

 とはいえこれも完全の物ではない。

 アズラットはあまり使ってこなかった能力であるためそれほど成長していない。

 ゆえにそこまで無敵ではない。ある程度以上で電撃の影響が貫通する危険もある。

 とはいえ、相手もそこまではわからないしずっと使うとも限らない。

 そもそも、その前に終わればいいのである。


「<土魔法>!」


 アズラットが電撃ではがれないため、体を動かし無理矢理はがそうとする巨大魔虫。

 背中の甲殻を広げ羽を出すこともできるがそれはアズラットが背中に張り付いている影響で止められている。

 無理やりアズラットを引き剥がすほどの力がないようで、空を飛ぶこともできないだろう。

 ひっくり返る、というのも手かもしれないがそれを行うと腹が無防備に差し出される。

 さすがにそれは腹に一撃を受けたためか注意しているのかやらない。

 なので足を動かし体をゆする、暴れることで剥がそうとしている。

 そこをクルシェが<土魔法>で狙う。

 動かしている足ではなく、止めている足、身体を支えている足を狙ったのだ。

 体をゆするうえですべての足を動かすわけではなく、身体を留めるための支えの足がある。

 足場としている地面が陥没し、宙に浮き、足が落下して安定していた体勢を崩す。

 そして背中にいるアズラットに意識が持っていかれている。電撃もそちらに向けられている。

 そこに、相手の意識が余所に向ききっている間に、ネーデが巨大魔虫の眼前へと迫っていた。


「アズラット! 避けてね!」


 剣を構える。一直線、まっすぐに、ふっ、と息を吐きながらネーデは振り下ろす。

 <剣術>、<高速化>、そして<斬>。ネーデの持つ<斬>のスキルはすべてを斬ることのできる可能性を持たせるもの。

 それが相手を斬れるかどうかはスキルのレベル、そしてそのスキルを扱う者の実力次第。

 ネーデの実力であれば、かつての竜王すら傷をつけるくらいの剣の実力を持つ彼女であれば、ただの迷宮主の切断など容易。


(やばっ! <圧縮>! <跳躍>!)


 流石にアズラットもその一撃は危機感が凄まじい物だった。

 それゆえに一気に自分の体を集め背中から逃げる。

 もしかしたら契約がある状態でも斬れていた可能性はあるだろう。

 一応核は斬撃の範囲から外していたので問題はなかったと思われる。

 とはいえ、斬られるのも嫌なので逃げるわけだが。

 そんな斬撃は、巨大魔虫を中心から真っ二つにした。


(…………)

「…………」

「ふう」

「うわ、うわー! 凄い、凄い、すごーい!」


 絶句するアズラットとクルシェ。

 力を出し尽くした、と大きく息を吐くネーデに対してアクリエルは興奮したように近づいていく。

 いや、アクリエルは今のネーデの一撃で大興奮している様子だ。

 それくらいにその剣の一撃はとんでもないものだった。


『(あれ、さすがに死んでるよな?)』

「真っ二つですから。生きているはずありませんよ…………」


 巨大魔虫は真っ二つとなって死んだ。

 あっさりとした終わり……というには苦労が大きかっただろう。

 ともかく、神山の祭儀場に登ってきた、この聖国のある大陸にて魔物の大騒動を起こした迷宮主はここに退治された。

 まだ残っている迷宮の魔物の虫たちももう自分から出てくることはなく、外に出た魔物もいずれは拡散し倒されていくことだろう。

 もっとも魔物が外に出てきた影響はしばらくは残るだろう。

 聖国、港街、エルフの里。方々の被害はそのままである。

 問題が解決しても、別の問題は残ったままである。

 それらに関しては流石にアズラットたちの関与することでもないが。

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