313 二人の参加
「まだ戦ってるね!」
「主様……流石に相手も弱くはないということですね。まだ終わっていないようで」
「……アクリエル、クルシェ。戦い辛い状況なせいもあるけど……決定打がないっていうのも原因だけど……確かに倒してはないかな」
何度か攻撃を仕掛けるも空中にいる相手であるためか攻撃し辛いせいもあって決定的な一撃を入れることはできない。
殆ど攻撃が通用していないのも要因としてあるがやはり相手の位置が問題になる。
地上にいて空を飛ぶことのできないアズラットは近づくのに<跳躍>を使うしかない。
それは一直線、<空中跳躍>を合わせての軌道変更を考慮してもかなり直線的だ。
それに対し自由に飛行できる巨大魔虫は向かってくるアズラットに対して対処するだけでいい。
逆に言えばそれだけしかしてこないという話しでもあるのだが、倒さないのと後々祟りそうな存在である。
それにこの場に残しておいていいのかもわからない。元々の目的からすると倒しておかなければいけないのではないか?
そうでなくとも現状確実に目を付けられている可能性が高い。手を出さなければ大人しかったかもしれないが、今更な話。
ともかくアズラットは倒すための手立て、攻撃を通用させる手段を考えているところだった。
そこに道中にいた魔物を撃破した二人が合流する。
「……空にいられると実に困りますね」
「そうなんだよな。<跳躍>があるとはいえ、自由に行動できるわけではないから……」
「私も空中にいる相手に有効なスキルはありません。アクリエルの方はどうですか?」
「んー? わかんない!」
「アクリエルは確かその手のスキルはなかったはず。剣のスキルが三つ、戦闘スキルが二つ、あとは<人化>だったかな……」
「主様が把握しておられるのですね。この子の性格じゃあ仕方ないのかもしれませんが……」
アクリエルのスキルに関してはアズラットが把握している。
ただそれは冒険者証をかつて見た時のものである。
今では別のスキルを覚えている可能性はあるだろう。もっともそんな雰囲気はないが。
そもそもアクリエルのスキルの取捨選択自体傾向がわかりやすい。
剣に関わる物、戦闘に関わる物。
空中にいる相手との戦いは海に住んでいたこともあって全く考慮に入れていないだろう。
「わかんないけど、戦わないなら行くよー!」
「あ」
一応<跳躍>がなくても跳躍することはできる。
そもそも<跳躍>のスキルと普通の跳躍は何が違うのか、と言った感じだろう。
あくまで通常の動作である跳躍行動に対し、<跳躍>は着地に対する補助が存在する。
他に壁などの足場が悪い部分でも問題なく跳躍できるようにすること。
身体能力での限界よりも高く跳躍できること。
一定のレベルになると<空中跳躍>を習得できることなど、通常の跳躍と比べスキルによる恩恵は大きい。
しかしそれを気にしなければ別に問題ないとも言えるだろう。
単に跳ぶだけならば必要とすることがない。
アクリエルの場合レベルに任せた己の身体能力に<戦闘高揚>や<戦闘本能>による補助で高く跳ぶだけなら問題ない。
しかし、それに関して言えばアズラットだって問題なく可能な行動である。
アズラットの攻撃が巨大魔虫にあまり通用しないとはいえ、それでも攻撃事態はできる。
しかし決定打、有効打を与えられるほどではない。
それはそもそも攻撃事態が入らないのが原因にある。
「ひゃああっ!?」
「流石に防いだか」
「落ちてくるのを受け止めますね」
「頼む」
空にいる相手ゆえに、攻撃を入れようとしても近づく過程でまず気づかれてしまう。
それゆえに跳んできたところを迎撃する形で巨大魔虫が攻撃してくるし自由な移動で避けられる。
巨大魔虫が自分へと向かってきたアクリエルにその足で一撃を入れる。
流石にアクリエルも魔剣で受けるが、空中に足場はない。
ゆえにかかった力をそのまま推進力として弾き飛ばされる。
幸いにそれなりに場所が広いこともあり壁になどはぶつからない。
ただ体勢を崩しているのでそのまま落下してしまう危険がある。
そこをクルシェが受け止めに行ったわけである。
「……しかしどうしたものかな」
アクリエルも駄目だった……というのはわかり切っていたが、空中の相手にここにいる三人は有効打がない。
ゆえにどうやって戦うかを考えていたのである。
「拾ってきました」
「吹き飛ばされたー」
「……おかえり。さて、どうしたらいいと思う?」
「そうですね……一応私の方から<土魔法>で攻撃を試してみます。<遮断>も使えなくはないでしょうが……あの大きさで力もあるようですからあまり通用はしないでしょう。うまく封じられればいいんですが」
そう言いながら<土魔法>を使い、地上から土の塊を作り空中にいる巨大魔虫に雨霰と打ち出す。
もっともその程度の攻撃が通用するほど相手は生易しいものではない。
迷宮主に単純な土塊の弾丸が通用するものだろうか。
アズラットで思い浮かべればまず通用しないのが推測できる。実際全く通用していない。
「ダメですね……<遮断>を使うにも、なにを<遮断>すべきか」
「空気を遮断することとかはできるか? 呼吸を奪う」
「なるほど……そこまでできるでしょうか?」
アズラットの持つ知識や想像力とクルシェの持つ知識や想像力では差があるため、想定している形にできるかはわからない。
だが意味は分かる。呼吸を封じられれば普通の生物は死ぬ。
クルシェはヴァンパイアなので呼吸無しでもある程度の生存はできるが。
<遮断>を試す。
しかし相手が大きくその範囲は結構な規模になる。
そもそも<遮断>での対象が大雑把すぎる。
ゆえにそれほどうまく入っていない様子である……まあ、やっている側も見ている側もわからないのだが。
「……ダメみたいですね。やっぱり直で近づくのが一番かと思いますが」
「……<跳躍>は何度か試してるけど、通用しなかった」
「それは御一人の場合ででしょう? 私とアクリエル、主様の三人で一斉に攻撃を仕掛ければいいと思います」
「同時攻撃か……」
「やる? やっていいよ? このまま終わるなんて納得いかないし。思いっきりこれ叩き込むの!」
「……よし、ならやってみるか。一度に三方向から、同時に」
そうして三人が散る。そして巨大魔虫の三方向から跳躍行動を合わせ巨大魔虫へと襲い掛かる。
三者のうち決定的な攻撃能力を持つのはアクリエル。剣のスキルに戦闘系スキル。単純な攻撃能力では最も高い。
身体能力やレベル、総合的に見ればアクリエルが三者では一番弱いのだが……やはり魔剣を持つこととそれに合わせたスキルが高評価になる。
まず最初に届くのはアズラット。
<跳躍>、<加速>、<空中跳躍>。空中を跳んで移動することに関してはもっとも優秀である。
それゆえに巨大魔虫の反応を受け、攻撃をほとんど忘れていた<防御>のスキルで受ける。
そのまま弾き飛ばされるが、それは逆にアズラットへと意識を向けさせる効果もあった……かもしれない。
次がクルシェ。その身体に直接殴りつける。時間もかかり今はもうほとんど夜と言っていい時間、ヴァンパイアの本領が発揮される。
ただ装甲をぶち抜けるほどではない。衝撃は結構なもので体を揺らすが、その程度。
逆に相手が体をぶつけてきてそのままクルシェが吹き飛ばされる。
着地がどうなるかわからないがヴァンパイアで<土魔法>持ち、多少は衝撃を軽減できるだろう。
そして最後がアクリエル。
アズラットとクルシェに気を引かれた巨大魔虫に襲われることなく、その懐に入り込む。
最初に狙うべきは腹である、とアズラットに言われた。
装甲のある背中側などよりも腹は比較的柔らかい。
地上にいるときと違い空を飛んでいるいまでは比較的狙いやすい。
まあ普段は狙おうとしても気が付かれ回避されるか迎撃される。
しかし二人の誘導もあり、アクリエルは懐に入り込んだ。そして魔剣の一撃を振るう。
「やあああああああああっ!!」
剣が腹を切り裂く。流石にその一撃は結構効いたのか、飛行の制動が甘くなる。
そのまま半ば墜落するような勢いで巨大魔虫は地上に降りてきた。
アクリエルは着地、アズラットは吹き飛ばされたがそのまま着地、クルシェは半ば墜落状態。
「降りてきたか……っと、クルシェ、大丈夫か?」
「……私よりもアクリエルの方を。あの子を狙ってくる可能性の方が高いでしょう?」
「わかった。あまり無理はするなよ」
ヴァンパイアの不死性、傷の回復力、夜の身体能力、<土魔法>による衝撃の緩和など、様々な点で着地を制御した。
しかしそれでも結構な衝撃があり、クルシェはかなり消耗している状態である。
そもそも巨大魔虫の体当たりもある。
すぐに戦線復帰はできない。
少し時間があれば参加できるものだと思われるが。




