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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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312 戦い方

「よし、とりあえず周りにいたのは排除した。後は迷宮主だと思うこいつだけだけど……」


 倒れ伏し命を失う虫の魔物たち。

 アズラットが剣を突き刺し脳機能を損なわせ倒した。

 もっともまだ肉体的には生きており、反射的な動きをする危険はあるし予期せぬ動きを見せる可能性もある。

 虫であるがゆえに頭部に存在する脳機能をもつ部分以外にも神経の塊である脳に近い機能を持つ部分があるかもしれない。

 そういった部分が頭部を失った後も機能し未だに動きを見せる可能性はあるだろう。

 とある虫は頭部を切り離しても生きており死亡する原因が餓死である、という話も伝わっているくらいだ。

 そういった虫の魔物であるがゆえに倒した後でも油断はできない……が、動けない状態に陥ったなら近づかなければいい。

 倒した魔物達を放置して残りの最後の一体、迷宮主であるだろう巨大魔虫。


「……武器は通用しなかった、いやこれは投擲するだけで攻撃したからか? 直接<穿孔>と合わせれば……いけなくもない、かな?」


 武器を投げての攻撃は<加速>しかスキルを使わない。

 それに対し突きで攻撃する場合アズラットの動作も含め複数のスキルを加えられる。

 <跳躍>と<加速>を合わせ高速での接近、その勢いのまま<加速>を加え突きをし<穿孔>で穿つ。

 投げるのと違い有効となり得る複数のスキルを扱うのであれば流石に迷宮主が相手でもその身を穿つことができるかもしれない。

 もっともアズラットの場合最大の攻撃手段は己の体、<圧縮>ともともと持ちうる消化能力だろう。

 ただこれに関して言えば相手が悪いというのもありアズラットは使おうとしない……いや、半ば人間の体に馴染んでいるせいもあるだろう。

 アズラットはスライムだが<人化>により人の姿を取り続けている。

 それゆえにだろう。本来の姿の時の戦い方とは違う人の戦い方で戦っているのは。


「よし、行く、ぞ!」


 戦い方が人間に近しい状態なのは無意識的な部分もあるだろう。

 それゆえにその欠点、問題には気が付かない。

 しかし今の状態で勝ち目があるのであれば特に問題はないと思われる。


「ふっ!」


 <跳躍>と<加速>を使い一気に接近し、<加速>を合わせた突きで<穿孔>を行う。

 巨大魔虫はアズラットの動きに対応できない。

 反応はしている。目は微かにアズラットの動きを捕えている。

 ただ、身体を動かすのが間に合わない。

 それゆえに巨大魔虫は防ぐ間もなくアズラットの攻撃を受けた……しかし貫くには至らない。


「ぐっ、刺さりはしたけど……っとっ! 当たっても大丈夫……だったかな? 念のため避けたけど……あの足、刺刺してるから裂かれる可能性はあったかもしれない。当たる必要性もないし、攻撃は避けよう」


 剣は巨大魔虫の装甲を貫くには至らない。

 しかし、突きにより鈍い音を立てて先端が少しだけ刺さっている状態ではあった。

 なんども同じ点を攻撃すればいずれは貫けるだろう。

 流石に体のすべてが装甲と同じ防御能力であるはずがない。

 しかし、一度攻撃を受けた以上これ以上の攻撃は巨大魔虫も簡単には受けないだろう。

 アズラットの動きを眼で追うことができた。

 その攻撃手段、手法を知って入れば攻撃に対応することはできる。

 まあ、相手は虫の魔物である。

 迷宮主になるくらいに協力とはいえその思考能力が高度であるかは不明である。

 次の攻撃の前に巨大魔虫からの攻撃があった。

 アズラットが攻撃を加え、その攻撃の内容が確認劇た直後。

 その攻撃を振動感知により見切り、大きく<跳躍>することで回避をした。

 攻撃の速度は中々のものでありアズラットでも果たして完全に堪え切れる者かはわからない。

 アズラットの防御能力は極めて高い。

 軟体性の肉体に膨大な体の質量を現在の大きさへと<圧縮>している。

 言うなれば元々の体を一撃ですべて引き裂けるだけの力が必要である。

 もちろん厳密には話が違ってくるが。

 相手は迷宮主、かつてアズラットも階層の守護を担うような魔物相手に体を切り裂かれた記憶がある。

 今のアズラットの強さは当時と比べ物にならないが、しかし相手が迷宮主であれば決してその攻撃が効かないとは言い切れない。

 ゆえに攻撃に関しては受けることを前提とするのではなく避けることを前提とすることに決める。


「……虫の魔物だからな。っていうかこのサイズの虫の魔物ってやばいんじゃないの?」


 一般的に虫はあり得ないくらいの力を持つ。

 しかしそれは前提としてその大きさだからこそ、というのはあるだろう。

 そもそも巨大化すると自重で潰れるという話は生物にはよくある。

 一部の巨大生物は水の中で生きるように。

 普通ならばこのような巨大な虫は存在し得ない。

 この世界においては魔物という特異な事例で巨大な虫が存在し得る。

 ただ、それは元々の虫と同じ強さ、性質というわけではない。

 本来の虫が発揮できる力よりは格段に通常の能力に落とし込まれている。

 しかし、大本が虫である以上、虫に近い性質を持つ。

 強固な体、大きな力、反応性。

 あくまで魔物してであるとはいえ、やはり大きくなったゆえに相応に強くなっているのが虫の魔物である。

 さて、今回の巨大魔虫で言えば……アズラットの肉体の防御能力は傷を負わせることができる程度には強い。

 ただ、アズラットを叩き潰せる、一瞬で真っ二つにできると言うほどの強さはない。

 そういう点でいえばどちらも決定的な一撃を相手に与えることはできないと言えるだろう。


「あ」


 問題があるとすれば相手はアズラットと同じ土俵で戦う必要性はないということだ。

 虫の魔物はすべてではないものの、多くは空を飛ぶことができる。

 跳躍じみた飛行になるか、それとも滞空ができるような飛行になるかはその種次第だが、どうやら巨大魔虫は滞空ができる種であるようだ。


「空に逃げた! <跳躍>と<空中跳躍>を合わせないとだめだな、これは……」


 流石に空を飛んでいる相手への攻撃手段はアズラットはほとんど持ち合わせない。

 そもそも飛行する相手に使える攻撃手段と言えば遠距離攻撃をするか、自分も同じ場所まで出向き近距離攻撃をするか。

 今のアズラットでいえば物を投擲する以外の遠距離攻撃手段はない。

 ゆえに近づいての攻撃しかできない。

 ゆえに<跳躍>と<空中跳躍>だ。しかしこれはこれで問題がある。

 相手はアズラットの高速での移動に反応している。

 地上からの<加速>と<跳躍>、<空中跳躍>。

 確実に相手は見切ってくるだろう。

 対応しきれるかどうかはともかく、アズラットとしては実に攻撃しにくい。


「武器は……残りは心許ないな。全部折れるとは言わないけど、そもそも相手に通用するかもわからないし……こうなるってわかってたらお金はかかるがもうちょっとましな装備でも持ってくるべきだったか? 防具の投擲……は物理的な威力は出せるけど、あまり期待はできないな。中身が入ってる状態ならもうちょっとはマシに……ならない。スキルを合わせた超速の剣の突き、<穿孔>でダメだった以上……可能性があるなら魔剣か。まああれはアクリエルに渡してるからこっちはこっちでもっと別の手段を試すしかないか……」


 巨大魔虫は余裕があるからか、あるいはアズラットのことを敵としてすら認識していないか。

 理由は不明だが空中に留まる以上のことをしてこない。


「……まったく意図が読めない。戦うつもりはない、のか?」


 相手が何を考えているかわからない……虫であるため仕方ないのかもしれないが。

 それゆえに、アズラットもどう動けばいいか、どう判断すればいいかが難しい。

 相手が動きを見せないのは何故か……考えれば考えるほど、疑問や不安が出る。単純には動けない。

 まあ、実際はそこまで難しく考えなくともいいかもしれない。

 しかし、アズラットは少し考えすぎてしまっていた。

 膠着状態のまま、状況は動かない。地と空とで睨み合いが続いていた。

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