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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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311 迷宮主の巨大魔虫

「…………あれだな。他より明らかにでかい。まあ、ヒュドラほどではないが……っていうかヒュドラが異常にでかいだけで竜よりもでかいと言えばでかいんだよな。一番の疑問はあれどこから出てきた? 迷宮って普通あの大きさだと通れないんじゃ……?」


 迷宮の大きさを考えると今この場にいる巨大な迷宮主であるだろう虫の魔物は少しあり得ないくらいに大きい。

 もっとも実際にその迷宮を見たわけではないし、魔物によってはある程度大きさを制御できる。

 あるいは迷宮主の迷宮における特権に迷宮の構造の作り替えなどがあるかもしれない。

 目の前にいる虫の魔物……巨大魔虫はそういった意思を持っていないかもしれないが、無意識での改変を行っている可能性はある。

 またはそういった迷宮そのものではなく自分に作用するような何らかのスキルを持っているか。


「まあ考えてもしかたないか。まだ取り巻きがいるのか……あれも始末しておかなきゃだめだよな。それに……ここに居座られても駄目だろう。虫の魔物たちの動きがこいつの仕業なら、この場で始末をつけておいた方がいい。聖国は本来関与しない方がいい敵みたいなものだけど、無駄に人の被害を増やすのはなあ。それに聖国以外にも拡散するなら厄介だし……ああ、そっか。港街に被害が出ると他の大陸への移動ができなくなる可能性もあるか。そうなると問題だし、きっちりと決着付けておいた方がいいよな」


 アズラットにとって巨大魔虫を倒す理由はそれほど大きく存在するわけではない。

 しかし、この神山に居つき、山の祭儀場に邪魔をするかのように居座っている状態。

 そのうえその存在がいることで虫の魔物が途中にある都市や街を襲う。

 そうなるといろいろな問題が起こり得る。

 現状はまだ問題ないが聖国の被害は大きいしこの大陸に来る上で入口となる港街も被害を受けた。

 場合によっては港街が壊滅していた可能性もある。

 そうなった場合、他の大陸への移動は難事になり得る。

 もちろん他の国や港、最悪スキルなどの移動手段を考慮できるが面倒なことは面倒なのである。

 ゆえに既に確立した物事を維持することを優先するため邪魔な巨大魔虫を倒すほうが都合がいいだろうと考えられる。

 まあ元々この神山へと来るようにという伝言でその神山を襲うかのように居座っているのである。

 確実に何かの問題をこの巨大魔虫が持っているからこその伝言なのだろう、とアズラットは考えていた。


「っと……近づくだけだと今の所襲われる感じはなし。脅威に見られていないのか……そもそもあの虫が肉食か草食かもわからないな。とりあえず……」


 <同化>で自分の内に取り込んでいる剣を取り出す。

 特にこれと言っていい物でもない普通の剣だ。

 それを武器として使う……必要はアズラットにはない。

 そもそも向き不向きの問題では不向きである。

 己が振るう武器として使うわけではなく、調査、試験的な形で巨大魔虫の強さを試すうえでの使用だ。


「ふっ!」


 <加速>を合わせ、思いっきり剣を投げる。

 一直線に飛ばす、まっすぐ飛ばすという器用なことは流石にできない。

 <投擲>スキルがあればできなくもないがアズラットにはない。

 くるくると投げたまま回転して巨大魔虫に飛んでいく。

 巨大魔虫はその名前の通り巨大であり、簡単でも物を投げればそれなりに当たることだろう。

 事実、アズラットの投げた剣は巨大魔虫の体に当たる。

 もっとも恐らくは甲虫の類であると予測される巨大魔虫、当たりはしたが全く傷つく様子がない。

 それどころか、ばきんと音がして剣の方が折れて弾かれた。


「……固いな。<加速>で結構な速度が出てたけど。安物……かは知らないけど、大したことのない剣じゃだめか」


 魔物の強さ、防御能力ゆえにまともな攻撃手段では通用しない。これは別に巨大魔虫に限った話ではない。

 アズラットの今まで戦ったことのある竜やヒュドラ、特殊な魔物などもこういったまともな攻撃が通用しない相手だったと言える。

 今のアズラットと<加速>や<穿孔>などのスキルであれば多くはその防御の突破はできるだろう。

 しかし、今回の相手は迷宮主。

 アズラットが攻撃の基準とするのは竜王や自分自身を倒せるような攻撃であるべきだ。

 そしてこの無駄な攻撃で相手にアズラットの存在が気づかれた……はずなのだが動きは見せない。


「……相手をする必要がないってことかな?」


 少しアズラットは怒りを感じるが、攻撃が通用していないのは事実であり同じような攻撃は通用しないだろうというのも推測できる。

 そして巨大魔虫の周りには迷宮主である魔虫に従ってきた他の虫の魔物がいる。

 ここまでついてきたその虫の魔物は少なくとも聖国に残っていた魔物たちよりは恐らく強い。

 感じられる雰囲気、気配からもアズラットはそう感じた。

 もしかしたらこの神山で食事をした影響だろうか。

 それともより巨大魔虫に近い位置にいる、傍にいることが影響しているのか。

 迷宮主が迷宮の魔物を付き従え強化するような能力があってもおかしくはないだろう。

 もっともアズラットはそのような力は感じていないが、本能的に他種の支配が可能なのは理解している。

 スライムに限るが。


「まずこいつらの相手からか。まあ、直接戦う時に周りにいられると邪魔だし。事故があると困るものな」


 <同化>を使い先ほどと同じように自分の中から剣を取り出す。

 巨大魔虫は確かに迷宮主としての強さを持ち得る強力無比な存在である。

 だが取り巻きはどうだろう。

 強化する力が巨大魔虫にあったとしても、アズラットの戦い方で通じないほどの強さを持つだろうか。

 その確認も兼ね、巨大魔虫と比べどれくらいの強さを持つのかの確認を行うための攻撃手段として剣を使う。


「ふっ!」


 剣が飛ぶ。

 投擲されてくるくると回りながらアズラットを襲おうと向かってきている魔物に当たる。

 多少硬質的な音を響かせるが、剣が弾かれることはなくその身体に突き刺さる。


「通用するか。なら先に……こっちから!」


 再び<同化>で保管していた剣を取り出す……いくつあるかは不明だが、多少は戦いを継続できるだけの量の武器はあるようだ。

 その剣を使い、<跳躍>と<加速>を合わせながらアズラットは向かってくる魔物へと跳ぶ。

 <加速>によりかなりの高速での<跳躍>、そのまま斬ればそれなりの攻撃力は出る。

 しかし、斬撃は比較的弱い。

 アズラットは剣の扱いがそれほどではない。

 周りにいる剣の使い手はアクリエルくらいでアクリエルは感覚型。

 教えてもらうに難しいためまず学ぶような相手はいない。

 どっちにしても学ぶ余裕はなかったのだが。

 ゆえにアクリエルの使う手段は<穿孔>を合わせた突き。

 一撃で深くまで突き入れること。

 本当は頭を切り落とすのが一番だが、脳、頭部を大きく破壊するため剣を突き入れることを選択した。

 その威力、入る深さゆえに剣は再利用できなくなるが今この場にいる魔物達を相手するだけの武器はある。


「っと!」


 まずは一体。突き入れたところでまだ動いているが、様子見を兼ねて次の魔物へ。

 相手の行動速度に対しアズラットの方がはるかに速い。

 これは移動が<跳躍>と<加速>で一跳びなのが最大の要因だろう。

 また、<加速>は<跳躍>以外の動作にも使える。

 その他の行動にも<加速>を用いているため避けるのも近づくのも簡単ということだ。


「……とりあえず、弱まるまで何度もやるか」


 一突き剣を入れるだけでは倒れない。

 すぐに倒れる様子も見せない。

 放置していれば倒れるかもしれないが、それまでの間動き続けるのはならばそのままというわけにはいかない。

 何度も頭部に剣を突き入れる、そうやって魔物を倒すことをアズラットは続けるのであった。

 その間、巨大魔虫は動きを見せない。

 連れている仲間がやられても気にしないのか、それとも何かを考えているのか。

 迷宮主である以上油断はできない。

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