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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
342/356

309 半壊したエルフの里

「……ボロボロですね」

「流石に村自体の形は残っているみたいだけど……魔物が通過したからか壁が破壊されてるな」

「ねー。あっち凄く酷いけどー? 魔物もいるよー?」

「ああ、やっぱりあっち方面にいったか……魔物だからか同じ魔物、魔樹が目当てだったか?」


 アズラットたちが訪れたエルフの里はボロボロの酷い惨状を見せている。

 理由は単純で魔物が通過したため周囲にある物が薙ぎ倒された結果である。

 まあ一部の魔物は壁などに使われている木材に齧りついたようでその跡などもある。

 そして周囲の森はエルフの里より酷い。明らかに虫によって酷く食われている。


「魔樹ですか……」

「ああ。昔この近くまで来た時にエルフの里の横を通った時に話したことがあるんだ」

『……話す木なの?』

『ああ。話す木だ』

「昔ですか……しかし今はもう」

「襲われただろうな……魔樹はほぼ確実に魔物だし、喰らうことで成長するとかレベル上げにつながるとかそういうこともあるかもしれないな。魔樹のレベルに関してはわからないが……村を守る役割を担っていたからそこで経験値の蓄積が半端ないことになっていたかもしれない」

「なるほど…………流石に虫の魔物がそこまで考えているとは思いません。単純に食事対象としていいものだったからだと思います」

「そんなものか……」


 ここにいるのは全部虫の魔物、ここまでいたのものすべて虫の魔物。聖国にいたのもそうだ。

 草食性の虫の魔物が木々を食らっていった、それがこの惨状の原因である。

 彼らに高い知性があるかどうかと言われれば……基本的にそういったことはない。

 社会性昆虫のような集団での行動における性能はあるかもしれないが、知恵、知識、理性、意識、そういった高位の精神はない。

 それゆえにこのエルフの里に存在していた魔樹を目当てとした……というわけではないだろう。

 いや、そういった理由はあるかもしれないがそれは単純にここに美味しそうなものがあったから、とかそういった理由の可能性が高い。

 神山は他の場所よりも森が大きく、立派な植物も多い。

 これに関してはエルフの存在、人の手が入っていないことが理由だろう。

 それゆえに草食性の虫の魔物の群れにとって恰好の餌場として狙われた。


『ねえ、村の方、大丈夫なの? 住んでいる人とか』

『……そうだな、確認しておいた方がいいな』「クルシェ、村の中を見てみよう」

「そうですね。誰かいれば何か情報が得られるかもしれません。怪我人や死体の運搬くらいの手助けはしても構いませんし」

「辛辣な……」

「運んであげるだけ有情だと思いますが? 私たちが手を貸す必要性は本来ありませんし、そもそもエルフはあまり私たち……他の種族に対しては友好的ではありません。普段こちらを嫌い遠ざけるのにこういう時だけ自分たちに手を貸してくれ、と言ってくるならそれは頭がおかしいのではありませんか?」

「まあ、確かに助ける必要はないのかもしれないが……情報代くらいに思っておけばいいんじゃないか? 別にそれほど苦労することでもないし」

「はい。主様がそう言うのであれば、そういうことにして手を貸すくらいはいいですよ」

「……そうだな」


 アズラットたちはエルフの里に入ろうとする。しかし、その前にアクリエルがそれを止めた。


「ねー。戦っていい?」

「……クルシェ?」

「手伝えばいいですか?」

「いや、蝙蝠を眼にして追跡させるくらいでいいかな……近いし、無茶するようならすぐに向かってくれればいい」

「わかりました。アクリエル、周りにいる魔物であれば戦ってもいいですよ」

「やった! じゃあ行ってくるね!」


 そういってアクリエルは村の周りにいる魔物に向かっていく。

 現状この近辺に大物、危険な存在はいないので問題はない。

 もっともアズラットとクルシェの感知は厳密な意味での把握ではない。

 <知覚>にも引っかかっていないが、<知覚>で厳密に魔物の存在を把握するのは情報量の関係上行っていない。

 村にいるエルフの生き残り、死体の確認に使用している。


「……元気だなあ」

「魔物との戦いを積極的に楽しんでいますからね。本当に戦闘するのが好きなんでしょう」


 アクリエルが元気に魔物に向けて駆けていくのを見ての感想がこれである。

 アズラットとクルシェはアクリエルに慣れているからそういう反応だと思われるが、あまり一般的な反応とは言いづらい。

 もっとも、これはこれで別に構わないのだろう。

 アクリエルが苦労するような相手でもなく、問題も危険もない。

 そういうことでアズラットとクルシェは周りのことはアクリエルに任せエルフたちの対応へと向かった。






「くっ……まさか余所者に頼らざるを得ないとは……」

「死人はそれほどいなかった。怪我人は多かったけどな……魔物の行方は?」

「…………あれは上へと向かっていった。だが言っておく。お前のような人間が敵う相手ではない」


 エルフを何人か運び、そのうちの一人から話を聞くアズラット。

 他のエルフからも話は聞いているが、残念ながら明瞭なはっきりとした話は聞けていなかった。

 しかしここできちんとした情報をくれるエルフからようやく話を聞ける。

 エルフ曰く、この村に来た魔物が向かったのは神山の上の方、頂上の方だと。


「……上? でも食事するものなんてないよな」

「この神山には神が降りられるという場所がある。そこに向かったのではないか?」

「なんで魔物がそんな場所に向かうんだ?」

「知らん。しかし、それ以外にここにくる理由は考えられまい。この村の周りにある森を、木々を食らいつくして去って行ったのならば理解できる。しかしそうではない。あの大魔虫は上へと向かっていった。何体かの魔物を引き連れてな。その魔物どもにこの村が襲われ、過ぎ去っていった。我々でも勝てぬような相手だ。お前のようなものがいようともかなうものではない」


 エルフにとってアズラットの存在はただの人間、としてしか見れていない。

 あるいは気絶しているエルフか死んでいるエルフに探知や感知のスキルを持っているものがいたかもしれない。

 あるいはクルシェが手を貸したエルフの方がその手のスキルを持っているのかもしれない。

 ともかく、アズラットのかかわった相手はアズラットのことを人間としてか思っていない。

 ゆえにこの反応なのだろう。

 もっともアズラットが魔物だとわかったからと言ってだから大丈夫だと考えるかはまた別の話だ。

 むしろ魔物であるがゆえに敵視される可能性すらあるかもしれない。

 まあ、クルシェの方がどうなっているかは不明だがわかっていないのならばわからないほうがいいだろう。


「上か……っていうかあそこか……」

「………………お前、知っているのか?」

「………………………………噂話でかな」


 地味に迂闊な発言をするアズラット。

 神山にはエルフの里があることもあって入ることができない。

 それなのになぜ知っているのか……まあ、アズラットは見たことがあるからなのだが。

 それを言うのは流石にできない。ありえないことである。

 なので噂話、伝承の類で知ったということにした。


「そうか……」

「とりあえず、休んでたら? 俺は他に一緒に来ている仲間とあの魔物を倒しに行くから」

「…………くっ。本当ならば行かせるわけにはいかないが、お前たちに頼るしかないのか……」


 別に彼らに頼まれたわけではない。

 ただ神山が目的地であるというクルシェから伝えられた伝言と今回のこと。

 そして神に最も近い場所。

 そういった複数のことを考慮すれば、そこに行くべきなのかもしれない。

 アズラットはそう思ったのであった。

 

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