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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
341/356

308 麓の惨状

 本来の目的地である神山へと向かうアズラットたち。

 その経路は通常の道のりである。

 聖国に行く途中にもいた、虫の魔物はその道のりにも幾らか拡散して存在していた。

 ただ、聖国の時の数やその途中にいた数よりは少ないだろう。

 また、多くは肉食だが草食性もいる。

 肉食性の虫が道中にいるのは獲物を求めてのもの、草食性の虫がいるのははぐれたかそれとも餌を求め外れたか。

 ともかくそういった魔物に関し、アズラットたちはアクリエルに掃討を任せながら道を進む。

 聖国で暴れたがアクリエルは基本的にいくら戦いを行っても満足しきらない。

 満足はするがもっと、と求めるのである。

 ゆえにこういった小さなものでも戦う機会があれば積極的に戦いたがる。

 アズラットやクルシェは無理に戦う必要性はないので基本的にアクリエルに任せるという感じになっている。


「……そういえばクルシェは食事の方は大丈夫か?」

「一応貯めてはおけますから、今はまだ問題ありません。ですが、一月は持たないでしょう。機会があれば人からちょっと血を貰いに行かせてもらいますね」

「ここには聖国があるから動きづらいよな……悪い」

「別に主様が謝る必要はありません。元々案内を任されているのですし、私も主様の傍にいられるのならばそれでいい。最終手段としてアクリエルから貰うという手段もありますから」

「人魚でも大丈夫なのか?」

「人間に限らず人型の魔物であればある程度は。人間が一番都合がいい、ということになりますけど」


 ヴァンパイアの吸血は厳密に人間でならなければいけないということはない。

 人外でも人型魔物は人に近いのでその血でも十分な食事にはなる。

 まあ、栄養価か何か理由は不明だが人間の血が一番食事としてはいいのだが。

 好みか、拒絶反応か、それ以外にも何らかの理由はあるかもしれないが……あまり気にするようなことでもない。


『……むー』

『シエラ? どうした……って聞かなくてもいいか』

『最近あまりお話しできない……』

『まあ、話そうとしたらシエラとしか話せなくなるからな……一応クルシェはシエラの口からおおよそ何を言っているかの予測はできるみたいだけど、それでもな。シエラと話せるのは俺だけってのがな……』


 最近はめっきり話す機会の減っている状況にあるシエラは今もついてきている。

 いや、指輪に憑いているので離れられないのである。

 もっとも、姿を現せる機会も、会話をできる機会も、何か出番があるようなこともない。

 本当にただ傍にいることしかできない。

 それゆえにか、時折自己主張して存在を忘れられないようにしなければいけない。

 まあ、アズラットには常に見えているので気にすることでもないのだが。

 しかし、本人的にはやはりアズラットに対する印象が薄い、と気になるのだろう。


『……機会があるまで待ってくれ』

『わかった。ところで、この先酷いことになってるけど……山の方』

『……ああ、一応ここからでも見えるからな』

「山ですか?」

「ああ。シエラは一応ある程度は高所まで行けるから遠くまで見えるし」

「私も蝙蝠を使い魔にしていますからそれを眼にできますよ?」

「最後の自己主張方法まで奪わないであげて」


 シエラが高く飛び遠くまで見る。実はこれは他の手段での代用はいくらでもできる。

 アズラットなら<跳躍>に<空中跳躍>があるし、クルシェなら使い魔の蝙蝠を眼として使えばいい。

 そういう意味ではシエラは出番がない、あっても無理にシエラが行う必要がないという、本当に役に立てない存在である。

 まあ、アズラットにとっては過去の知り合いという要素だけで大きいのでそこまで気にする必要はないのだが。

 と、そういった話はともかく。ここからでもそれなりに見える神山の方に起きている異常。

 それについての言及である。


「……森が荒れてますね」

「道中にもそれなりにいたが、草食性の虫の魔物のせいだな……ぞろぞろ轟いてるぞ?」

「食らいつくされている、と言うほどではありませんが……あれは回復にかなりの時間がかかるのでは? 仮にも神と名付けられている山なのに環境があれほど酷い状態になるのは……」

「そこを気にしても仕方がないと思うが」

「なに? 何か倒す?」

「……戦闘の気配でもしましたか、アクリエル」

「うん。魔物の話でしょ?」

「まあ、そうだな……あれだけ森の中にいたのなら、登るときに邪魔になる。倒す必要はあるな」

「そうですね。その時は露払いをアクリエルに任せることになるでしょう」

「はーい!」


 基本的に雑魚的との戦闘は大半がアクリエルの仕事である。

 本人がそれを望んでいるところもあり特に問題がない。

 まあ、勝てないような強者がいたら問題があるかもしれない。

 もっとも、それすらもアクリエルにとっては望むところなのだろうが。






「これは……やっぱり酷いな」

「荒れ果ててますね。しかし、もう少しお行儀よく食事をしてもらえないでしょうか? 乱雑に食い散らかされてると足の踏み場も少なくなっています。魔物を倒す必要性もありますし、実に面倒な……」

「ねえ? あれ全部相手していいんだよね?」

「ああ。魔物は……あの虫の魔物とかそういうのでかいのなら殲滅していいぞ」

「よーし、行くよーっ!!」


 元気よくアクリエルが荒れた森、そこにうじゃうじゃと存在する魔物に向けて突貫していく。

 ここにいる虫の魔物は草食性であり基本的にはアクリエルのような生物を襲うようなことはない。

 食事である草木、森に存在する植物を食い荒らしていくだけだ。

 しかし、何者かからの攻撃を受ければその限りではない。

 一体が襲われれば他の草食性の魔物……特に襲われた魔物と同種の魔物が反応し、一気に襲ってくることだろう。

 もっとも数に襲われたところでアクリエルにとっては脅威ではないし、そもそも襲われた魔物が警戒を発する前に始末出来てしまう。

 アクリエルの強さそのものもかなりのものだがやはり魔剣の存在も大きい。

 強力なステータスに強力な武器、それにより多少の強さの魔物ならばどうとでもなる。


「……弱体化されていないからかなり手早く終わりそうですね」

「相手も弱ってないけどな」

「とても強い魔物と強い魔物、強い魔物とそれなりに強い魔物、では前者の方が戦闘は早く済みますよ?」

「そうか? 普通は後者のほうが速く済まないか?」

「……強さの基準値しだいですね。それこそ本当に下層の強さなら、そうなりますけど。ある程度以上の強さがある場合はやはり前者だと思いますが」


 レベル五十とレベル三十、レベル三十とレベル十なら後者の方が早く戦闘は済むだろう。

 だがレベル九十とレベル七十、レベル七十とレベル五十なら?

 まあ、レベルは強さの基準にはならない。

 それに強さが下がるという特異事態が起こっている状態であることと慣れの問題もある。

 通常の戦闘では普段の自分の戦闘能力をよく知り慣れている。

 だから問題はないが、強さが下がった状態だと慣れていない。

 それで戦闘に時間がかかるという可能性もある。

 まあそういった細かい話を気にしても仕方がない。

 どちらにせよ、アクリエルの戦闘能力であればここにいる魔物達を一掃するのは難しくない。

 それだけを理解していれば問題はないのである。


「しかし……これ、大丈夫かな?」

「エルフですか」

「ああ。神山にはエルフがいる……虫の魔物がこれだけいると、確実に向こうも被害があるよな」

「肉食ではないですから、そこまで大きなことにはならないと思いますが……」

「まあ、様子を見るくらいはしておこう。エルフの里自体には被害がないかもしれないけど、その周りは別だろうし……」

「周り?」


 アズラットは一度来ているため知っている。

 エルフの里の周りにある植物群、木々の存在を。それによる守りのことを。

 一応アズラットはその木、魔樹は知り合いである。

 未だ生き残っている可能性のある数少ない知り合い。

 まあ、お互い存在を知っている程度のものだ。

 また会う機会があるとも思っていなかったものであるが。

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