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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
340/356

307.5 聖国に来降する者

「はあああああああああああ…………」

「お疲れ様です、聖女様。しかし、そこまで疲れるほどのことでしたでしょうか?」

「そうなのよ! あれを相手にどれだけ……ああもう! 私以外に魔物の強さがわかるやつが少ないのが大困りよっ!!」


 聖女の持つ特殊な力、結界を伴うことも含めたうえで発揮できるその特殊能力には幾らかの要素がある。

 一つは魔物の弱体化。結界自体の作用もそうだが、聖女の持つ力もそうだ。

 まあ、これに関して言えば結界がなくても使える。

 そもそも聖女は対魔物用の兵器のようなものである。

 ただし攻撃性能自体はほぼないと言ってもいいいが。

 弱体化により魔物が本来の魔物が持ち得る力を一切持たなくなることによる消失は有り得るかもしれない。

 一つは結界内にいる魔物の感知。

 入ってきた魔物の感知から、それがどこにいるかまでおおよそ把握できる。

 これは今自分のいる位置からどれくらい反れているかの距離関係ではなく、結界内部のどの位置にいるかの把握である。

 ただ、自分を中心とした聖国の結界を範囲として上空の視点から何処にいるかの大まかな把握だ。

 それでも移動してもわかるというのは利点であるし、何処から入ってきたか、どこにいるかわかれば騎士を向かわせやすい。

 そういう点では極めて有用的な能力と言えるだろう。

 そして今回アズラットに対し聖女が怯えていた最大の理由。それが魔物の強さの認知だ。

 いわゆる<魔物感知>のような感知スキルはこの世界にも存在するが、そういったスキルで魔物の強さは把握できない。

 仮に魔物の強さを知りたいのであれば<魔物知覚>等になるかと思われる。

 少なくとも魔物の存在を感知する系のスキルでは難しい。

 そもそも<感知>系統のスキルはその存在を感知するものであり、その危険性や大きさ、規模を知ることができるものではない。

 ゆえに魔物の強さを把握できるようなスキルを持ち得ることは少ない。

 むしろ感知系のスキルよりも戦闘系のスキルの方が強さの把握は有り得るだろう。

 <実力察知>のような。いや、これもまた感知系のスキルと言えるだろうか。

 意外にスキルの種類は多様なので面倒である。

 ともかく、魔物の強さを感知できるような人間は少なく、聖女はその数少ない人間の一人である。

 彼女の供として一緒にいた女性もアズラットの強さは感知できなかった。故に認識の違いがある。

 アズラットは見た目だけでいえば普通の人間のようにしか見えないのだから。


「魔王級……そう認定されるような魔物よ?」

「そう言われましても……私は相手が魔物であるかどうかの把握すらできませんから。実力があるのはあそこで起きていた状況を見れば変わるのですが」

「そうね……見た目でいえばただの人間のようにしか見えないから、感知能力がない人だとそういう判断になっちゃうか。でもね、あれは本当に化け物だった。それこそこの聖国を亡ぼすことができてもおかしくないくらいに。いい? ああいう存在も世の中にはいるの。通過しただけだけど、この国に虫を引き連れてきたのと同じように。私が弱体化しようとしたところで弱体化を受けても私ごと殺せる、騎士たちが守ったところで騎士たちごと始末出来る、そんな怪物なの。忘れないで」

「……はい」


 それほどまでに聖女はアズラットの存在を恐れていた。

 実際それだけ恐れるくらいの強さはあるだろう。

 ただ、あまりこういうことは人前では言ってはいけないことでもある。

 供の女性との会話、対話だからこそ話したことだ。


「でも、割と軽い感じに話してましたね」

「立場上見せかけでもこちらが上位で話さなきゃいけないでしょうが……なんで私聖女なのよ。聖国とか面倒くさいわねー、ほんと……」

「聖女様」

「わかってる。別に嫌だとは言わないわ……面倒だけど」


 聖女は聖女で色々と苦労しているのである。

 いろいろと面倒だがやるべきことはやっているのである。

 まあ、相手がアズラットでなければどう思われたかもわからないが。

 そもそもまともに話し合いができる魔物の方が少ないと思われるが。






 と、アズラットとの対話も含め聖国はいろいろとあった。襲撃に関しての対処はその手助けもあってなんとかなった。

 現時点において、聖国からは久しく虫の魔物を排除することができた。

 しかしその被害は甚大で、聖国の騎士たちの多くは消耗し怪我人が増え、幾らか機能不全に陥っている。

 街も破壊された場所が多く、死者もいないわけではない。その被害が今もまだ残っていた。

 幸いなことにい港街に行く途中にいた襲ってくる危険の高い魔物はおおよそ倒されており行き来はしやすい。

 港街にいた聖国の騎士も聖国にに戻ってきている。

 ここまではいい。ここまでは問題ない。問題があるとすれば、今後である。

 聖国の戦力は落ち込み、今は落ち着いたが再度魔物の襲撃があれば今度は止めきれないだろう。

 以前止めたアズラットたちは既に神山へと向かっている。

 それを連れてくることもできない、そもそも頼ることもできない。

 騎士たちは数を減らし、怪我人を向かわせ死人を増やすわけにもいかない。

 聖国の人間を避難させたいところであるが根本的な解決にはならないだろう。

 そもそも聖国が魔物達に対応できる場として最高の場所であり、一番安全な場所ともいえる。

 そこから逃げること自体がそもそも異常事態になるだろう。


「っ! 虫の魔物達の侵入を確認したわ」

「どこですか!」

「ここ。前の時と同じ……」


 そして幾らか間を置けば当然虫の魔物達が再訪する。

 この魔物達は迷宮主、魔王級と呼ばれる虫の魔物に誘引されている。

 おそらくは虫の魔物が使う匂いなどがその原因だろう。

 蟻が巣に帰る道標とするようなものと同じように、虫の魔物が道として認識している。

 それに迷宮に発生した虫の魔物が誘導されている……ゆえに定期的な、しかし散発的な連続した虫の魔物の襲撃となるわけである。


「騎士たちは……」

「怪我をしている騎士が多い。全員は動かせない……決死隊になるかも……」

「……守るために、最悪そうせざるをえない、ですか」

「ええ。本当にこういうことをするのは嫌なんだけど……犠牲を増やすわけにはいかない、から」


 騎士たちを死なせる……自分の命令で殺す、そんな覚悟を少女はしなければならない。

 聖女として生まれた彼女はそんな重い枷、運命を持たなければいけない存在なのかもしれない。

 中々に大変である、そう思うような立場だ。

 もっとも……今回はたまたま助けがあったようであるが。


「え?」

「どうしました?」

「魔物が減ってる? いや、これは減らされてる!? え!? どういうこと!?」


 聖女は魔物の状況を知ることができる。今どこにいるか。

 しかしそれは魔物が魔物として存在していなければいけない。

 魔物が殺されればその存在を認識できなくなる。

 つまり魔物がいなくなったということは魔物が死んだということだ。

 これに関して魔物同士の同士討ちというものはない。

 つまり何者かが殺して回っているということ。


「様子を見に行くわ!」

「騎士を連れて行きます! 魔物はまだ残っているのでしょう!?」

「……もう半数は減ってる。っていうか、原因は魔物じゃないから。あの魔王級のそれとは別だから、たぶん大丈夫」

「……だといいですね」




「どうなってるの!」

「魔物が、魔物が一瞬で……!」

「っ!」


 目の前で魔物が斬り殺される場面を聖女は見た。


「…………人間? 魔物ではないみたいだけど……」


 それは先日見た魔物、その戦いに引けを取らない圧倒的な強さを見せつけていた。

 いや、魔物達よりも強い。

 あの魔物の戦いは弱体化されていたので何とも言えないところであるが。


「ふっ」


 それは人間としては破格の強さを有している。身にまとう装備は他に類を見ないものだった。

 武器もまたそうだろう。両方とも聖国では認められることのない魔物装備だが。

 それは強さの証。これまで経験してきた戦闘の結果。

 多くの装備に竜の素材が使われているのが確認できる。

 それほどまでに竜を殺してきた過去を持つ。

 今この世界には存在しない、存在し得ない絶対的な実力者。

 竜のいる迷宮は少ない。かつて存在した、竜生迷宮のような迷宮でもなければ。

 それはかつて竜生迷宮にいた者。竜生迷宮を攻略した者。

 竜生迷宮の合った場所に眠っていた者。


「ふう………………」


 ネーデ。かつてアズラットと縁のあった<神格者>。

 アズラットを探し、あちこち巡り、ようやくその残り香を見つける。

 まあ、残り香と言っても匂いではなく気配のようなものだが。

 聖国に残されたアズラットの気配。そこからアズラットを追う。

 彼女はようやく探し求めていた者に追いついたのであった。

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