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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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305 聖国での戦い

 アズラットたちは聖国へと侵入した。

 現在の聖国の状況ではその侵入の妨害も成されることはない。

 聖国は虫の魔物の群れに襲われている。

 とは言っても、完全にそれらが暴れているというわけではない。

 聖国の住人自体は未だに街に残っている。虫の魔物達に対応しているのは騎士達である。

 ただ、そんな彼らも魔物を相手に無事でいるわけではない。

 そもそも魔物の数、襲撃の頻度が違う。

 今でこそ大分落ち着いて入るが、逸れて港に行った魔物もいるが何度も虫の魔物は聖国へと襲撃してきている。

 途切れ途切れであるため守る余裕があるが、その頻度と被害の問題もあって今はだいぶ余裕がない。

 騎士たちも度重なる疲労、戦い毎に怪我で戦線に参加できなくなる騎士、強い魔物の群れということもあって大変な状況だ。

 魔物も全てが倒されてはおらず、街に残り様々な場所に損害を与えている。


「ふーん? 結構多いね?」


 とっ、と軽い音を立てながら聖国の建物の上に姿を見せる小さな影。アクリエルである。

 <跳躍>はないが彼女の身体能力は高く、またそれ以外のスキルでも同じことはできなくもない。

 まあ、わざわざ高いところに登る必要性は本来ない。別に誰が見ているわけでもない。

 直上から襲えるという点ならば利点がないとは言わないが。


「ふん、ふん、ふん、まあそれなりに数はいるね? あっちで見たのと同じだから、それほどは強くないかな? でも、数がいるならまあいいよね」


 アクリエルは戦いに傾倒している存在である。

 己の人生を全て費やし、戦いにのみ意識を向ける。

 まあ本当に戦いのみというわけではないが、奥底に戦いへの熱情が根付いていることには間違いないだろう。

 仮にこのまま成長しても生き方は変わりそうにない。多少幼さはなくなると思われるが。

 そんな彼女の戦いへの考え方はあまり難しいものではない。

 相手の強さ、相手の数、戦いの規模、戦いの時間、重視するのはだいたいそのくらい。

 彼女は戦えればそれでいい。強い相手であればなおいいし、数が多ければなおいい。

 だが、最も重視することがあるとすれば、それは戦いの継続性、時間である。

 体に熱が走る戦い、満足するような戦いの熱量を長く維持できること。

 戦いという楽しさを維持し続けること。

 戦いが楽しいというものであるからこそ、その内容はそこまで重要視していない。

 弱くとも、戦えれば、長く、たくさん、多く、戦えればそれでいい。


「い、く、よっ!!」


 聖国を襲う虫の群れ、騎士達が相手をしきれないその一部にアクリエルは襲い掛かった。






「くっ!」

「怪我人を運べ! ここは食い止める!」

「すまない!」


 騎士たちも戦いに出向くが、全ての騎士が戦闘において虫の魔物に勝てるわけではない。

 騎士と言っても個々の実力の差はあり、戦いの経験が豊富なものもいればそうでないものもいる。

 また、相手をしてきた魔物次第でもまた向き不向きができる。

 それ以上に通常の武器防具が通じない相手ではなかなか戦闘そのものがつらい。

 魔物素材の武器防具を使ってないことによる弊害ともいえるだろう。

 まあ、彼らは己たちの心情を優先するためそこまでは気にしないだろう。

 ともかく戦いで怪我をしたものを逃がしつつ、魔物の相手をする。

 しかし数が減った状態は彼らにとってはとてもつらい。

 なぜなら今まで相手をしていた時点で不利気味だったのにそこで数が減ったのだからつらいのは当然のこと。

 虫の魔物達を相手に彼らは追い詰められている。窮地である。


「……勝ち目がない、か」

「はっ! 魔物相手にそんなこと言ってる場合か! やるしかねえんだ!」

「わかっている!」


 焦る気持ちはあるし、諦念もある。魔物に負け、死ぬかもしれないという恐怖もある。

 だが彼らは騎士、聖国の騎士。己の生き方、立場、その役割に誇りを持つ。

 魔物との戦いから逃げるわけにはいかない。国の人間を守るために戦わなければいけない。

 とはいえ、やはり勝ちの目は見えない。そもそも最初から不利だった時点で見えていなかった。

 ゆえに、ここで守るために戦う彼らは死を覚悟するしかない状況である。


「無理はしなくてもいいんですよ?」

「っ!? だ、誰だっ!?」


 そこに唐突に女性の姿が現れることがなかったのならば。


「今すぐこの場から離れなさい。この数を相手に現状のあなたたちでは勝ち目はないでしょう」

「女性、か……?」

「なんでここにいる! ここれは俺らがどうにかするからお前は早く逃げろ!」

「はっ……そうだ! 魔物の相手は我ら騎士の仕事だ!」


 彼らとしてもいきなり出てきた女性を相手に言われた通りにする、というわけにはいかない。

 まあ、その女性がこの国の人間である可能性もあるのだから彼らの役割上仕方ないともいえる。


「私はこの国の人間ではありません。一応冒険者証もあります」

「冒険者だと?」

「だが、一人で魔物の相手をできるわけが……」

「今、悠長に会話で来ているのはなぜだと思いますか?」

「……はっ! そういえば魔物は……!」


 女性が彼らと話している間、騎士達と戦っていた魔物は彼らに襲い掛かってきていなかった。

 まさか魔物が悠長に人間同士の話し合いを見守っているというはずはないだろう。

 騎士の一人が魔物に目を向けると、魔物達はある一点から近づけない……何らかの壁にぶつかっている様子だった。


「<遮断>のスキルにより空間を隔絶している状態です。まあ、さすがに物量で押し込まれれば突破されるのですが……ともかく、今のうちにそちらは逃げてください」

「いや、だが、しかし……」

「だがもしかしもありません。はっきり言いましょう。あなた方は邪魔になります。装備も貧弱、実力も足りていない。あの魔物達を押しとどめることすらろくにできない実力でスキル一つで押しとどめられる私よりも強いと言えますか?」

「………………」

「避難誘導、怪我人の運搬、倒せる魔物の相手、散っている魔物数を減らすくらいのことはできるでしょう。勝てない相手に挑む必要はありません。あれらの相手は私がしますので、あなた方は余所に行って下さい。邪魔です」

「…………わかった」


 辛辣であるが、彼らも自分たちではどうしようもないということは理解している。

 ゆえに女性の言い分に従い、他の手の回っていないところに向かうしかなかった。




「行きましたか。はあ、まったく。こちらも今の状況では押しとどめるのがせいぜいですから、いなくなってくれないと全力を出せないんですよね」


 <遮断>の壁が解け、魔物の群れが解放される。

 虫の魔物達は残った女性……クルシェに向けて襲い掛かる。


「さて……本題に入りましょう。ヴァンパイアである私が全力を出すために」


 そうつぶやいた瞬間、周囲一帯の光が消える。黒い空間ができあがる。

 <遮断>のスキルは遮断する対象を選べる。

 先ほど虫の魔物達を押しとどめていたのは物質の入出を遮ったため。

 例えば温度を遮れば<保温>のスキルに近いことができる。

 港でやったような土壁に掛けることで物質的な防護も可能だ。

 しかし、彼女の場合、最も有効的な使い方はヴァンパイアとしての全力を出すことを可能にすることだろう。

 彼女のようなヴァンパイア……進化した状態でも日の光には圧倒的に弱く、昼間日光の下では大きく力を失ってしまう。

 ではどうすればいいのか? 簡単な話だ。日光を全て一帯から失くしてしまえばい。

 もちろん簡単な話ではないが、彼女の<遮断>のスキルであれば、外からの光の流入を遮ることで可能になる。

 中に残る光は外へ出ることを遮らないようにしているため問題なく、それにより日光のない暗闇を作ることができる。


「さあ、行きますよ」


 その暗闇の中であれば、彼女は全力を出せる。虫の魔物など赤子をの手を捻るようなものだろう。

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