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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
334/356

304 聖国の様子を

 聖国へと向かう途中の道中。アズラットたちは多くの魔物達と遭遇する。 

 魔物は虫の魔物ばかり、港街を襲ってきた魔物達と同じ種の魔物である。

 それらの魔物が群れを成して……というほどではないが、かなり散った形で道中に残っている。

 中には港街には向かってこなかった草食の虫の魔物も多い。逆に雑食や肉食は大幅に減っている。


「数が多いな……」

「魔物全部を倒すつもりですか?」

「アクリエルが……」


 道中の魔物、特に草食の虫の魔物は別にそこまで熱心に倒す必要性はない。

 彼らがどこに向かうにしても、聖国や港街には向かわない。

 草食の魔物の主な食事は草花や木、街には緑が少ない。

 ないとは言わないが、わざわざ食事のできる者が少ない場所を目指す可能性は低い。

 もちろん放っておけば森や草原が消え、禿山や荒れ地ができる可能性もあるが、そこは今気にしても仕方がない。

 人間や動物、魔物などは苦労するかもしれないが、アズラットたちには別に関わりない話である。

 なので別に無視してもいいのだが……肉食や雑食は倒すようにしているためか、アクリエルが同様に取り扱っている。

 つまりアクリエルが道中の魔物に挑みかかり一掃しようとしているわけである。


「やーっ!!」

「……楽しそうですね」

「まあ、アクリエルは戦闘が好きなようだからな……戦えるってだけで十分なんだろう」


 その戦闘への想念ゆえか、雑魚であろうとも、向こうから襲ってこなくとも、戦えるというだけで嬉しそうに笑顔になっている。

 強さとしては群れとして襲ってきた魔物よりも弱い。

 あの魔物達はある程度まとまり統率されていたが、散った魔物はそうではない。

 彼らは統率から外れているためか、積極性も策略性もなく、襲ってくる勢いも足りていない。

 強い相手と戦いたがるアクリエルとしては弱いゆえにそちらでは満足できないが、戦えればそれでいいので特に問題はない。


「しかし、聖国に近づくとやっぱり弱るな……」

「聖国は魔物を弱体化させる結界を敷いています。もっとも、主様にも私にも、アクリエルにもそこまで脅威である影響はなさそうですが」

「まあ、自覚できるほどにもとよりは弱くなる、というのはわかるんだけど。無効化とかはできないのか?」

「わかりません……魔物である限り影響を受けるものかと思いますが、私もあまり詳しくは。流石に直接聖国へと乗り込んで情報収集をするというわけにはいきませんから」


 クルシェも聖国の結界の影響を受け弱体化する。

 それでも問題なく活動できるが、やはり弱体化はつらい。

 そもそも聖国に入ろうとした時点で魔物はその存在を把握されてしまう。

 なので入ることはできない。

 さらに言えばクルシェはヴァンパイアであるため昼間にはさらに弱体化する。

 そもそも昼間に活動できる時点で特殊なのだが。

 ともかく、そういうこともあってクルシェは聖国ではとんでもなく弱体化するのであまり来たくはないわけだ。

 今回は主であるアズラットと一緒に行くということでついてきているが一人ならば絶対に来ない。


「彼女も弱っているはずですが……」

「スキルの影響か? 弱体化は…………動き的にはしているみたいだけど、本人が気にしていない感じだからなあ……」


 アクリエルもまた結界の影響を受けている。

 一応人魚はこの世界の住人には魔物としての認識は薄い。

 しかし、結界の対象としての魔物には人魚も含まれている。

 もちろんエルフなども含まれており、範囲に入れば弱体化する。

 そういうことでアクリエルも弱体化の影響を受けているが、本人は一切気にしていない。

 いや、そもそも気づいているかどうかすらわからない。

 彼女のスキルの<戦闘高揚>の影響だろうか。


「確かに影響は受けている感じですか……まあ、魔物は相手も同じですし、そこまで悪影響にはなりませんか」

「人間相手は気にかかるところだけど……」

「弱体化しても彼女の強さであれば、よほどの強者を相手にするとき以外は気にする必要はありません。聖国の騎士は弱くはありませんが、強者というわけでもありませんから。今の主様、アクリエルであれば大丈夫です」

「クルシェは?」

「……昼間は少し辛いですね。ただ、私は対策ともいえる秘策がありますので、なんとかできなくはないです」

「秘策?」

「はい。まあ、それは秘密にしておきますね。驚かせて見せたいので」


 クルシェは昼間には弱体化する。

 このまま聖国に行けばさらに弱体化するのでできれば行きたくない。

 しかし、行かざるを得ないこの状況は彼女にとってつらいはず……なのだが、実は彼女は何かあった時の対策がある。

 秘策と言える彼女のそれはアズラットに対しても現状では隠している内容である。

 まあ、言ってもいいのだが、彼女としてはアズラットの驚いた顔を見たい、という想いや隠し事をするという背徳感に酔いしれたいという気分がある。

 どこかずれた理由だが、まあ彼女もそういった倒錯的な嗜好があるようである。


「……そういうなら聞かないでおく。なら今から行っても問題ないってことでいいな?」

「はい。特にこれと言って問題ありません。今からですと向こうに着くころには夕方前くらいでしょうか……」

「正確な時間は不明だけど、とりあえず急ごう」

「アクリエルが暴れていますよ?」

「…………引っ張ってこれない?」

「道中の魔物の相当が必要です。ある程度は残してもいいですが、現状完全放置というわけにはいきません」

「面倒な……」


 アクリエルが道中の魔物を相手にしているためアズラットたちが予定通り、急いで進むというわけにもいかない。

 しかし、同時に魔物を完全に放置するわけにもいかないという問題もある。

 すべてを倒す必然性はない。草食の魔物もいるし、肉食や雑食もそこまで多くの数がいるわけではない。

 しかし、再度群れをつくる可能性はあるし、単独でもそれなりに危険はある。

 草食の魔物も全て放置するわけにもいかない。

 聖国で活動しているときに戻ってきて襲ってきた挟み撃ちになるのも困る。

 もちろんそうなるとは限らないわけだが。

 ともかくそういったいろいろな理由があり、アズラットたちは聖国に進むのに最速での移動はできなかった。

 まあ、それが決して都合が悪いということではないのだが。






「………………遠目だけど、かなり酷いことになってる?」

『見てこようか?』

『頼む。っていうか、どこまで離れられる?』

『あまり遠くはちょっと。高い所から見るから……』

『まあ、参考にはなるか。頼む』

『うん!』


 シエラが上空に上がる。

 基本的に指輪に縛られる彼女はアズラットからあまり離れることはできない。

 それでも距離だけで見れば高空に上がればそれなりに遠くにある物を見ることはできる。

 上空からの視点の情報収集はそれだけで価値があるだろう。


「あの虫の魔物、どうやらここを通過して港の方に来たようですね」

「……この様子だとそうなんだろう」

「助けるんですか? 聖国ですよ?」

「まあ、クルシェはいろいろ恨みがあるのかもしれないけど……これを無視するわけにはいかないだろ」

「どーするの?」

「魔物退治に行く。弱体化の影響は気になるか?」

「大丈夫!」

「ならいい」


 聖国は虫の群れに襲われている。

 それもすべて魔物、大きな虫の魔物である。港街に襲来した規模よりもさらに大きな規模だ。

 もしもっと遠方を見れるのであれば群れを成して聖国へと向かっている虫の群れも見えただろう。

 流石に途切れなく、というほどではないが結構な規模である。それらの魔物が聖国を襲っていた。

 それに対してアズラットは対応するつもりである。

 決して必要のないこと、魔物としてはむしろ聖国が無くなったほうが都合がいいはずなのに。

 まあ、それでこそアズラットらしいというべきなのだろう。

 手伝うクルシェとしては小さく、仕方ないとため息をつくしかない状況だった。

 主の望みであるため仕方がないが、個人的にはあまりやりたくないなあというのが彼女の本音である。

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