表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
331/356

301 アクリエルの大暴れ

 魔物が襲撃するにしても、街の人間が街の中で待ち構えるはずがない。

 街の外に出て襲ってくる魔物に対処するのが基本だろう。

 そうであるため、アクリエルに街に入る魔物の対処を優先させる、というのは少し間違いである。

 まあ、そんな細かい話をしたところでそもそもアクリエルがそういった指示を的確に実行できるかというとそうではない。

 彼女は実力者であるが精神的にはかなり幼い子供である。

 そしてその精神性は戦闘に傾倒している。

 幼い故に戦闘に傾倒しているのか、戦闘に傾倒しすぎているから精神的に成長が見られないのか。

 細かい彼女の事情、成長に関しての話はともかく、彼女は性質的に言われたことを実行できるほど頭が良くない。 

 その代わりとでもいうべきか、彼女の戦闘への勘はすさまじく高いため、自分にとってより良い結果をもたらす戦いを行える。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」


 アクリエルはひたすら笑いながら、戦いを楽しみながら、敵へと攻撃を行っている。

 一か所に留まり一体一体を相手にする、という遅い戦いではなく一気に駆け抜けながら斬り捨てていく戦い。

 基本的に相手の数が多いので留まらないというのは悪い選択ではない。

 ただ魔剣の切れ味はかなりの物であるためできれば一体一体を倒していく方が本来はいいだろう。

 しかし、アクリエルは駆け抜けながら斬り捨てていくだけだ。


「んー、強くはない! でも数は多い! 面倒くさいなあ!」


 面倒だと言いながらもその表情は笑顔だ。

 彼女はただひたすら戦えればいい。戦いをできればいい。

 その内容は重要ではない。いや、内容の重要性もあるがそれ以上に戦うことの方が重要だ。

 結果は重要ではない。最悪自分が殺されても、それでも戦いができれば満足するだろう。

 もっとも彼女はそう簡単に死ぬほど甘くはない。

 この幼さで海の中無数の魔物を殺してきたのだから。

 強者のみを求めるでもなく、ただひたすら戦う。それだけが彼女の戦いへの求め。

 数が多いというのは面倒くさいことになるが、逆にそれは戦う時間が増えるということでもある。

 一体一体を相手するのではなく斬り捨てていくのはそのほうがいいからだ。

 留まることで戦闘に制限が加わるのは面倒くさい、戦いを楽しめない。

 それに斬り捨てても相手はまだ死なない。

 腕を、足を、腹を。少し切り捨てるだけではこの戦いは終わらない。相手を殺せない。

 相手を殺し尽くすまで、戦いは終わらない。そしてその相手は簡単には死なない。


「あははははははははははははははははははははははははは!!」


 狂ったように笑い声をあげながら彼女は駆け抜けていく。

 最初に言われていた街に入る魔物を優先にとはどこに行ったのか。

 街の外の大量に魔物がいる方向にその身を晒しながら突っ込んで行っている。

 彼女持つスキルは剣のスキルと戦闘のスキル。

 特に戦闘のスキルは彼女の才能に多大な助けとなっている。

 <戦闘高揚>はその性質を加速させ、業の<戦闘狂>と合わせその戦闘への感情を加速させる。

 それゆえに彼女は多少の傷では怯まず、躊躇もない。

 死ぬような傷を受けようとも死ぬまで動き続けるだろう。

 そしてそれらのスキルと業のおかげで戦闘に関しての能力は極めて高い。

 それに関しては<戦闘本能>の影響もある。戦闘への勘、戦闘における選択、戦闘におけるあらゆる出来事。

 戦いの流れ、戦いの結果、その全てを……どうなるかはわからないが、こうなるだろうというのを彼女は把握している。


「とっ!? もう、危ないな、あっ!」


 陸上での戦いは彼女は少し慣れていない。それでもスキルの恩恵か、彼女の本能的な部分か。

 戦闘において負けるようなことはなく、彼女は戦場を駆け抜け魔物を容赦なく叩きのめしている。

 もっとも今回相手にしているのは虫の魔物。

 彼らはどちらかというと本能的で機械的な動きを見せる。

 指揮者がいるのか、それとも何らかの影響があるのか、傷つこうとも逃げるようなことはない。

 そして足や腕を斬った程度では弱るような様子は見せず、まだまだ動き続ける。

 腹を切っても動き続ける。頭を完全に潰すか落とすかしなければそう簡単に死にはしない。

 仮にそうしても体は当初の命令のまま動き続ける場合もある。死ににくい厄介な相手である。






「まったく。本当に人の話を聞かないんですから。主様から先にこうしてはいけないと言われていたでしょうに……まあ、あの子は感覚で生きているので仕方ないのかもしれませんが。あの調子だと戻ってきたら化け物扱いは免れそうにないですね。どうせ長居をするわけではないのでいいですが。こちらの影が薄くなるという点ではありがたいかもしれません……あの子も気にしないでしょうし」


 久々の戦いということで暴走した戦いの様子を見せるアクリエル。

 人間から見れば完全に畏怖、恐怖の対象だ。

 一応これだけの魔物を相手に守ってもらった恩はあるが、逆に言えばそれだけの魔物を相手にできる実力があるということでもある。

 それはつまり街を滅ぼすくらい容易なくらいの実力を有するということ。

 それが怖くないわけがない。

 ただ、排斥運動が起きるかはともかく、多少の視線程度ではアクリエルは堪えない。

 もともと彼女は自分の住んでいた所でも似たようなものだったからだ。

 それにそんなことよりも戦闘の方を優先する。

 今はアクリエルの傍にはアズラットやクルシェの存在もある。

 仮に多少傷ついた所で二人がいるだけこれまでよりましだろう。

 まあ、一番は母親の方がよかったかもしれない……その母親にも怯えられる様子はわずかなりともあったわけだが。


「街に向かってますね」


 クルシェはアクリエルの代わりに街を守る役目を担うつもりである。

 これに関しては事前のアズラットの指示もある。

 アクリエルが戦いに集中してしまい他を疎かにする可能性は考慮済み。

 まあ、アズラットの指示はそれが目的の物ではない。

 アズラットの指示はどちらかというとアクリエルを守ること、彼女が無謀や無茶をしたときそれを守ることが優先である。

 最悪の場合アズラットも街よりも身内、クルシェやアクリエルを優先する。

 そのあたりの判断をクルシェは間違わないだろう。


「まったく、面倒なことを。土よ彼の者たちを守る堅牢な壁となれ。<土壁>」


 <土魔法>。魔法系のスキルは個人差が大きく、その魔法の扱い方も様々である。

 また、利用方法も様々であ、今クルシェが行ったように魔法として使う例もあれば、他のスキルの補助的な役割を担うこともある。

 そのあたりの扱い方は人それぞれ、本当に個人差が激しいものである。


「それと……<遮断>」


 土の壁を<土魔法>で生み出すが、それ単体で攻撃を防げるほど強固なものではない。

 向かう魔物の数、勢いを考慮してもなかなか厳しいものがある。そこで<遮断>のスキルだ。

 クルシェの持つスキルの内、かなり使われレベルの高い二つのスキル。

 その二つを合わせかなり強固なものとなる。

 その壁に魔物達は衝突し、動きが遮られる。街に近づかせることをしない。

 とはいえ、壁自体はそこまで高い物ではないため魔物の群れが密集すればその上を抜けていくものもいる。

 もちろんこの場にいるのはクルシェやアクリエルだけではない。

 アズラットもいるし、街にいる人間も多い。


「任せても大丈夫ですね」


 自分よりもはるかに強いアズラットがいる以上、それほど気にしなくても問題はないだろう。

 そう考え、クルシェはアズラットの指示をこなすためこの場を去りアクリエルを追う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ