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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
330/356

300 港街の襲撃

 魔物がやってくる。聖国へと向かった騎士たちが出会った魔物達の群れ、その報告。

 そして、その後に続く遠方に見える魔物の影、それらが近づいてくる様子からそれが確実なものとなった。

 それに対し聖国の騎士を含め、港街にいる戦える人員が戦闘準備を始めている。

 多くの戦えない街の人々もある程度守りを固めるなり、いざという時戦えるなりの準備をしている。

 先の襲われたときはかなり急なことだったが数が少なめだったため大きな被害はなかった。

 今回は数は多めだが、代わりに準備期間が設けられている。

 しかし、直前の時の物とは違い危険はかなり大きいことだろう。


「ねえねえ! 私も戦っていいんだよね!?」

「ああ……っていうか、アクリエルは思いっきり戦って倒してほしい所かな。ただし、街を襲ってる魔物を優先な。街の外にたくさんいるからってそっちに出向いたりしないように」

「うん! わかった!」

「…………クルシェ、アクリエルの監督を頼める?」

「はい。彼女の動きは不安ですからね。戦闘に関して彼女は問題なく戦えるとは思いますが、それ以外の点は不安が多すぎます。勝手に行動し何をしてしまうかもわからない。突出しすぎて集中攻撃を受け死ぬ危険もあるでしょう。流石にそうなるとこちらも困ります……いてもいなくても変わりませんが、いた方が都合はいいでしょうからね。害はありませんし」


 当然港街にいるアズラットたちも襲ってくる魔物を相手に戦うつもりである。

 彼らは別に街を守る義務もないし、人間でなく魔物であるため無視してもいい。

 そもそも神山へと向かう予定がある。

 しかし、それでも彼らは人を守るために活動する。アズラットもクルシェもかつての人間としての性質が残っているからだ。

 まあ、クルシェはどちらかというと主であるアズラットの意思を優先しているところはある。

 アズラットはその精神の善性に従っているところが大きい。

 ともかく彼らは存分にその力を振るうつもりであるようだ。その点はアクリエルも同じ。

 ただ、アクリエルの場合はその戦闘本能、戦闘狂の性質を思いっきり発揮したいだけだろう。

 戦いたい、大暴れしたい、思いっきり力を振るいたい、敵を倒したい。

 そんな彼女の戦いへの本能。最近はあまりそれを発散する場面がなかった。

 そもそも海から出てからはあまり発散する機会はなかった。

 彼女は海中では極めて自由に活動できていたが、地上に出てきてからはそうではない。

 まあ、海でも減ってはいたのだが。

 そういうことで今回大暴れできる機会で思いっきり発散してもらおうということである。

 まあ、多少発散したところでまたすぐに暴れたくなるのだろうが。


「ところで主様」

「なに?」

「武器はお持ちですか?」

「……一応所有はしてる。使わないけど。でもなんで?」

「私たちは別に武器がなくても戦えます。ですが、人間のほとんどは武器無しで戦えるほど強くはありません。一部の例外はそれくらいに強い冒険者がいたりしますが、そういった存在は有名ですしそれを証明できるものがあります。ですが主様や私はそうではないでしょう? あの子は一応冒険者登録できているようですが」

「……まあ、そうだな」

「最悪の場合、一体何者かと怪しまれた疑われたり、場合によってはその力が異常すぎるゆえに魔物扱いされかねません。厳密には私たちは魔物なので間違っていませんが。それを回避するためにも武器を用意しておいた方がいいと思います」

「なるほど……」


 あまりにも人間離れした力を行使している姿を見られると実は人間ではないのでは、と思われるだろう。

 まあ、一部の人間にはそういった存在はいないでもないが、そういった人間は証明手段が多い。

 また個人の知名度が高い場合が多い。

 有名であるがゆえにどのような戦い方をしようとも気にする必要がないのである。

 アズラットとクルシェはそうった扱いにはならず、また二人の戦い方は少々奇抜……異様に過ぎると言える。

 はっきり言って化け物認定されてもおかしくはない。

 せめて剣を備え、少しは人間らしい様子を見せたほうがいいだろう。


「でも、武器とか使えないけど」

「持ってるだけでもいいです。使う必要は特にありません。それっぽく見えれば特に問題はありませんよ。私は魔法もありますし」

「…………俺は魔法とかないんだよな。直接攻撃だけ」

「ある程度は武器を持って殴りつける、叩きつけるくらいはした方がいいでしょうね。斬れるのならば斬ったほうがいいともいますが」

「剣技系スキルはないし、見様見真似はできても振るったことはないんだよな……まあ、やれるだけやってみる」

「はい。ところで剣は……」

「ああ、すぐに出すよ」


 <同化>で自分の体に取り込んでいた剣をアズラットは取り出す。

 二本、アズラットとクルシェの分だ。

 もっともこの剣は奪った物であり、特にこれと言って業物とかはない。

 むしろ使い古しでどこまで持つかわからないくらいだ。


「盗賊のですね……これを使うんですか? 不安です」

「他に持ってないから。持っているのはアクリエルが持ってる剣くらいだよ」

「………………それでは仕方ありませんね。ここで武器屋から購入できればありがたいのですが、さすがに今の状況では難しいでしょう」


 戦闘準備中ということもあって店はやっていない。武器屋も今は店を閉めている。

 むしろ武器は今回の対策のために提出、という形になりそうである。

 そちらに行けば武器をもらえるかもしれない。

 まあ、彼らも商売道具だからそこまで極端なことはできないかもしれない。

 結局どういう形であれアズラットたちでは手が出しにくい状況であるということになる。


『アズラット、がんばって』

『ああ。シエラは見ているだけだから安全なのはよかったよ」

『……本当は私も参加したいんだよ? アズラットを守りたい、助けたいって思ってるんだよ?』

『あー……うん、シエラはそう思ってくれるだけでいいよ。シエラは何というか、今の状況は変だけど基本的に普通の女の子だろう? それとも俺と別れてから何か数奇な出来事でもあったか? 強大な力を得るような』

『……ない』

『なら、普通の一般的な生活を送る人間に近いだろ。そんなシエラが無茶したところで何ができるわけでもないじゃないか。だから大人しくしているほうが一番だ』

『………………わかった』


 何もできないシエラは想いが空回りをしている。

 もっとも彼女が参加したところでどの程度の変化がある物か。

 せいぜい死なないがゆえに多少無茶できる、というくらいだろう。

 大人の姿でも戦力として勘定に入れることはできない。


「無理をしても仕方ありませんよ。あなたは大人しく、主様の傍にいるだけでいいんです」

「……あれ? クルシェ言葉わかったっけ?」

「<読唇術>も<読心>も会話の傍受手段もありませんが、なんとなく二人を見ての雰囲気と唇の動きで」

「それってつまり<読唇術>使えるんじゃないの?」

「あくまで学んでなんとなく雰囲気で使っているだけの個人技能です。スキルじゃありません」


 <剣技>スキルがなくとも剣技を扱える。<剣術>スキルがなくても剣術を扱える。

 スキルは確かに持っている技術の分かりやすい指標だが、別にスキルがなくとも同様の技術は扱える。

 ただ、それは本当に学び取った技術である。スキルのように世界のシステムによる支援はない。

 独力で学び、使い、覚えなければならないゆえに、それらでの技術習得はスキルのあるこの世界ではなかなか難しい。

 それでもまだ単純な物ならば学んでいることはある。あるいはスキルとして欲するほどでもないこともあるだろう。

 クルシェのそれは本当にシエラのことを不憫に思ったゆえの自助努力である。

 なんとなくの理解でしかない。


『クルシェ……うん、ありがとう。アズラット、戦い、頑張って!』

『……ああ。シエラができない分までしっかりやってくる』


 そうして港街を襲う魔物の群れが来るまでそれに対する準備を彼らは行った。

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