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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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289 吸血鬼の気配

 蝙蝠がいるというのは別に野外である以上そこまでおかしな話ではない。

 しかし、洞窟でもないこの場所に、一応暗がりにいるとはいえ場所的に少し妙に感じる。

 住んでいるにしても流石にもっとちゃんとした場所に住み着くだろうと考えられる。

 崖崩れが起きた場所が洞窟であったのならそこに住んでいた、と考えられることはできる。 

 だがそれはそれで内側から破壊されたことが理由としては不明になる。

 蝙蝠が関係して何か破壊した、という可能性はどちらかというと低いはずだ。

 と、そこまで考えてふと思いつくことがある。


(……蝙蝠が何かの眷属や使い魔である可能性。うん、ヴァンパイアが破壊した、とかなら可能性的には有り得るか?)



 ヴァンパイア。蝙蝠を使い魔にし従えることのできる魔物。

 それならばこの場所に蝙蝠を置く理由はいくらか推測できる。

 崖崩れの原因がヴァンパイアであるならば、何かこの場所に来る人間を観察するなどの理由。

 あるいは何かを未だに探しているか、ともかくこの場所に蝙蝠を配置する理由がある、ということになる。

 まあ、それは崖崩れの原因がヴァンパイアである場合だろう。

 仮にヴァンパイアが関与していないのであれば?

 その場合はこの崖崩れの原因をヴァンパイアが捜索している可能性がある。

 もっともそこまで行くと想像に過ぎないが。

 そもそもなぜそういったことをヴァンパイアが考える必要があるのか。


(………………仮にヴァンパイアが内側から破壊したにしても、一体なぜ? どうして、という感じでもあるな。なんでヴァンパイアが崖の中にいるのか……いや、いたから破壊したとは限らないか。でも探し物をするにも理由が不明だし……しかし、やっぱり理由がわからないよな。推測はできても、あくまで推測、想像でしかない。まあ、気にはなるけど……別にヴァンパイア出現の報告の類もなかったし、特に何かあるとは思えないんだよな)


 ヴァンパイアに関する情報は特に聞くことはなかった。

 もっとも、ヴァンパイアが自身の情報を得た存在を消して回っているのであればそれもあり得なくはないのだが。

 流石にそこまでするとヴァンパイアとは関係のない形で別の情報が出回ると思われるのでそれもない以上はやはり関係ないと思うべきだろう。

 そもそも蝙蝠からヴァンパイアに想像を繋げること自体本来は珍しい。

 蝙蝠が大量にいるところにヴァンパイアが関与しているのならばそこら中に関与していることになる。

 そもそもこれほどたくさんの蝙蝠の使い魔を操る必要性はない。

 監視だけなら一匹でも十分である。


「ねー。あれ、全部始末していーいー? なんかすごく視線がやだー」

「いや、さすがにそれはどうかと思うぞ?」


 ただ、気にかかる点もないわけではない。アクリエルが気にしている点である。

 アクリエルの戦闘への感覚は凄まじく、アズラットもその点は素晴らしいと評価できる点である。

 その戦闘勘とはまた違うのだが、それでもやはりアクリエルが気にしているというのはアズラットの中で気にかかる分としては大きい。

 蝙蝠からの視線、その視線をアクリエルは気にしている。

 であれば何かあるのでは、と思わないわけでもない。


(……やっぱり何かの意思を受けている、と思った方がいいか? なんでこの場所を気にしているかはわからないが。アクリエルの言う通りに始末すると場合によっては敵対認定されかねないから俺たちが去る方がいいけど、うーん? 何か気になるのは俺も同じだからな……ふむ、この蝙蝠たち、あるいはそのなかに使い魔がいると考えれば、その蝙蝠相手に主との対話を考えてもいいか。一応俺とアクリエルは魔物だからそういう点ではヴァンパイアも相手しやすいはず……クルシェもヴァンパイアなんだよな。これがクルシェに関連しているのであれば楽なんだが)


 アズラットにとってこの世界に残っている可能性の高い唯一の知り合いである女性。その女性、クルシェもまたヴァンパイアだった。

 つまりこれがヴァンパイアに関連するのであれば、もしかしたら同族の彼女のことを知っている可能性がある。

 もちろんそれはあくまで可能性だが、このまま当てもなく探したところであまり意味はないため、通じるのであれば訊ねてみるのもいいだろう。

 そう考え、アズラットは訊ねてみることにする。


「えっと、もしかしたらあの蝙蝠たちはヴァンパイアに関連している可能性もあるから手は出さないこと」

「ヴァンパイア……」

「楽しそうな表情しない。とりあえず何か知っているかどうか、俺の方で聞きたいことがあるから蝙蝠相手だけど聞いてみることにする。あれがヴァンパイアの使い魔である可能性があるから、訊ねたら反応があるかもしれない」

『……本気?』

『本気。どうせあてはないし、訊ねる分にはタダだし』

「とりあえず……」


 アズラットは蝙蝠たちに近づく。

 流石に近づいてくることに対し蝙蝠たちも反応するが、逃げる様子は見られない。

 どちらかというと近づいてくるアズラットに対し警戒、あるいは観察するかのようにじっと視線を向けてくる。

 野生の蝙蝠について詳しい生態はアズラットが知るものではないが、こういう場合逃げるか襲うかするのでは、と考えられる。

 やはり野生のものとは違うのでは? と考えるのだが、今それを訊ねるところなので結論はさておく。


「えっと、お前たちは吸血鬼の使い魔か何かか? それならちょっと、主の人と話したい事があるんだが……いいかな?」


 そのアズラットの言葉に蝙蝠たちは首をかしげるようにして、他の蝙蝠たちと向き合う。

 この反応はつまりアズラットの言葉を理解している……かはわからないが、少なくとも何かの意図があることはわかるのだろう。

 そして蝙蝠たちの内、数匹が空へ飛び立ちある方向へと向かっていく。


(……あっちはフィフニルか? まあ、ヴァンパイアが潜伏するなら大きな街は餌場としては悪くないし、隠れるにしても容易いか。ネクロノシアのようにヴァンパイアの街にされているわけではない感じだったが……まあ、そのあたりは大丈夫なのかな?)


 アズラットの知る限りではフィルニルでヴァンパイアらしき存在は引っかかっていない。

 もっともそこまでしっかり調べているわけではないので確実なことではない。

 そもそもフィフニルの方に飛んでいったからと言って確実にフィフニルに向かったとは限らない。

 あくまで飛んでいった方向からの推測に過ぎないので他の場所にいてもおかしくはないだろう。


「蝙蝠に話しかけるなんて変ー」

『……確かにちょっと頭がおかしくなったかと思ったけど』

「おい……」

『流石に先に理由を言っていたからそこまでではないけど……でも、やっぱりちょっと普通じゃないと思うわよ?』

『スライムに話しかけるのとどちらが普通ではないんだろうな』

『む……』


 相手が理解することを前提で反しかけたアズラットと、ペットに等しい形で呼びかけたシエラでは意味が違うだろう。

 そもそも当時のシエラの年齢を考えれば幼い子供が行ったことでまだ微笑ましいとみられるものだ。

 それに対しアズラットは十分な知性のある大人に近い年齢……まあ、アズラットの正確な年齢は不定だが、そんな感じだ。

 そんな年齢で話しかけるのは微笑ましいとは見られないだろう。

 まあ、ペット相手ならばそういう手合いは見られないわけではないが。


「ところで、どうするのー? 飛んでいったけど、追いかけるー?」

「……戻ってくるかもしれないから待つよ。っていうか、使い魔ってどういう仕組み何だろうな」


 使い間に関して詳しいことを理解していないため、使い魔を通して話をしたりすることができるかどうかもわからない。

 飛んでいったことは報告のため、と推測できるが、その場合使い魔が戻ってくるのか、それともヴァンパイアの方が来るのか。

 ともかく何かあるまでしばらくこの場に留まることをアズラットは選ぶ。

 アクリエルが非常に退屈そうで抑えるのが大変そうだが。

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