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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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286 変わったフィフニル

 迷宮国家アルガンド。迷宮という冒険者が行き交う重要施設が存在する故にアルガンドは小さい国ながら大きな立ち位置を持つ。

 ただ、その迷宮という存在を多く有するためか、冒険者が余りにも多くなり、首都であるフィフニルは大きな都市だった。


「…………わー。大きいね」

「……そうだな」

『……大きい? フィフニル、前よりもだいぶ小さくなっている気がするけど』

『俺もそう思う。確か俺がここに来た当時はもっと広かった気がする……』


 アズラットとシエラの記憶ではもっと大きな都市だったはずのフィフニル。

 今でもアクリエルが大きいという程度には大きいのだが、それでも最大規模だった時代を二人は知っている。

 まあ、当時が最大ではなく落ち込んできていたのか、それ以後に大きくなってから小さくなったのか、詳しくは不明だ。

 そもそもあの時代からどの程度たったかも不明である。

 まあ、アクリエルの話から少なくとも数十年ではなく百年以上は確実だが。


「んー? どこか行く?」

「……とりあえず竜生迷宮に行きたいんだが、冒険者の乗るような馬車を探すか」


 アズラットとしてはとりあえず目的地として元々自分の住んでいた迷宮に行ってみたい気持ちがある。

 なのでその迷宮に行きつく馬車を探す。

 冒険者は迷宮に行くものであり、そのための馬車が出ている。

 馬車を探しているとアズラットは以前との違いを明確に感じる。


「……なるほど」

『何がなるほどなの?』

『以前よりも明らかに冒険者が少ない。街が小さくなったのはこのフィフニルに来る冒険者の数が減ったことが理由じゃないか?』

『冒険者の数が? ふーん……確かに街に来る冒険者の数が減ったなら街を大きくする必要はないわけだけど……』


 フィフニルが大きな街になっていったのはアルガンドに迷宮が多く存在していたから。

 迷宮の資源、そこから得られる財を求め冒険者が訪れ、その結果街に冒険者たちが住む場所が必要になった。

 それゆえに街を大きくせざるを得ず、それこそスラム街のようなものができるくらいに街が大きくなった。

 その結果色々と治安や汚染などの問題があったわけであるが、現在は街が小さくなり問題が解決した状態である。

 まあ、街が小さくなったということは冒険者が来なくなった……つまりは廃れたということで嬉しくないことだが。


『でも、なんでフィフニルに来る冒険者が減ったのかしら?』

『それはわからないけど……情報収集すれば少しわかるかも?』

『そうね。でもどうやって情報収集するの?』

『あー…………確かに俺やアクリエルだと辛いか』


 情報収集のうえで問題となるのはアズラットとアクリエルの立場。

 特にアクリエルは見た目の問題がある。

 一応両方とも装備という観点ではまだ冒険者と言える存在ではある。

 防具が怪しいアクリエルと武器が怪しいアズラットなわけだが、それでも一応冒険者を自称できないことはない。

 まあ、アズラットもアクリエルも冒険者カードがあるわけではない。

 仮に冒険者の証明ができないのであれば最悪の場合迷宮に行くこともできないのでは、と思うところである。


「アズラットー? ねー、どこか行くのー? 何かしないのー?」

「あー…………そうだな…………」


 アズラットとしても、色々とやりたいことはある。

 だがアズラットの持ち得るもの、立場がどうしてもやりづらい。


「…………そうだ」


 ふと、ネーデといた時のことを思い出し、ならばと一つの考えが浮かんだ。






「作ったよー! なんか驚かれたけど」

「そうか。まあ、そりゃあそうだよな……」

『冒険者になったんでしょ? それで何が驚かれるの?』

『ああ、それは……やっぱりレベルじゃないか? あれでアクリエルは普通の冒険者よりもはるかに強いからな。スキルに関してはわからないが……まあ、解る部分でレベルだけでも十分なほどだろう』


 アクリエルの冒険者登録。

 ネーデでも問題なく登録できていたのだからアクリエルも冒険者になれるので?

 そう思い彼女に冒険者登録をさせた。

 アズラットは無理だったが、それはアズラットがスライムだったからと考えられる。

 しかし人魚であるアクリエルの場合、スライムよりも登録は難しくない。

 特にこの大陸では人魚と人間が共同生活しているところもある。


「えっと、どんな感じだ? 見せてくれるか?」

「んー? いいよー。はい」


『アクリエル Lv71

 称号

  戦狂い

  大物殺し

 スキル 

  <剣技> <戦闘高揚>

  <人化> <剣気>

  <剣術> <戦闘本能> 

 実績

           』


「うわ……偏りすぎ……」


 アクリエルの見せた冒険者カードのステータスは明らかにスキル的に偏りすぎである。

 剣関連、あるいは戦闘関連。とはいえ、それだけでも彼女は十分すぎるほどに強い。

 戦闘に関して戦狂いの称号を持つくらいに戦闘狂の気質であり、それゆえにスキルと噛み合っているのかもしれない。

 剣関連も三つもあるくらいだが、魔剣持ちだからこそその専門性も悪くはない。

 特に彼女の場合は別に迷宮に攻め込むようなことがなく、ただ戦うだけでよかったというのも大きいだろう。

 海の中であれば人魚の持つ性質、特性の強みもあった。

 だからこそ偏ったステータスでも戦うのに十分だった。

 とはいえ、陸地では海にいた時よりも戦う実力は落ち込むことだろう。

 しかしそのレベルに数は少ないが相性のいいスキル、そして優秀な武器、可能性として高レベルであるだろうスキル。

 それだけあれば多少弱くなったところで問題なく戦えるものだと思われる。


「とりあえず、アクリエルを用いて情報収集か……」

『ねえ、アクリエルにそういうことを頼めるかしら?』

「……………………」


 アクリエルに情報収集を頼む、というのはどう考えても相性が悪いだろう。

 それに冒険者カードに関しても、アクリエルの強さは見た目にそぐわない異常な強さだ。

 果たしてどれほどの冒険者がこの情報を信じるか、仮に信じてもだから情報を渡すということにもならないだろう。

 まあ、冒険者カードがあるから冒険者に情報を与える場所で情報をもらうことくらいはできるかもしれない。


「…………とりあえず、頑張って情報を集めるしかないな」

『不安ね……いろいろな意味で』

「アクリエル、冒険者カードを作ったんだしそれを利用して情報を集める。手伝うから、頑張ろう」

「え? うん…………うん? よくわからないけど、頑張ろうね!」


 そうしてアズラットはアクリエルの手伝いをして……というよりはアクリエルを利用して情報を集める。

 このアルガンドに起きた出来事、フィフニルの現状の変化の理由、迷宮の異変など。

 集められる情報は可能な限り集める。

 しかしそうして情報を集めていて、アズラットは少し不安を持った。


(……竜生迷宮の情報がない? いや、さすがにあの迷宮が破壊されたって言うのは……ありえなくはないだろうけど、考えにくいよな。でも、昔起きた迷宮の一斉攻略とやらの影響でその時に攻略された可能性はあるのか? いや、まさか……さすがにそれは……)


 ある時期に起きた迷宮の大量攻略。

 フィフニルが落ち着いている状態になっているのはこの大量攻略が原因である。

 それによりアルガンドの有する迷宮が一気に減った。

 まあ、それでもすべての迷宮がなくなったわけではない。

 そのためアルガンとの経営的には大丈夫だったわけだが、影響は計り知れず。

 そしてその時に竜生迷宮がなくなった可能性はある。

 彼の迷宮の情報は、集まらなかったのだから。しかし、それも確定ではない。

 今はかつての迷宮への道の情報を集め、その場所に実際に赴き確認するしかなかった。

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