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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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285 かつての湖

 迷宮国家アルガンドのある大陸であるが、その大陸はアズラットの故郷である大陸である。

 それゆえにか、アズラット自身思い入れのある場所というのはそれなりにある。

 とはいえ、生まれ故郷の迷宮以外であったりと普通の場所、通過地点ではそういう気持ちになるような場所はない。

 別の大陸でいえば大きな出会いをしたネクロノシア、あるいはとても印象的だった神山、人魚のいた海の底などが該当するだろう。

 そんな印象的な場所がこのアルガンドのある大陸では……一つ、あると言える。


「久しぶりだな……」

「わー。広いね。海?」

「いや、湖だな……池というには大きいし」


 それは湖である。特殊な湖というわけではないが、アズラットにとってはとある思い出の残る湖。


『湖ね……なんでこの場所に来たの?』

『ああ、ここは……今シエラが宿っている指輪を拾ったところなんだよ』

『…………へえ。ならここは私の生まれ故郷? いや、それも何か違うわね。でも、拾った……って、この湖の中から? よく見つけることができたものね。当時はまだスライムだったんでしょう? 探すも大変だったんじゃないかしら?』

『ああ、それは……』


 アズラットはシエラに対して昔話をする。

 ちなみにもう一人いるアクリエルはばっしゃんと湖に入って<人化>を解除している。

 彼女にとっては海の中ではないとはいえ、広々とした水の中で過ごすというのは久々の感覚なのだろう。

 アクリエルにはアズラットの話よりも遊ぶ方が重要なのかもしれない。

 これで戦闘に傾倒するような精神性でなければ可愛いものだと思われるのだが。

 以外に彼女は普通の生活を送ることはできる。

 戦闘以外でも楽しい、嬉しいはないわけではない……のかもしれない。

 まあ、日常的な部分に関しては少し特殊なのかもしれない。

 と、アクリエルのことに関してはともかくアズラットはシエラに昔話をしている。

 アクリエルに話しかけないのはシエラとの話をする場合の会話の仕組みの煩雑さ、というのもあるが内容に興味ないだろうからというのもある。


『…………ふーん。アズラットは指輪をその人から受け取ったの』

『いや、受け取ったと言うか、拾って返したけどそのまま消えたからそれをもらった感じなのかな』

『へえー…………まあ、アズラットがもらっていなかったら私が今ここにいないわけではないからいいんだけど』


 もし指輪をもらっていなければシエラはこの世界に残っていなかっただろう。

 別れ際に指輪を渡せていないのだから。

 まあ、そんなもしもの話をしたところであまり意味はない。

 この場においては昔起きた出来事に想いを馳せる、くらいの話だ。


「はーっ! もうちょっと深くて広かったらなー」

「海じゃないんだから仕方ないと思うぞ?」

「そうだねー」

『アズラット! 服! 服!!』

「あ……えっと、アクリエル、裸だから服着て服」

「えー?」

「えーじゃなくて!」


 水の中で泳ぐ、ということなのかアクリエルは服を着ておらず裸である。

 人魚となる際に上も下も脱ぎ、そして陸に上がるため<人化>してしまえば……ということで流石にシエラも指摘してきた。

 服に関しては綺麗に脱いでから水の中に、ではなく水の中に入ってから邪魔だから脱いだと言った感じだ。


「服の回収しないと……いや、その前に先に服を出したほうがいいか」

『服、沈んでる? 回収できるの? 面倒くさそうね……』


 アクリエルの着ていた服は水の中に沈んでいる。

 回収自体は難しくないが、アクリエルが泳いだせいか散らかって集めにくい。


「まったく………………っ、アクリエル、武器は……もってるのか」

「どうしたの?」


 服は着ていないのに持っていた魔剣は捨てていないアクリエル。

 まあ、もともと海の中でも剣を持っていたわけであるが。

 惜しげもなくその幼さの残る少女の体を気にせず見せつけるアクリエル。

 羞恥心がないのは良いことか悪いことか。

 そんなアクリエルのことを気にせず、アズラットは服を出す。


「とりあえず適当に上と下今のところ着ておけ! 敵がいるから!」

「敵? 人間? 魔物?」

「ああ、魔物だ……」

「グウウウ……グゴッ」


 言っている最中にアズラットの発見した魔物が現れる。

 一般的にはオークと呼ばれるような魔物である。

 アズラットは以前……相当昔のことであるが、この近辺と言えるほどの場所でかはわからないがオークの集落を発見している。

 当時発見した時、まだ生きていた冒険者をその時に逃がしていた。

 そのことで恐らく発見され対処されているはず……と思っている。

 しかし、今回その集落の出身か、関連あるいは系列かは不明だが、オークが出てきている。

 その集落が未だに残っているかそれとも逃がしたかは不明。

 そもそもその集落とは別物であるかもしれないが。


「グオオオオオオオオオオオオッ!!」


 森に響くような鳴き声をオークがあげる。

 威嚇の声ではなく、どちらかというと招集の意図を持った物だろう。

 このオークは言うなれば偵察的な役割を持つ存在なのだろう。

 人間二人の姿を見かけ、自分たちの住んでいるところの近く、あるいは警戒に値するところに危険な存在がいると伝えた。


「グ……ググッ、グゴッ、フゴッ」


 そしてそのうちの一方、アクリエルの姿をみて鼻息を荒くしている。

 まだアクリエルは裸……つまりはそういうことである。

 実に趣味が悪いというか、最低な精神性と言いたくなるが、別に女ならなんでもよさそうなので特に精神性は関係ないだろう。

 しかしそういうふうに見られてもどこか嫌なのでアズラットはアクリエルに早く服を着るように言いたい。

 ちなみにシエラは大人の姿であるがオークには見えていないのでそちらに視線はいかない。

 アクリエルの方に集中である。

 まあ、アズラットも危険ということで一応視線を向けられてはいるのだが……見た目的には脅威ではないのでそれほどでもない。


「アクリエル、速く服を……」

「え?」


 ごとん、とオークの首が落とされていた。

 アズラットがアクリエルのことを気にしたその一瞬、彼女は既にオークに向かっていた。

 彼女の行動の速さ、思考の速さは極めて優秀でオークがアクリエルに脅威を感じる前に、近づいていると認識する前にすでに首を落としていた。


「…………」

「弱いねー。戦ったらおもしろかった?」

「それほどでもないと思うぞ。っていうか、その前に服を来てくれ。服を着たほうがまだ戦えたかもしれないぞ」

「んー、わかった」


 いそいそと服を着始めるアクリエル。戦闘関連に結び付ければ彼女はすぐ行動しそうな気がする。

 そんなふうにアクリエルが服を着ている間に、森の中が俄かに騒がしくなってくる。


「アクリエル、服を着たなら戦闘準備を。同じようなやつらがそれなりの数来ると思うぞ」

「んー、わかった。ねえ、私が全部倒してもいい?」

「……いいんじゃないか? 別にそれほど脅威ではなさそうだし、アクリエル一人で倒せると思うぞ」

「じゃあ全部頂戴ね!」

「ああ」


 そうして、アクリエルはやってきたオークたちを全員相手する。

 一斉に全員集合というわけではなく、ある程度まとまってとはいえ散発的な登場だった。

 一体でも二体でも三体でも、アクリエルの相手は無理だ。早さも強さも全然違う。

 アズラットとしては少し過去のやり残しだったかもしれないと思う相手であり、アクリエルに任せきりなのは心苦しいのだが。

 まあ、アズラットが何かをする前に完璧にアクリエルが決着をつけた。


「終わったー」

「……終わったな。住んでいる場所を探せればいいんだけど」


 ここにいる数だけがすべてではないかもしれない。できれば集落を探して潰したい。

 それを望むところではあるが、そこまで期待するのは厳しい状況だろう。

 まあ、それはこの世界の人間に任せてもいいはずである。

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