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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
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284 戦闘狂の人間性

 後処理に関してアズラットは極めて高性能である。

 何故ならスライム、あらゆるものを食らうことのできる存在。

 ゆえに死体の処理、血の跡などに関しても含め、基本的には問題なく終わらせることができた。

 気にかかる点としてはアクリエルに付いた血である。海ではこういうことは起きなかった。

 陸地では悲惨なやり口で相手を倒すと本当に酷いことになり返り血でやばいことになる。

 そういうことをアズラットもアクリエルも意識していなかった結果、アクリエルは血塗れである。

 それに関して、アズラットがその血を手で拭うことである程度は解決した。

 まあ、それに関しては体についている血くらいにしかできることではなかったが。

 流石に服に染み付いた血までは手を出すことはできない。

 スライムの軟体であればある程度は処理できると思われる。

 しかし最大の問題は服すらも吸収してしまう危険性である。

 消化能力で処理してしまうとそこが問題となる。


(…………!)


 と、その問題解決を考えているとき、アズラットはいい手を思いついた。<同化>である。

 <同化>は基本的に無生物を対象とする能力である。

 生命体だったもの、死体などでは<同化>する場合吸収消化をすることがある。

 しかしもともと生命体の一部であっても毛皮で作った服などは<同化>で吸収消化されるわけではない。

 いったいどういった判断をしているのかは不明だが、加工品だからか服の類はそういった<同化>で消えることがない。

 だが服についた汚れ、血や垢などならばどうだろう?

 それは生命体が残した老廃物、<同化>による吸収消化の対象。 

 すなわちアクリエルの着ていた服を<同化>で取り込めば血を完全除去できるのでは? そう考えた。

 問題があるとすれば……


『……………………』

『そんな目で見ないでもらえます?』

『女の子を裸にする男の人って最低だと思うの』

『いや、ちゃんと下着は……』

『下着なんてつけてなかったじゃない! 変態! へんたーい!!』


 シエラが妙な反応を見せること、くらいだ。

 まあ、アクリエルの着ている服は一張羅であるのでしかたがない。

 一応他にもアクリエルの衣服は持っているが、着替える以上脱がなければならない。

 そのうえ彼女は性格的に自分から積極的に着替えたりしない。

 用意し着替えさせないといけなかったりすることも多い。

 言えば大体は聞いてくれるのだが本人的に納得いかないと着替えさせないといけない。今回とか。

 そういうことで着替えさせた結果、このシエラの反応である。

 なおアズラットは性欲方面はほぼないので問題はない。

 本人の意識面からの興味、知的欲求、そういった精神的な部分から性欲に向けられるものはある。

 しかし肉体的にそもそもそういう欲求自体が生まれないスライムの肉体である。

 多少意識はしても手を出すほどまでに発展することがない。相手が幼い少女であれば余計に。

 なので裸を見て手を出すと言うことは基本的にはない。

 もっとも、シエラがそもそも問題視しているのはその部分ではないのだろうが。






 と、そんな騒動がありながらも三人は先へと進む。

 シエラが途中でしびれを切らして仲直りするまではアクリエルとも特に会話はなかった。

 盗賊のような襲ってくる人間はあまりこの界隈にはいない感じであったが、魔物は別である。

 進む途中で幾らか魔物が出る機会があった。そんなときアクリエルは大活躍をするわけである。

 盗賊相手にあれだけ縦横無尽の大殺戮を成しているのだから普通の魔物相手でも問題はない。

 しかし、アズラットはそんな彼女の行動を見ながら少し気にかかる点があった。


(…………あの笑いを見せたのは盗賊相手の時だけだったな。そういえば俺に攻撃を仕掛けてきたときは特に普通の表情だったような。人間相手だったからか?)


 人魚もこの世界においては魔物である。

 それゆえか、人間を相手にするときにその凶悪な様子を見せるのではないか?

 一瞬そう考えるアズラットであるが、海底にいたアズラットは果たして人魚側からどのように見られただろうか。

 人間にも見えるし、そもそも海底に人間がいるはずもないと別の魔物に見られたか。

 そもそもアクリエルのあの凶悪な様は相手が人間だったからだろうか。

 相手が悪人だったからという理由ではないか?

 いろいろと考えるアズラットである。もっともその考えはどれも基本的にハズレだったのだが。


「あはははははは! もう! 弱いったら! もっと強くなってから出直してきてよね!」


 今回は人間相手ではない。たまたま遭遇した魔物の群れを相手にした時の話である。

 と、そんなふうにアクリエルが見せる普通でない様がアズラットは気になったので戦いの後、アクリエルに聞いてみた。


「なあ、アクリエル」

「んー? なにー?」

「戦ってるとき、笑ってる時と笑ってない時とあるよな? あの差って何なんだ?」

「んー? んー……んんー? んんんー…………んー、笑ってる? 私?」

「ああ」

「んー、戦いは楽しいけど、殺すことは別に楽しくないから? んんー?」


 アクリエル自身なぜ笑っているのか、というのはわからない。

 いや、正確に言うとあのアクリエルの見せる様は半ば無自覚なのだろう。

 ただ、アクリエルは自分が戦うことが好きだということに関しては自覚があり、その関係だというのは解っている。

 だからこそ、なんとなくそういった部分の把握はできている。

 戦うことと殺すことは別である、と。


「戦いは楽しい……殺すことは楽しくない?」

「うん。相手が弱いと満足はできないけど、戦うのは楽しいよ?」

「……? えっと、その違いって?」

「んー? んー……んんー? なんだろ? えっと、今アズラットと戦うのは戦いだよね? うーん……戦うから戦い?」

「…………えっと、初めて会った時、海底で会った時は戦いだったのか?」

「んー、違うと思う。あの時魔物だと思ったからえーいって斬り捨てようとしただけで、別に戦いじゃないと思う」

「ふむ……」(戦う、というのは相手と相対して戦うこと、なのか? 不意打ちで斬り捨てることは戦いではないと……)


 相手に奇襲を仕掛け一方的に蹂躙するか、あるいは両者が向かい合い合図をきっかけに戦いを始めるか。

 言うなれば彼女の戦いかそうでないかの認識はその点にある、ということなのかもしれない。

 出てきた魔物を処理する、殺して始末する、それは戦いではない。

 ゆえに彼女は楽しくないから笑わない。

 しかし、魔物が出てきて、それらと相対した状態、相手も戦おうという意志を見せ、こちらもその意思を見せ、それから戦闘を始める。

 それは彼女にとっては戦いである、ということなのだろう。その戦闘の内容は重要ではない。

 仮に一方的な蹂躙になろうとも、相手が戦う準備を始める前に完璧な不意打ちで殲滅することになる場合は戦いではなく楽しくない。

 それに対し一方的な蹂躙となろうとも、お互いが相対しこれから戦いを始めるという状態になり、戦い始めたのならばそれは戦いであり楽しい、そういうことだ。


「なんとなくわかった」

「ふーん。そう? ま、どうでもいいけどー」

「…………」(本人には自覚がないのな……)


 そもそもそんなことを気にしているのはアズラットくらいなものである。

 アクリエルは全く気にした様子はない。

 もともとアクリエルはその点に関しては無自覚であり、別に戦いでなければいけないというわけでもない。

 彼女にとって戦うことは望みであり、自分を満足させることであるが、絶対に全てを戦いにしなければいけないというわけでもない。

 食料となる存在を獲ることまでわざわざ戦いにする必要はない、ということだ。

 ゆえに彼女が戦いとするべきなのはたまたまそういう舞台が整った場合か、あるいは戦うに相応しい相手であること。

 まあ、そのあたりはかなり本人も無自覚で判断しているため結局制御できることでもない。

 はっきり言えば、別に特に気にする必要もないどうでもいいことである。

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