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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
七章 スライムの神成活
312/356

282 陸に上がってから

 アズラットはアクリエルを連れて陸に上がった。

 アクリエルは人魚であるが、<人化>を習得しているので陸に上がるのに問題はない。

 彼女を含め人魚が<人化>を習得しているのは、彼女達が住んでいる場所が人の住んでいる場所に近いがゆえ。

 アクリエルの住む集落に住む人魚は陸に住む人との付き合うがあるゆえに<人化>の習得が必須となっている。

 その在り様ゆえか、陸の人間と恋仲になる人魚もいたが、今の所人魚の集落は存続している。

 まあ、子供に関してどうなるかは色々疑問であるが、そのあたりは大丈夫なのだろう。

 ともかくアクリエルが<人化>を習得しているので陸に上がって行動するうえでの問題はなかった。

 アクリエルのいた集落に来た時点でほぼ陸の側であり陸に上がるのにそれほど苦労はしない。

 アズラットも<人化>し人の姿になって陸に上がるのでこれといって移動が大変だったりもしない。

 流石に浅瀬で簡単に流されるようなこともない。人魚たちの手を借りる必要性も特になかった。


「ふう……しかし、服とかあったんだ」

「んー? おかーさんとかたまに陸に物買いに行ってるしー」

「へえ」


 アクリエルは<人化>を習得しているが陸地にはそれほど移動することのない人魚だった。

 そのほかの人魚は陸に住む人間やその生活、様々な物品に興味があるためあがるがアクリエルはそうではない。

 アクリエルの興味は戦闘方面に傾きすぎていたゆえに、海での活動しかしていない。

 まあ、陸に上がる人魚もあまり上がりすぎて集落人魚がいなくなる危険を考慮すると一度に上がれないのだが。

 アクリエルの母親、シーリエラは比較的陸に上がることの多かった人魚らしい。

 自分のためでもあるが娘のためにも服を買っており、それが彼女の家にあった。

 陸地の服が海で使えるか疑問だが、別に海で着ている服ではない。

 陸用の服は別個に保管してあった。


(…………娘のための服なんだよな。こんなふうに一緒に地上で行動したかったのかな)


 アクリエルは陸地での活動に興味はなかった。

 ゆえに<人化>を覚えているのに陸に上がることはなかった。

 だからだろう。今アクリエルが来ている服はかなり新品に近く使われていた様子がない。

 アクリエルの体格に合わせた服であるのにそれは着られたことがなかったのである。

 当然それを買ってきているのはシーリエラ。

 彼女がなぜその服を買ったのか、その理由を考えると少し寂しく見えてしまう。

 服は新品だが、決して新しいものではなく、一度も使われたことのない新品の少し古めの服、買ったのに着せる機会のなかった服。

 それを買ったシーリエラはいったいどんな気持ちでその服を持ち続けていたのか。

 アズラットにはわからなかった。

 そして、それをアクリエルが考えることはない。

 母親の気持ちを、アクリエルが考えることはない。

 彼女は決して母親を嫌っているわけではないのだが、彼女にとって母親はただの母親という存在でしかない。

 それほどまでに、彼女の在り方は戦闘方面に傾倒している。異常なほどに。


「ねー? それでどこに行くのー?」

「……とりあえずは迷宮を目指すことになるな」

「迷宮かあ。お話にあった、魔物が出てくるところだよね。確かでっかい蛇を倒したって……あー! そういえばでっかい蛇逃がしてたんだー! もういっかい会って倒したかったなー!」

「でっかい蛇? シーサーペントのことか?」

「名前なんて知らないけど、大きな蛇だよ。倒そうとして斬ってたらいきなり逃げちゃって追いかけられなかったの。せっかく結構傷つけたのになー」

「………………」


 アズラットたちが乗っている船を襲ったシーサーペントである。

 あのシーサーペントはどうやらアクリエルに襲われた存在であるらしい。

 その結果あそこまで凶暴化して船を襲い、そしてアズラットに倒された。

 その倒した存在が傷つけた存在に出会ったのは偶然だろうか。

 まあ、人の獲物を横取りした形になるだろうな、とアズラットは思ったのでそのあたりの話はしないことにした。

 もっとも逃がした方が悪いのだが。


「まあ、迷宮にはシーサーペントよりも強い魔物もいるだろうからそれで我慢してくれ」

「ほんと!? でも、その前にアズラット戦いたいなー」

「いや、俺にその剣が効かないのは知ってるよな? アクリエルはその剣で戦ってるんだから、俺とはまともな戦いにならないと思うぞ?」

「うー……ううー……! しかたないなー。じゃあそれで我慢するー」


 残念ながらアクリエルはアズラットと戦うことはできない。

 戦えないとは言わないが、まともに戦うことはできない。

 なぜならアクリエルの攻撃手段はその手に持つ魔剣であり、その魔剣はアズラットを傷つけることはない。

 別にその剣で戦わなければいけないわけではなく、例えばどこかで適当に剣を買えばアズラット戦うことはできるだろう。

 しかしアクリエルの強さの一因は魔剣である。

 それが失われれば彼女の強さはかなり落ち込むことになる。

 それまでに培った剣の経験、レベルもあって決して弱いわけではない。

 だがアズラットに通じるほどではない。

 魔剣がまともに働いてようやくアズラットとまともに戦えるくらい、と言ったところだろう。

 ゆえにアクリエルはアズラットと戦うことはできない。

 仮にしたところで負けることがわかっているのでできないだろう。

 まあ、そうだとわかっていても彼女は挑むかもしれないが。

 とりあえず今は迷宮で強い魔物戦える、という可能性で満足しておくしかない。


『迷宮と言っても……どこに行くの? 』

『(ああ、竜生迷宮だな。俺の住んでいた所)』

『へえ! アズラットが住んでいた所? 生まれ故郷ってこと……行ってみたいわね』

『(アズラットー? なんでいきなり<念話>なのー?)』

『(ああ、今シエラと話してるんだ。えっと、白いのな)』

『(ふーん。白いの。シエラって言うんだ。ふーん)』


 どうでもよさそうな反応のアクリエル。

 シエラの存在ははっきりと見えるわけではないが、白いものとして彼女は視ることができる。

 おそらくそれは指輪と魔剣が近しい存在であり、その魔剣を彼女が所有しているからなのだろう。

 それゆえにアズラットとのつながりができているからか、あるいは魔剣と指輪のつながりと類似性からか。

 まあ、ともかく彼女にもシエラの姿ははっきりとではないが視ることができる、ということだ。


『(それ、私別に話さなくていいよね?)』

『(え? あ、ああ……)』

『(じゃ、別に私に言わなくていいよ。っていうか、普通に話しちゃダメだったの? <念話>するならそれこそ私いらないよね?)』

『(……あー)』

『(何かあったら口で話してねー。海なら<念話>いるかもだけど地上じゃいらないしー)』


 海の中だと<念話>でないと会話はできない。しかし、地上ならば普通に会話できる。

 であれば、シエラに対しても普通に話しかける方が全体との対話はやりやすいだろう。

 もっとも、話しかけている相手の存在がなければいろいろ奇妙に思われるものだろうが。

 まあ、今はアクリエルがいるのでそれほど面倒なことにはならないと思われるが。


『……えっと、とりあえず必要ならこれで会話しましょう』

『わかった。アクリエルとの会話が必要なら直接話すことにするよ……』

『なんかごめんなさい』

『いや、いいんだけど。ところでなんでその姿に?』


 今のシエラの姿は大人の時の姿である。陸地に上がってから彼女はその姿をするようになった。


『……………………あの姿だと、アクリエルと被っちゃうから』

『えっ』

『あの姿だとアクリエルと張り合うような感じになるんだもの。それだとアズラットに強く印象を持たせにくいかなって。だから今の姿になったの』


 元々子供の姿だったのはそれがアズラットの知るシエラの姿に近しいからである。

 そのうえでアズラットに抱き着くように側にいても違和感がないから、というのがあった。

 基本的にシエラはアズラットの傍にずっと一緒にいたい。

 子供の姿であるのが一番そうしても違和感がないからそうしていた。

 しかし今アクリエルがいるせいもあり子供の姿だとアクリエルとキャラクター性が被ってしまう。

 似たような印象になってしまうとどうしても自分の印象が薄れる。

 それではだめだと彼女は思った。

 ゆえに大人の姿になり傍にいることを選んだのである。

 まあ、さすがに大人の姿では抱きつけないので近くにいるだけになってしまうが。


『……そう』

『そうよ。悪いかしら?』

『いや、シエラの自由にするといい』


 別にアズラットがどうこう言うことではない。

 まあ、見た目が変わったところで認識するのはアズラットのみ。

 アクリエルも少しは解るかもしれないが、白い何かが大きくなった程度にしか理解しないだろう。

 そしてそれを理解したところで彼女は気にすることはない。

 ともかく、今はそういう話はあまり気にするようなことでもないことだった。

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