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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
308/356

279 伝わっているお話

 人魚の集落へと連れてこられたアズラット。

 しかし人魚の集落と言ってもかなりの浅瀬、ほぼ海岸。

 一応人魚たちが暮らすうえでそこそこの深さはあるが海面がすぐそこにあるかなりの浅瀬である。

 彼らの住む所は人里に近い、陸地に近い場所となっており、人間たちとの協力関係を結んでいる。

 そのため人の姿をとるアズラットの姿に特別驚くような、恐怖するような様子は見せなかった。

 もっとも、アズラットの姿が海の中にあることには驚きだったが。

 人間は海の中に適応できない。そのはずだが、人魚の少女に連れてこられて驚いた様子だった。

 当然人魚の集落の中の人魚たちから何か変な物を見るような、奇異や訝し気な視線を向けられる。

 それはアズラットとしても仕方がないことと思っている。

 何故ならアズラットは奇異な存在であるのは事実だから。

 しかしそれとは別に。

 アズラットは向けられる視線の中に存在する恐怖や畏れの視線を気にした。


(…………これは?)


 それはアズラットに向けられていたものではなかった。

 アズラットに向けられていればまだ少しは納得がいったかもしれない。


(…………まさかこんな少女に向けてあんな視線を向けているとは)


 その視線、恐怖や畏れを抱く視線を向ける先はアズラットを連れてきた人魚の少女であった。

 もっともそんな視線が突き刺さろうとも人魚の少女は全く気にした様子は見せない。

 まるでそれが自然であるかのように、というよりは少女がまったく視線を気にしない、気にしていないだけなのだが。

 人の視線にとても鈍感……というよりは、単純にそちらに気を回さないだけ、のように感じられる。


(……ちょっとは気にしろよ)


 アズラットは少女と違って視線を気にするため、奇異の視線よりも余計に気になってしまう。

 しかしそれを言うことは少し難しいだろう。

 そもそも視線の存在を理解しているかもわからないのだから。

 ゆえにアズラットは気にせず少女の家に連れていかれるのを待つだけだった。


『(おかーさんただいまー)』

『(っ……おかえり、アクリエル……あら? ねえ、アクリエル、その連れてきている人は誰かしら? 人間……人間? ここ、海の中だけどなぜ人間がいるのかしら?)』

『(んー? んんー…………知らなーい!)』

『(……ええっと、どういうことかしら?)』

『(それについての細かい話は俺からさせてもらっていいかな?)』

『(……あら、<念話>ができるのね。それならアクリエルに聞くよりも手っ取り早いわ。この子頭が一直線だから)』


 考えなし、あるいは脳筋。

 まっすぐ自分の趣味目的興味にしか意識を向けない思考が一本しかない直刀。

 本人の生き方からも真っ直ぐの剣。

 折れることも曲がることもない一直線、直刀直剣という表現に相応しいだろう。

 そうだからこそ、この人魚の少女……アクリエルは魔剣に適したのかもしれない。


『(とりあえず、まず自己紹介から。俺はアズラットです。ええっと……この少女、アクリエルに海の中で襲われて、そこからいろいろとあってここに連れてこられた変わり者、かな?)』

『(……内容はよくわからないけど、自己紹介どうも。私はシーリエラ。アクリエルの母親の人魚です。それにしても、色々というのは何かを聞かせてもらえるかしら? アクリエルは今度は一体何をしたの?)』

『(襲われた……のは事実なんだけど、まあ、ちょっと事情が……彼女の持っている剣に関わることかもしれないし?)』

『(剣に……?)』

『(あの剣のこと、見たことがあるんですよ。いえ、昔あの剣を人魚に渡したことがあって)』

『(っ!? え? ちょっとまって…………それはおかしいわね。あの剣を渡してくれたのはあなたのような人間ではないわ)』

『(知っています。<人化>解除)』

『(……っ!?)』

『(こんなスライムですよね?)』

『(………………ええ。そう、あなたが……ご先祖様にあの子の持つ魔剣を渡したスライムなのかしら?)』

『(まあ、他に俺のようなスライムがいるとは思えないけど。とりあえず、詳しく話を聞かせてもらえますか?)』

『(ええ…………)』


 長い会話のやり取りを交え、アズラットは人魚……かつて魔剣を渡したマネーリアの時代から、今の時代にまでつながる話しを聞くことになった。






『(まさかあなたが今のお話に合ったスライムだなんてね……アクリエルもよく見つけてきたものだわ)』

『(ちょっといろいろと訂正したいこともあったんですけどね!? 関わったこと以外の内容もあったよ!?)』


 アズラットとマネーリアのお話は内容がアズラットの経験したことだけではなかった。

 少々話の誇張があったり、余計な話があったり、関わっていない話だったり。

 まあ、昔話なので多少の誇張、話が伝わるうえで歪んで伝わった話があってもおかしくはないだろう。

 しかし、話の内容に関しては概ねでは事実だった。

 そういう点では人魚側のアズラットへの敬意は間違いではないのだろう。


『アズラット凄いね!』

『……ごめん、真実は五割ほどで半分は誇張と脚色、あとは関わった後の後日談だから』

『でもそれって半分はほんとってことでしょ? それでも十分凄いと思うけどなあ……』


 一応本当のお話だけでも十分なほどの成果である。

 まあ、実際大きな影響力はあっただろう。

 アズラットがマネーリアに関わった影響はその後にも大きく響いている。

 ゆえに決してアズラットの存在は軽いものではない。


『(それで、剣についてなのだけど……)』

『(ああ、あの魔剣?)』


 視線が家の中でのんびりりているアクリエルに向かう。

 話が退屈だったからか半分くらい眠っている。

 その手には例のお話の魔剣。変わらずその手に持ち続けられている。


『(あの魔剣を、あなたにお返しするのが我が家の役目なんですが……)』

『(別に俺は返せなんて言ってないんだけど……)』

『(ご先祖様が我が家に残した、あなたに対する恩返し、ご奉仕、そういう感じのものだと思います。あなたには魔剣を受け取って、この村を作るまでの経緯、強さを貰った。それ以上のものはいらない、持ち得る大きな力、過分な力は本来持つべきものへと返却する……そういう意味だったのではないでしょうか?)』

『(いや、俺は本人ではないからそこまで細かいことは知らないけどさ)』


 マネーリアがどういう想いで村を作り、家族を持って子を生し世代を繋げたのか。

 どうしてそのような言い伝えと昔話を遺したのか。魔剣をアズラットに返すように、と言い含めたのか。

 それはわかるものではないが、はっきり言えばアズラットにとってはそこまで気にすることでもなかった。


『(んー…………)』

『(でも、あの大事にしてるっぽい魔剣を子供から奪うのはな……)』

『(アクリエルのことは気にしなくてもいいと思います。あの子は元々剣が返りたい、戻りたいと言っているとよく言っていました)』

『(…………そうなのか)』


 アクリエルは剣の声、意思をなんとなくだが聞くことができる。

 それはスキルなどとは違う、生まれ持っての本能的感性によるもの。

 直感や直勘と言ってもいい、独自の特殊な才能である。それはシーリエラは持ち得ないもの。

 ゆえにそういうことがわかるのはアクリエルだけなのだが、別に剣の意思はわからずともシーリエラには伝わっている話がある。

 そちらからアズラットに剣を返そうとしているという部分もある。


『(でも、あの子はあの剣をおもいっきり使ってるみたいだしな)』

『(……みたいですね。ですが、あなたにお返しするまでが私たちの役目ですから) 』

『(……でもなあ)』

『(そこまで言うのなら、剣と一緒にあの子を連れて行ってあげてください)』

『(………………)』


 そのシーリエラの言葉に、アズラットは黙り込む。


『(母親なのに、アクリエルのことが怖いのか)』

『(っ!!)』


 核心を突くアズラットの言葉に驚愕を示すシーリエラ。

 シーリエラがアクリエルとを連れていけ、と言ったことには理由がある。

 それは厄介払い。

 この人魚の集落において、アクリエルはかなり厄介な存在として位置づけられていた。

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