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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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278 人魚の村へ

 魔剣を持つ人魚、いきなり斬ってきたその人魚だがその斬撃がアズラットを斬ることはなかった。

 それは決して人魚がアズラットを斬るつもりがなかった……と、そういうわけではない。

 しかし、実際に斬ることはできなかった。ではそうなった要因、原因は何か?

 その最大の心当たりはアズラットにとって見覚えのある人魚の持つ剣。

 かつてアズラットが手に入れ、人魚の女性に渡した魔剣……だと思われる剣である。

 実際その剣にアズラットが触れている期間はそれほど長い期間だったわけではない。

 それゆえにその剣がそうなのか、と問われるとはっきりとそうだと言えるわけではない。

 だが実際に見覚えがあるため、恐らくはそうだろうと言えるくらいのものではある。


『大丈夫? 本当に大丈夫? 思いっきり斬られてたよね?』

『いや、大丈夫だから。何度も聞かなくてもいいって……』


 シエラに心配されているが、実際斬られたのは外身、付けている装備品だけだ。

 装備品の損耗は少しアズラットとしては思うところがないわけではないが、代替が効くものであるためそこまで問題視しない。

 そもそも高い物でも一品ものでもレア物でもない。そこまで気にするようなものでもない。

 剣も別にもったいないとは思うが、そもそもアズラットには必要のないもの。

 むしろそういった影響で流されるかもしれない危険の方が厄介である。


(っと、シエラのことよりも……先にあちらと話をつけたほうがいいな)


 現状人魚はうーん? と戸惑っている感じである。

 しかしまた同じようにアズラットに攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 人魚は魔物の一種に近い存在ではあるが、基本的に人型魔物の類は知能が高い。

 今人魚がやっているように物を考える知能も、迷う感情や思考もある。

 ならば話し合いはできる。


『(なあ、少しいいか? 話はできるよな?)』

『え? アズラットー?』

『(んんー? 今私に話しかけてきたの? あれー? 誰ー?)』

『ああ、悪い。シエラに話しかけたわけじゃないんだ』

『え?』

『少し、今みたいに話が聞こえるかもしれないが、まあ個人間だけでの会話するより話が分かるだろうからとりあえず聞いててくれ』


 <念話>は基本的に個人に対して向ける念話と広域に対して向ける念話など、使い方次第で複数を対象にできる。

 シエラとの会話の手法は独特な回線によるもので<念話>ではないが、<念話>でも会話自体はできるだろう。

 ただ、今はアズラットが会話したいのは人魚の方でシエラの方ではない。

 なので今は大人しく、ということである。


『んー……わかった』

『ああ、頼む』『(俺だ……っていうか、今襲ってきたのはそっちだろう?)』

『(んんんー? んんー? んー…………んんんん!? もしかして、あなた? え? ここ海の底で人? え?)』


 もしかしたら、んという言葉だけで会話できるのではと思うくらいに意味を含むんだった……というのはともかく。

 人魚はアズラットが話しかけてきたこと自体に驚いている。

 まあ、海の底で話ができる相手など同族以外ではほぼいない。

 まさか魔物かと思って襲った相手から話しかけられるとは彼女も予想外だったと言えるだろう。


『(まあ、普通は水の中での活動ってのは人魚でもない限りはできないしな……だけどとりあえず、魔物では……いや、厳密に言えば魔物か?)』

『(魔物? なら倒してもいいよね)』

『(待て待て!? 倒せなかっただろ!? それに魔物って言っても、俺は別にそちらを襲ったりするつもりはない。人魚だって厳密な言い方をすれば魔物だろう?)』

『(そうなの? よく知らなーい。んー、んんんー、どうしよう? 別に斬っちゃってもいいけど、斬れないしー、んんー……)』


 だいぶ頭が緩い……いや、人魚は見た目的に言えば幼い容貌をしていることから考えればまだ子供と言える。

 故にか、剣で斬ることによる罪悪感、話せる相手を倒すことへの躊躇のなさ、色々な意味で危うく感じることだろう。

 アズラットとしてはいろいろな意味で話し辛い、やり辛い、相手だ。

 当然戦いづらくもある。


『(とりあえずだ。まず話し合いをしよう。争っても、そっちが勝つとも限らないし、剣で戦っているなら俺が斬れなかったことから剣が使えないのもわかるだろう? なら話し合って穏便に済ませたほうがいいと思う)』

『(……? よくわからないけど、確かに剣で斬れないもんね。斬っちゃって終わりなら楽なんだけどねー。うーん、そっか、そうだねー。面倒だなー。でも、剣も言ってるし……うーん、しかたないのかなあ?)』


 そういって、人魚はアズラットの方を見る。


『(よくわかんないけど、このままにしておくわけにもいかないし、とりあえず私の家に来てよ。実はね、この剣があなたを斬りたくないとか、戻りたい返りたいとか言っている気がするの。だから私もあなたのこと無視できないし、とりあえず何なのかーってのは私としても聞いてみたいし、家に来てくれない?)』

(剣が斬りたくない、戻りたい返りたいって言っている……? まあ、あれは魔剣だろうからそういうこともあるのかもしれないが……んんん? まあ、彼女がこう言ってくれている分には都合がいい、か)『(わかった。案内してもらえるとありがたい……泳ぐとかそういうことはできないからついていくのは難しいんだが)』

『(じゃあ私の手に捕まってついてきてー。運ぶからー)』

『(あ、ああ……)』


 幼女……というにはまだ幼さは消えて少女になりかけている感じの人魚っぽい人魚、彼女に運ばれることになるアズラット。

 ただ、相手の年齢的な印象の問題か、そんな相手に運ばれるのは……という想いがないわけでもない。

 しかし、移動手段の問題、移動速度の問題、相手の住んでいる場所を知らないなどいろいろな問題ゆえにつれていかれるのが一番楽。

 そう判断し、アズラットは人魚の手を取ることを選ぶ。

 もちろん運ぶ際には来ている防具は<同化>で回収する。

 もともと装備品は流されないためのものであり、運んでもらう分には別に必要のないものだ。

 掴みさえすれば離さないようには籠められる力の関係で問題ない。

 まあ、あまり強く力を入れすぎるのは問題だとアズラットは考えるが。


『(よーし! 運ぶよー……そういえば、その白いのなーにー? 虫?)』

『(っ!? もしかして、見えるのか?)』

『(よくわからないけど、何かあるのは見えるかなー? でも別に斬る必要はないって剣が言ってるし。んー? 近い? 同じ? んー? よくわからないけど。で、なんなのー? やっぱり虫? 纏わりつかれてる?)』


 人魚はどうやらシエラの姿が見えるようだ。

 ただ、どちらかというと正しくシエラの存在を認識しているわけではないらしい。

 剣がその存在を伝える、そういう形に近いらしく、剣がない場合見えない可能性の方が高いかもしれない。

 しかし、見えるというのはそれはそれでアズラットとしては厄介に感じる点でもある。

 とはいえ、相手が相手なので今の所それほど危惧する必要性はないだろう。

 問題は他に見える存在がいるかどうかだ。

 あるいは彼女から他者にその情報が伝えられると問題になるが、今のところそこまで焦る必要性はないと思われる。


『(えーっと、まあ後で教えてもいいけど、とりあえず問題はないから大丈夫だ)』

『(そうなの? ふーん? ま、いっか。じゃあ行くよー)』


 そうして人魚に運ばれアズラットは彼女の村までいる。

 幸いにも、陸地の近くに彼女の村はある。

 仮に滞在できなかったり何か問題があったとしても、陸が近いことはアズラットとしては嬉しいことだろう。

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