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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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277 継承者

『けっこう明るくなってきたね』

『そうだな……まあ、かなり深い所からは脱したというところか?』

『でも……そこまで代り映えがあるわけじゃないよね』

『そうだな……』


 海の中であるがゆえに、景色自体はそこまで大きく変化があるようなことはない。

 多少は明るくなり、色々とみて回ることはできるが場所的にそこそこ深いところである。

 そのためか、周囲にある物が多くなく、魚が寄ってくるようなこともないので面白みが少ない。

 まあそもそもアズラットの周りに寄ってくるような生き物はそうは言わないだろう。

 スライムであり、またその存在の格の違い、圧倒的な威圧性、感じる気配の問題。

 魔物であるがゆえのものもあって多くの生物は近寄りがたい存在である。

 もちろん寄ってくる生物もいないわけではない。

 アズラットを狙う魔物の類がいないわけではない。

 単純に襲ってくるだけのもの、捕食してその力を取り込みたいもの、まあ少しいろいろといる。

 とはいえ、そこまで頻繁に襲ってくるわけでもない。

 そもそも海は広く、出会うこと自体もそこまで多くはない。

 基本的にアズラットが何か戦うような相手と出会うことはあまりない……少し、なさすぎるような気もする。


(……生物の数が少ない? いや、魔物の数の少なさはある。まあ元々海の中でそれほど実感があるほどに魔物の多寡を感じたことはないけど……あそこの迷宮周りの状況は少々特殊な事例、例外としても海は元々そこまで魔物がいると感じたことはないし。でもあれは深い所だったから、か? そもそも海の魔物がどこにどれくらいいるのかって言うのも俺は詳しいわけではないしな……にしても、妙に魔物の存在が感じられないというか。それだけじゃないな。確か逃げてきたような焦りを見せてたのもいたか? まあ、素通りする分には無視してたから細かくはわからないけど……)


 アズラットは海のことをそこまで詳しく知っているわけではない。

 それに以前来た時も環境的にいろいろと複雑な状況であった。場所も同じではない。

 なので現時点でアズラットが見てきたことですべてを判別できるわけではない。

 それでも、どこか海の状況は妙というか、何か変に感じている。

 それは直勘的なものもあるのかもしれない。


『アズラットー? どうしたのー?』

『いや、なんでもない』


 なんでもなくないがそう答えるしかない。いや、そう答えざるを得ない。

 実際なんでもないことかもしれないゆえに。






 と、色々と周囲の様子から何かを感じつつも、実際には特に何もなかったのでそのまま陸を目指して進むアズラット。

 シエラとも話すことも減り、無言で進むことになり少し退屈というか、精神的に削られる部分も増えた。

 そんな時、不意にアズラットの<知覚>の範囲に二つの生物が入り込む。


(ん? あれ……後ろの速かったな。まあ、海じゃそういうのも珍しくはないだろうけど…………んー? 今の、ただの魚とかそういうのじゃないよな。<知覚>の範疇にそういった生物を感知するようにしてると引っかかる生物が多すぎるし)


 <知覚>はいろいろな意味で極めて便利な過ぎるであるが、便利すぎるゆえに使い道として難しい場面もある。

 その必要な情報量、得られる情報量、それが多すぎる場合<知覚>は使いづらい。

 例えば生物を<知覚>したい、では土の中にいる生物、空気中の生物、あらゆる生物を感知する。微生物やウイルスや菌の類とか。

 厳密にそういった生物を生物とするかは<知覚>のスキル次第かあるいはアズラットの認識によるのだが。

 ともかくあまり<知覚>を大雑把に、対象範囲を広くするとその取得情報量が多すぎるゆえに制限をかけるのが基本である。

 今回でいえば、<知覚>に引っかかるのは生物は生物でも魔物や人間の類、普通の生物種ではないものとしている。

 つまり今の二匹は魔物である可能性が極めて高い。

 まあ、魔物が魔物を追って殺すのは別に変な話ではないのだが。

 しかし、それでもやはり気にかかるものではある。

 魔物は生物としてはかなり強い方だ。それがあっさり死ぬのは珍しい。


(この辺りは魔物もそれほど多くなかったと思うし、それに逃げてくる魔物ならこれまでも結構見たし……何か関係が? いや、それはちょっと考えすぎか)


 そんなことを思いつつ、アズラットは先へと進もうとする。

 しかし、そこに先ほどの存在が引っかかる。

 引っかかるというか、まっすぐ……というわけではなかったがアズラットの方へと向かってきていた。

 そしてそれはアズラットにも見えるようになる。

 視覚的な物で言えばシエラにもその存在は見えた。


『あれって……人魚さん?』

『ああ、どうやら人魚っぽいな』


 人魚。アズラットはかつて出会ったことのある種族。

 それがまっすぐアズラットに対して向かってきていた。


(なぜにこっちに…………いや、おかしな話では、ないのか? 俺がどう考えても海の底にいる存在としては奇妙すぎる……普通の魚とか魔物とかならともかく、人魚にとってはどう考えてもおかしい異常で奇異な存在に思われても仕方ないか?)


 今のアズラットは鎧などの重りとなる装備をしている人型の存在である。

 見た目だけでいえば人間に見えるような。

 当然の話だが、海の底に人間はいない。海の中で人間は生きていられない。

 まあ、例外のスキルはいくらかあるが、それは珍しい実例となるだろう。

 基本的には水の中では生きられないという認識でいい。

 人魚もそれを承知している、というかどこでも知能ある生命ならその認識は変わらないだろう。

 陸の生物は海で生活できない。

 つまり、海においてアズラットの存在は異常で危険視されてもおかしくない、ということである。


(ええっと、どうしよう?)


 流石に人魚に事実無根の怪しいという理由だけで襲われるのは納得がいかない。

 かといって、人魚に対してどう説明すれば……と思うアズラット。

 色々な意味でアズラットは説明が難しい。

 まあ、人魚と言ってもいきなり襲ってくることはないだろう。

 変な相手だからこそ、様子見してくるはずだ。

 アズラットはそう考え、とりあえず話せるような、まともに相手を見ることのできるような距離になれば<念話>を使おう。

 そう、考えていた。


(あれ? あれは剣? っていうか水の中で剣なんて……ああ、使えるか。実例作ったのは俺か。槍じゃなくて剣か……って、そういう問題じゃなくて!?)


 その人魚は自分に向けて剣を向けていた。

 そして近づく勢いのまま、それを思いっきりアズラットに向けて振るう。


(っ!?)

『きゃああああああああああっ!? アズラット!? アズラット! 大丈夫!?』


 流石に目の間で剣で斬り裂かれるアズラットの姿を見てシエラは精神的にかなり驚き恐怖した。

 その叫びにアズラットも多少は驚いた……が、それ以上にアズラットは別の部分に驚いた。


(…………今、完全に当たったはずなのに? 斬れてない?)


 アズラットは剣の一撃で斬られていなかった。

 それは相手の実力が足りない、アズラットの防御力が高い、そういう理由ではない。

 少なくともアズラットはその攻撃が的確でかなり強力な一撃であることは理解している。

 そもそもアズラットの着ている鎧、とっさに持ち上げて防御に回した剣も一緒にその剣によって斬られていた。

 だが、アズラットの体は斬られていなかった。

 なぜか、剣はアズラットの体に触れるとその表面を滑るように逸れて行ったからだ。

 今人魚の表情を見れば、その人魚も何が起きたのか、意味が分からないといった表情をしていることだろう。

 そういった理解できない状況にあったのか、人魚はその動きを止めていた。

 ゆえに物をよく見る機会ができた。


『アズラット! 大丈夫!?』

『ああ、大丈夫…………』(あの剣……)


 人魚の持つ剣に、アズラットは見覚えがあった。

 それはかつてアズラットが持っていて、人魚に渡した剣。

 マネーリアに渡した魔剣……それと同じものに見えた。

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