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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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276 水底の景色

 シーサーペントの沈んでいく死体を利用しアズラットは深い深い水底へと到達する。

 そこからの行動はかつてのアズラットの行動、地面に接地してスライムで活動するか少し迷う。


(さて……<人化>して重装備をすれば行けるか……?)


 試す分には問題ないだろう、と<人化>を行うアズラット。


(っと! 流石に海流自体は厄介か! <同化>している重しになりそうな物をとりあえず出して……! あとシーサーペントの体に隠れるのもありだな。移動する場合はどうしようもないが、今色々と確認するだけならシーサーペントの体を壁にすればいい。ともかく、どれだけ重装備で流されにくくなるか……試しておこう)


 色々と試す分には問題がない。

 もちろん流される厄介さがあるのである程度それが可能な場所でなければ試せないが。

 現時点ではシーサーペントの死体など色々と役に立つ物が近くにあるのでなんとかなる。

 ある程度であればアズラットが<同化>している物を重しに沈むこともできるだろう。

 もっともやはりあまり海流が強いようであれば多少の重みでは流されるものだと思われる。


(……とりあえず今はこんな感じでいいか? 特に流される感じはない、かな? まあ剣を杖が代わりに地面に刺したほうが安全性としてはいい感じか。まあ、刺さる場所ばっかりではないだろうし、うまく接地して移動するべきだろう……海底を歩くか。スライムの姿の時と人の姿の時では印象が違うな。まあ、見えるものは変わりないんだけど。幸いかわからないが、あそこほど深くはない……のかな?)


 沈んだ場所がよかったのか、アズラットがいる場所は深い海の底であるが、完全に真っ暗というほどではない。

 とはいえ、やはり浅い場所よりはかなり暗めな海の底である。視界はそれほど効かない。

 もともとアズラットの感知能力は海の底ではあまり有用ではないため期待はしていないのだが。


『ここ、海の中? 凄いなあ……』

『シエラ。ああ、シエラは普通に見えるな……』

『え? どういう意味?』

『海の中、暗いだろ? シエラは何か見えるのか?』

『うーん……うっすらと。暗いね。とっても暗い』

『だろう? ただ、そんなに暗くてもシエラの姿ははっきりと見える……まあ、シエラの姿は目で見ているわけではないっぽいからな』


 シエラの前の指輪の持ち主だった、今は消えてこの世界に残っていないかつてアズラットの出会った残滓の女性。

 その女性もアズラットのスライム時の視界で妙にはっきりとしっかりと見える存在だった。

 残滓、あるいは幽霊とも言えるようなシエラの姿は通常の時と変わらないように見える。

 そもそもシエラはアズラットには見えるが他の誰かに見えることのないような特殊な存在である。

 そんな特殊な存在であるがゆえに通常の視界、感知能力とは別の感覚で彼女を見ているわけである。

 そのためこんな深い海の底でも彼女の姿は問題なく見ることができるのである。

 まあ、彼女の姿が見えるからと言って他の存在が見えるわけではないのでどれほど意味があるか、と言ったところであるが。


『でも、海の中にいるなんてすごい! 私こんなところに来るなんて初めてだよ!?』

『そりゃあ来たことのある人間なんていないと思うけどさ』


 シエラの言う通りこういった場所に来るのは初めてのことだろう。

 そもそも前提として普通の人間が深い海の底に来られるはずがないわけである。

 ある意味初めて海の底に生きたまま来た人間と言えるのかもしれない……今のシエラを人間というのなら。

 一応人系の種族ならば海に住む人魚の類がいるので厳密には初めてとは言えないかもしれない。

 まあ、彼女にとっては初めての場所で少し興奮してる。


『楽しいかな? 楽しいかな?』

『あまり期待しないほうはいいんじゃないかな。とりあえず陸地を……あの船の進行方向的に、こちらの方角でいいんだったな。ともかくこのまままっすぐ陸地に向かう。幸いにも地層的にはあちらに上がっていく感じっぽいし……?』

『……? よくわからないけど、アズラットの好きにすればいいと思うよ?』

『ああ』


 結局のところシエラにできるのは周りを見ていることくらい。

 移動は完全にアズラット任せ。

 ゆえにアズラットがどうするかに委ねるしかない。

 なのでどこに行くか、どうするかはアズラットが決める。






『つまらなーい!!』

『…………いや、わからなくもないけどさ? でも文句を俺に言われても困るんだけど』

『むー……ううん、わからないわけじゃないんだけどね、でもずっと……ずっとこのままだとちょっと、ねー……』


 ずっと海底にて、アズラットは歩き続けているわけである。

 当然ながら特に海底に何かがあるわけでもない。

 つまりその間ずっとただ歩き続けているだけ。

 せめてまだ地上の旅の時のようにあちこち見れるものがあればまだいいかもしれない。

 だがここは海の底。海底に見て回るようなものはない。

 浅い海底ならばともかく深い海底にそこまで見れるようなものはないだろう。

 さらに言えばそこそこ暗い海底ゆえに見るにしてもあまりものが見えない。

 それでは見たくとも見えないだろう。


『まだ海から出られないの?』

『流石に歩いて移動するとどうしても時間がかかるだろうな』

『泳げないの?』

『泳いだところで人間の遊泳速度じゃまず海だと流されるぞ? スライムだと完全に流れに任せるしかないし、<人化>した今の状態でもそこまで泳ぐ力は強くない。スキルがあればまた話は違うだろうけど、スキルはこれ以上とれないし』

『なんかすっごく面倒だね』

『……まあ、海の底で自由になる生物なんてものはもともと海に生きている生物だけだってことだよ』


 地上に生きる生物は水の中において生活することができるような適性を本来は持たない。

 アズラットはスライムだがスライムとて水の中で死なないというだけで完璧に安全というわけではない。

 呼吸が必要ないため酸素の有無は問題にならないが本来なら水圧で死に至る危険があるのである。

 幸いなことにアズラットは<圧縮>のスキルを使用し自分の体が常に圧をかけられている状態なので影響はない。

 しかしそうでなかった場合、深海に来た時点で圧に潰され死んでいたかもしれない。

 なお、<人化>状態でも<圧縮>されている状態には変わりないので潰れていないわけである。

 その装備に関しては一応水圧で潰れるようなことは今のところなさそうでとりあず現状では特にこれと言って問題はなさそうである。


『しばらくは光景が変わるとは思えないし、しばらくは指輪の方で大人しくしていたらどうだ?』

『……そうする。でも、お話には付き合ってよ』

『まあ俺としてもシエラと会話する分には問題ないというか、退屈しのぎになるからそういうのはいいぞ』

『うん! でも、何かお話できるようなことあったっけ……私は一応それなりに色々と経験積んでるけど、アズラットってそこまでいろいろと経験積んでる?』

『……ああ、それなら多分問題ないぞ? 俺の中にあるちょっと変わった知識とそれに関するお話をしよう』


 アズラットは自分の持つ、スライムとして生まれる前から持ち得る知識、それに関わる話をシエラにするようだ。

 本来ならアズラットはそういった話は墓の下までもっていくつもりあるが、シエラは誰かにその話を語ることはできない。

 指輪に宿る存在である彼女はアズラットがいなくなれば消えるかするし、アズラット以外に見られることも恐らくない。

 まあ、正確な所はわからないが彼女がそのことに関して語る機会は恐らくない。

 そもそもアズラットが言い含めておけば彼女は語ることもないだろう。

 ゆえに楽しませるために話す分には問題ない。

 もっともその内容に関してシエラ側の方が理解が追いつかないかもしれないので面白いかどうかはわからないが。

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