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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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275 深き海に

 シーサーペントが船に向かって突進してくる。

 アズラットを除き船にいる人間にそれを防ぐ手立てはない。


「槍を投げろっ!」

「逸らせ逸らせっ!

「目でも何でも射貫け! 動きを止めさせろっ!」


 彼らができるのは槍を投げその痛みでシーサーペントの動きを鈍らせることくらい。

 しかしそれも当たらなければ意味はなく、よほど痛みのある急所に当たらなければならない。

 簡単に攻撃を当てることができるのならば今までシーサーペントを相手に苦労しているはずがない。

 攻撃は当たらず、シーサーペントの動きはそのまま続けられる。

 そんなシーサーペントに一つの影が流星のごとく襲い掛かる……アズラットである。

 <加速>した<跳躍>によりシーサーペントに向かっていく。

 取り付くだけならばそれでも十分可能だろう。

 アズラットとシーサーペントが交差する……と思われるタイミングでシーサーペントの頭部に何かが激突する。

 大きな衝突音とともにシーサーペントの体が吹き飛ばされる。まあ、頭部部分がが中心にだが。

 <加速>し<跳躍>し、その勢いのままアズラットがシーサーペントに<防御>でぶつかった。

 衝突の威力の大きさはシーサーペントの速度とアズラットの速度、そして<防御>の硬度による。

 シーサーペントの巨体が吹き飛ばされるのだから相当だろう。


「うおおおおおおおおおっ!? すげえ!?」

「おい、あいつ頭にとりついたぞ!?」


 シーサーペントを吹き飛ばしただけでなく、アズラットは吹き飛ばした時点で<空中跳躍>をした。

 その跳躍でシーサーペントの頭の位置に移動し、とりついた。


「これで……!」


 アズラットは持っていた槍をシーサーペントに突き刺す。<穿孔>を用いて、思いっきり。

 その攻撃は相手の防御を貫通し頭の内部に深く突き刺さった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 単純に突き刺すだけでは死なないのか、シーサーペントは海上に出した体を大きく振り回す。

 アズラットは取り付いている状態で吹き飛ばされるようなことはない。

 しかし、その身体を海面にたたきつけるような状況になると話は違ってくる。


「うおっ!?」


 とっさに<跳躍>で跳び、海に落ちることは避けた。

 しかし足場がない。<空中跳躍>を利用するにもどこに行くべきか。

 そんな考えが浮かぶ。まあ、<加速>を合わせて船に向かえば大丈夫かと考えた矢先に……

 シーサーペントがアズラットの体に食いついた。


「っ!?」


 そしてアズラットを加えこんだシーサーペントはばしゃりと海に沈み、海の底へと向かう。




(くそっ! 何をやるつもりだよっ!?)


 水の中においてアズラットは自由な行動が厳しい。

 かつてスライムの姿だった時は流石に泳げなかったが今は多少泳げる。

 とはいえ、やはり行動はし辛い。そのうえ今はシーサーペントに咥えこまれている。


(はあ、まあこの状況じゃ船には戻れないか……まったく、最後の最後でやってくれる)


 シーサーペントがアズラットを加えこんだ理由はアズラットを確実に殺すためだ。

 自分の頭部に大穴を穿ち、今すぐは死なないがこのままでは確実な死を迎えることが確定したシーサーペント。

 その怒り、復讐心のすべてはアズラットに向けられ、こいつだけは殺すという感情を見せた。

 それがアズラットを海に引き込むことになったのである。自分の道連れに。

 海は陸に生きる生物にとっては環境的に適応できない場所である。水底になれば水圧も敵となる。

 息ができず、仮に呼吸をどうにかできても深海の圧には耐えられない。

 普通の生物であればそうなる。

 しかし、アズラットはそういった普通の生物とは話が違ってくる。

 なぜならかつて深海で生活したことのあるスライムである。

 そういう点ではシーサーペントの目論見は不発に終わることになるのだが……海に落ちた時点で一矢報いたとも言えるだろう。


(お前はよくやった。まあ、そもそも海上に出てこなければよかったんだ、と思うんだけど。そこは俺がどうこう言っても仕方ないか? そもそもなんで海上に出てきたのか、体についていた傷は何なのか、とかいろいろと気にかかるところはあるが……まあ、お前はここで終わりなんだから気にしたとしても仕方ないよな)


 なぜ海の深いところにいるシーサーペントが海上に出てきたのか、ついていた傷は何なのか。

 気にかかる点はないわけではないが、アズラットには関係のない話である。

 今やるべきことはここでシーサーペントを倒すこと。

 アズラットがシーサーペントを倒さなければもしかしたら今度は船を襲うかもしれない。

 アズラットを欠いたあの船の人間たちではさすがにシーサーペント相手にはどうしようもないだろう。

 ゆえにここで始末をつける。

 まあ、こうやって引き込まれたのもアズラットのミスである。本来なら倒していた話だ。


(<人化>解除)


 維持されていた<人化>を解除しスライムの姿に戻る。

 そしてスライムの姿に戻ったアズラットは<圧縮>を解く。

 広がったスライムはそのまま<人化>していたアズラットを加えていたシーサーペントの頭部を包み込む。


(<圧縮>)


 ぐしゃり、と頭部を完全に潰されたシーサーペント。

 深みに潜ろうとしていた体はその勢いを失う。

 ただ、深海へと向かうことには変わりない。

 これ以上勢いはつかないが、一度ついた勢いは変わらない。

 そして深みへ向かう力にアズラットも抵抗できない。

 スライムの体は普通にしていれば流されるだけだ。


(うーん……<人化>した方がいいか? <人化>しても多分無事で入られると思う。問題は踏ん張りかな? スライムでも海流に対する抵抗は厳しいけど、人の姿だと余計に厳しいだろうし……防具とかつければ重みでうまく沈んでくれるかな? 少しそういうのを期待するか。まあ、とりあえずシーサーペントの体に取り付いたまま深海の底を目指そう。また陸地を目指して歩くしかないのか……面倒だな。今回は<アナウンス>も使えないからアノーゼとも話せないし……まあシエラがいるけど)


 深海に行くことは仕方のないことであるが、問題はその深海から陸地に移動できるまでどれほどの時間がかかるか。

 海の中一人は寂しく、今回はシエラくらいしか語ることのできる相手はいない。

 まあ、それでもまだ本当に一人でない分いいのだが、代わりに道案内はなく本当に陸地を目指すしかない。それだけが厳しい所だろう。






「お、おい! あいつシーサーペントに食われて……」

「っ…………」


 海上、船の上ではシーサーペントに海へと引き込まれたアズラットの姿を見ていた。


「…………船を動かせ!」

「え!? でもあいつは……」

「……流石にあのまま助けられるわけがねえ」

「でも……」

「あのシーサーペントが海の底に連れて行ったんだ! 無事でいるはずがないだろっ! あいつはどうしようもないかもしれない……その分俺たちだけでも生き延びるべきだ! もしシーサーペントが生きてたらどうする!? 戻ってきたら!? 今度はあいつがいない! 守り切れるのか!?」

「……………………」


 彼らも戦いにおいてアズラットに頼っていた部分が大きいことは気づいている。

 ゆえにアズラットがいない今、ほとんどどうしようもないと言うしかない。

 幸いなことにシーサーペントはいなくなった。

 今のうちにシーサーペントから大きく離れるべきであるだろう。

 もしかしたらアズラットの攻撃が致命打となっているかもしれないがまだ生きているかもしれない。

 アズラットが犠牲になった事実はシーサーペントの生死に関わらない。

 それは変えることのできない事実。

 だからこそ、その活躍と犠牲を無意味にせず、自分たちは生き残る道を進む……それが彼らにできることだった。




 もっとも、アズラットは生きているのだが。

 どちらにせよ戻っては来れないため彼らの判断は間違ってはいないだろう。

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