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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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272 巨大海蛇

 その日海は静かだった。普段以上に何もないかのように静かだった。

 しかし、その静けさは船にとっては悪いことではないのに、どこか刺々しい空気を生み出すような、得体のしれない静けさだった。


「…………こりゃあ何かあるな」


 船に乗る中で戦闘の経験の豊富な船員はその雰囲気の異常さを感じ、確実に何かが起こることを理解する。

 それほどまでにその静けさは異常だった。

 船員以外の客は揺れが少なくていいとしか思わなかったが。

 しかし客とは別で船員たちにとってはかなり焦りが強い状況だった。

 当然ながら客が乗っている状態で異常が起こり得るのだから焦るのは当然だろう。

 彼らにとって客の安全は船の運営の上でとても重要なものだ。

 そしてその静けさは今まで見たことも感じたこともないような異常である。

 彼らは今までいろいろと海の異常は見てきたが、そのなかでもかなりのとびっきり……これまで以上の異変。

 何が起きるか、何が出てくるかわからないが彼らが遭遇したことのないくらいの以上であることは間違いない。


「おい、武器の準備だ。最悪乗ってる冒険者の客に手伝って貰うかもしれねえ」

「え? それっていいのか?」

「ダメに決まってるだろ。でもなあ……これはちょっと、どうなるかわかんねえ」

「そうだ。俺たちだけでどうにかできるならいいが、そうとは限らねえからな……」

「俺たちだけでやって船が沈められるか、客を面倒に巻き込んで船がちゃんと向こうにつくかどっちがいいかなんて決まってんだろ?」

「それは……」

「まあ、念のため冒険者の客を把握して必要なら力を借りるくらいにしておけばいい。俺たちでどうにかできれば客に力を借りる必要はねえからな」

「あ、はい……でもお客さんのことをそこまで把握してますかね」

「把握しとけ! こちとら客商売だろうが!」

「ひえっ」

「まあ待て。俺たちのように冒険者と付き合いのあるのならともかく、普通の奴にどいつが冒険者かってのはわかりづらいだろ。それに冒険者は見た目でわかっても実力はな」

「……それもそうか」


 船員たちはいろいろと事前に話し合っている。

 彼らは彼らで船にとって大きな戦力である。

 それこそ普通の海の魔物ならば彼らでも十分に対応できる。

 しかし、今回の相手は彼らに対抗できるかわからない。

 ゆえに冒険者への強力の取り付けを想定した。

 まあ、それは彼らにとってはかなり後回しにする手段になるが。

 戦力となる船員たちは冒険者、それも実力のある人間はある程度把握している。

 そういった人間の手を借りることを想定し誰に協力を求めるかの指示を普通の船員たちにした。

 その人物たちの中にはアズラットの存在も記されている。






 その日アズラットは部屋の外に出た。

 船員たちはあまり部屋の外には出てほしくなさそうだが客の動きを阻害することはできない。

 なぜなら彼らは海の異変に気付いているが、それが明確に異変だと言えることではないからだ。

 また、そもそも現時点では何も起きていない。

 異変という形で何かを感じてはいるが、それ以上の直接な出来事は起きていない。

 それゆえに船員たちも客の動きを止めたくても止めようがないという状況である。

 まあ、元々船の外にわざわざ出て外を見るという客はそれほどいなくなっていたのでそこまで面倒ではなかったのだが。

 船旅もそれなりに続けば海を見て暇つぶしをしようとする客は減る。

 まあ、ずっと同じ光景なので仕方がない。

 とはいえ船室に閉じこもっても、と外に出る客もいるし部屋にいるか外にいるかはその時の気分次第だろう。

 そういう感じであるが、その日はアズラットを含め外に出ている客は何人かいた。

 そしてその何人かはほぼ冒険者であった。

 まあ、アズラットは冒険者ではないのでその中には含まないはずだが。


「……やっぱり何かを彼らも感じ取ってるか」

『何かって?』

『異変、気配、異常……まあ、今ここで何かが起こるかもっていう雰囲気かな?』


 アズラットが外に出てきた最大の要因がその異常の気配である。

 海の異常に関しては理解できずとも、その雰囲気や気配は察することができる。

 特にアズラットは今までの戦闘経験や各地を見て回った経験もあるしその感知能力もとても高い。

 まあ、主体となる感知が振動感知になるが、それでもやはり普段との違い、その異常を感知する能力は高い。

 特に魔物ゆえにか本能的な察知能力は人間よりも高い。


「……海が静かだ。ちょっとそれだけじゃ何が起こるかわからない」


 ただの通常の感知ではどうしようもないので<知覚>を使い感知する。海に向けて。

 基本的にアズラットの<知覚>による感知は地下にはあまり向けることのない力である。

 それゆえに船から下方向へ向けての感知はあまりすることがなく、方向性の移行には少し手間と時間がかかる。

 とはいえ、その感知能力が低いわけではない。

 ある程度の深さまでならばレベルの上がった<知覚>で十分感知できる。


「………………」

『何かあった?』

『……見つからないな。ただ、この近辺から生物がいなくなってる。波の静けさは海の流れの問題のはずで生物は関係ないと思うんだが……』

『んー?』

『まあシエラに海のことを話してもわからないな。そのあたりは知識的なものだから』

『……確かに私が知ってることじゃないかもね。ふーんだ』


 お前は知らないだろうとアズラットに言われてちょっと怒るシエラ。

 とはいえ、可愛い怒りである。


『はは……まあ、今なにもないのならこの先何もないかも……っ?』


 現状では何も感じられない。何も起きている様子はない。

 それならばこの先も大丈夫だろう……そう思った矢先。


『これは……あ、これはもしかしてやばいかな?』

『え? どうしたの?』

『……多分すぐに何が来るか見ることができるよ』


 ゆらりと水が揺れる。海が揺れる。船が揺れる。

 そして船員たちにはにわかに騒がしくなる。

 そんな様子に外に出ている冒険者たちにも緊張が走る。

 船の部屋の中にいる人間たちは突然の揺れに少々不安になっているだろう。

 その様子を気にすることなく、それは海を割って、大きな飛沫と波を生み現れた。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 海から、巨大な蛇の姿をした魔物が現れた。




「シーサーペントだ!」

「くそっ、マジでやべえ奴じゃねえかっ!」

「外に出てくる奴が実力者ばかりだったが、そりゃそうだな!」


 シーサーペント。海竜や海龍とはまた違う海蛇の類の魔物である。

 ただ、その大きさゆえに途轍もない脅威である。

 強さだけならば海竜や海龍に匹敵するとも言われ、その巨体ゆえに倒すのにも難儀する。

 遭遇すればほぼ船が沈められるだろう、そんなとても強力な魔物だ。

 ただ、通常ならば出会うことは少ない。

 海の魔物は強い魔物は深いところに多い。

 それは獲物が関係する。強力で食いでのある獲物は海上近くには居ない。

 それゆえに普通は出てこないのだが……シーサーペントの姿を見てその理由を理解する。


「ちっ! 誰だシーサーペントに傷つけて怒らせやがったのは!?」

「少なくとも普通の冒険者じゃねえよっ! 誰が海の底に入るってんだ!!」

「それもそうか!」


 シーサーペントのいる深さまで潜りシーサーペントを傷つけられる冒険者などそうはいない。

 いや、恐らくほぼ全くいないと言っていい。

 ゆえにその傷をつけたのは冒険者というよりは魔物である可能性が高い。

 ただ、見る者が見れば剣の傷であることが分かっただろう。


「理由は知らねえが、ともかくあれをどうにかするぞ! こっちに目を向けてやがる!」

「おう! 槍用意しろ槍!」


 海の生物相手にまともに戦うための手段は少ない。

 その数少ない手段を船員たちは用意していた。

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