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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
一章 スライムの迷宮生活
3/356

003 基本的な方針


『・種族:スライム Lv1

 ・名称:----

 ・業

    スキル神の寵愛(天使)

    ■■■

 ・スキル 6枠(残4)

  <アナウンス> <ステータス>

  <>  <>  <>  <>   』



(おおっ! なんかすっげ!? ゲーム的って言うか、こういう感じのはよくあるネタだけど……VRも存在しなかったからリアルで見ることができるとは思わなかった。マジ凄いな…………)

『スライムさん? スライムさーん?』

(え? あ、えっと)『何ですか?』

『一応、私はスライムさんの思考を読むこともできるのであまり問題ないですけど……できればこっちで返答してくれる方が聞こえやすいので……』

『あー……はい、すいません』


 スライムとなった彼の思考は神様である天使には自由に読むことができる。

 別にスライムだからとかではなく、神の権限としてそういう力を持っているからできるのである。

 だが、そういう風に心を読むのは手間もかかるし面倒である。

 自分が送る言葉に返す形で答えてくれる方が受け取りやすい。

 もっとも、彼にとっては本来思考に対する返答と言うのは意識的なものとなる。

 神にとって心を読むのが手間ならスライムにとっては神が話しかけてきた連絡経路に意識を向けるほうが手間だろう。

 そのあたりはお互いの譲歩が必要である。

 まあ、神側も返事で行ってくれる方がありがたいからそうしてほしい、というくらいだ。


『でも、そこまで喜んでもらえたようで少し嬉しいですね』

『そ、そうですか? あー、えっと……自分、スライムみたいですね』


 ステータス表示を見ればよく分かる。種族がスライムとなっている。

 ステータス表示は世界の仕組みに連なる物であり、スキルで表示されるそれは確定している物であり、絶対の物。

 人が作り出した人の手による物ではない、世界の仕組みのスキルによるものであるため嘘がない。

 つまり、彼はスライムなのである。

 ステータスで見る前からそれはわかっていたが、これで完全に確定した。


『そうですね。ステータス表示は一応、機能的に嘘はつかない、つけない物ですから。あなたの種族がスライムであるのはステータスで表示されている以上確実にそうであると言うことです』

『……しかもレベル一……この名称って言うのは? 何もないみたいだけど』


 名称となっている部分は横線が引かれているだけである。


『名称はそのまま名前の事です。個人名ですね』

『……俺の個人名はないのか』

『そうですね。これに関しては、転生者はそうなります、多分。以前の名前は転生前における存在の名前であり、この世界で生まれた者はこの世界の名前を有する。あなたの記憶が有るか無いかにかかわらず、この世界でつけられた名前があなたの名前となります』

『へえ』


 彼の記憶があり、前世の名前を知っていたとしても、この世界での名前はそれになることはない。

 いや、改めて彼がその名前を名乗るつもりであればそれになった可能性はある。

 明確に宣言するか、誰かに名前を与えられるまではその限りではないが。


『記憶の手掛かりになるかなって思ったんだけど……そうもいかないか』

『記憶を失っていられるようですが……簡単には思い出せないと思います。ですが、いつか思い出せるかもしれません。それまで何とか生きられるよう、努力するのが堅実だと思います』

『あ、はい……まあ、あんまり悲壮感は強くないので大丈夫だと思います。えっと、それで、この業ってのは?』


 ステータスの表示に存在する業。

 そこに連なる言葉にスキル神の寵愛と黒塗りでそこに何が書かれているのか読めないものがある。


『業、ごうともいいますが……正確には所業、その存在の在り様、役割、世界によっては称号とも呼ばれることのある物です。この世界では偉業も悪行も、あらゆる面での物を含みます。例えば、王様ならば王と尽きますし、神様なら神とつきます。もちろん、そうでなくなればそこからその名称が消えることとなります』

『黒で塗りつぶされているこれは?』

『それは、現時点のあなたでは成立されないものです。王や神みたいに、やめればそれで消える、というものではなく……少々面倒なことを言えば、剥奪されているか、現状においてその資格を持つが条件が不成立、というものでしょう。例えばあなたの記憶が戻れば黒塗りから元に戻る可能性があるとか』

『なんというか、いろいろ面倒な仕組み……この横にあるスキル神の寵愛、っているのは……』

『それは私の寵愛です!』

『ええー……』


 いきなり寵愛を与えられている、というのもどこか納得のいかない物である。

 特に彼は記憶がないため余計に。


『もう、普通は神からの寵愛なんて貰えないんですよ? もらえても加護がせいぜいで、ほら、私の寵愛のおかげでスキルが六つも覚えられるようになってるじゃないですか! これ、凄いんですよ?』

『……そのスキル、もう二つ埋まってるんだけど?』

『あ』


 既にスキルには<アナウンス>と<ステータス>が表示されている。

 前者は彼女が言葉を語り掛けてきたときに。

 後者は彼女がステータスと唱えろと言って唱えた後に。

 つまり、彼は自分自身で本当の意味で欲しいスキルを手に入れたわけではない。

 無駄に二つもスキルを獲得しているのである。


『い、いいじゃないですか! どちらも有用ですよ!? 私からのアドバイスを受けられますし、ステータスはレベルとかスキルとか見られますし! 大体、本来スライムのスキルは最初は一つしか覚えられないんです! それが六つになっているんです! 寵愛は五つも増えるんですよ!? 別にいいじゃないですか!? 三つ増えたというだけでも大きなアドバンテージなんですから!』

『う、うん、なんかごめん……うん、ありがとう。何で寵愛を受けられるかわからないけど、恩恵があるみたいだし、感謝するよ』

『……その、ごめんなさい。私もすこしカッとなりました』


 感謝したりしつつ、お互い一度感情を落ち着かせる。


『ちなみに、寵愛じゃなくて加護だと三つ増えます。普通は加護しか受けられませんが、あなたみたいに<アナウンス>や<ステータス>を得ることがないのでそういう意味ではどっこいどっこいですか? まあ、スライムみたいな魔物ですと、そういったスキルはとても貴重で有用だと思います。これからの生活は大変になるでしょうから』

『……そっか、スライムなんだよなあ』


 既に理解しているが、彼は改めて自分がスライムであると自覚する。

 そして、一つの考えに至る。この先どうするか。


『この先どうしたらいいと思う?』

『目的によります。スライムは生きるだけなら、その辺にある塵や肉片、人の垢なんかでも食べて生きる事は出来ます。スライムの食事は種類を選ぶことがなく、あらゆるものを消化し自身の力にできますから。でも、それでは強くなるのに時間がかかりますし、本当に生きるだけになります。迷宮内に侵入した人間に殺されることに怯え続け、穴の中で隠れ潜み過ごす、それでいいのならそれが一番生きられる選択肢となるでしょう』

『…………確かに生き延びたい、というのはあるけど。それはちょっとな』

『強くなりたい、というのであれば、多くを食べる事。スライムは他の魔物と違い、戦って経験値を得るよりもたくさんの物、強い生き物の肉を食べる事の方が強くなれます。迷宮内にいる魔物、魔物に殺された人間、魔物を素材とした武器防具、良い金属を使った品物など、良い物や強い者を食べれば食べるほど、レベルが上がり強くなれます。最初はひとまず少しずつレベルを上げていくといいでしょう』

『うん……まずは、そうするか』


 一つの行動指針が決定する。

 スライムとなった彼は、まずは生き延びることを選択する。

 そして強くなることも同時に選ぶ。

 前者を優先するが、後者もできる限りやっていく。

 もちろん危険なこともあり得るかもしれないが、それでも少しずつ努力してやっていく。


『いつか、強くなったら……どうします?』

『うーん、これと言って目的はないんだけど……記憶もないし、異世界に来たみたいだし、記憶探しをしながらこの世界を見て回るとかいいんじゃないかな? 強さの究極を求める、っていうのもそこまで目的とは違うと思うし。もちろん、死なないように必要な強さは欲しいからそれを得るのもいいかもしれないけど』

『では、ひとまずこの迷宮の下を目指しましょう。迷宮は奥へ行くほど魔物が強くなるので、食べればレベルも上がりやすくなります。もちろん、魔物に襲われて死ぬ危険も上がりますのでそこは注意が必要ですね』

『了解です』


 スライムの行動が決まったところで、神の側の声が一つ質問する。


『ところで……名前、どうします?』

『え? いや、記憶を思い出してからでいいんじゃないかな?』

『こちらがあなたのことを呼ぶときに困ります。あなた、でもいいかもしれませんが……やっぱり名前がないと呼びにくい時もあります。スライムさん、でもいいかもしれませんが、あったほうがいいと思いますよ?』

『んー、それもそっか。でも、なんか改めて決めるのも……』


 自分の名前を決める、というのも元々記憶があったというスライムにとってはどこか難しい。

 元の名前の記憶があれば、それを参考にすると言うのもありなのだが、記憶喪失状態で前の名前を思い出せないのが彼にとっては枷になっている。


『私が決めるのはどうでしょう?』

『…………別に、構わないとは思うけど』

『私の名前は与えられたものですから、誰かに私も名前を与えたいと思ってたんです。スライム、スラさん、やっぱり種族的なものを名前に含めるのがいいと思います………………そうですね、アズライルとか』

『それはだめ。天使っぽくてやだ』

『……私、天使なんですけど?』


 そう言って神……天使がくすんと泣き出す。

 彼女は一応神格の存在であるが、在り様は天使というのが一番近い存在である。

 その天使が嫌、と言われればそれは悲しいことだ。

 寵愛まで与えている存在であるから余計に。


『ああ。別に天使が駄目とかそういうのじゃなくて……ほら、子供にミカエルとかウリエルとかラファエルとかガブリエルとかつけると中二っぽいし? 文化圏的に。えっと、なんというか、子供にブッダとかイザナギとかつけるみたいな感じになるし?』


 スライムの知識において、アズライルはアズライール、アズラエルなどに近い天使名の一種と感じられる。

 スライムの知っている文化において、子供に天使の名前を与えるのは少しキラッとした名前である。特に彼のいた文化圏ではカタカナの時点でアウトだ。

 後に続いたものも、一般的に子供につけるような名前ではない。

 まあ、名前に意味を持たせるのであれば天使の名は天使の種類によってはいいのかもしれないが。

 また、外国圏では天使の名前を使うのはあり得ない物ではない……と思われる。

 なので極端に否定はしにくい。


『では、少し変えましょう……アズラット、というのは?』

『うん、名前の良し悪しとかよくわかんないけど……それなら普通そうだから、それでいいかな』


 名前に対する細かいこだわりは彼にはない。

 呼びやすい呼びにくいや、何かに被っていないかどうか、それなりに普通の名前ならば良いようだ。


『はい、よろしくお願いします、アズラット……アズさんとお呼びしますね』

『いきなり愛称? まあ略しただけだけど……』

『私はアノーゼ。中位の神格で天使の、アノーゼです。これから長い間、よろしくお願いします、アズさん』

『あ、うん、よろしく、アノーゼ』

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