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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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271 船の上に客として

「……船だなあ」


 アズラットは現在船の上にいる。既に港から船は出て、その船にアズラットは乗っていた。

 ここしばらく、アズラットはいろいろな形で金策をしていた。

 一応アズラットの持っている財宝をお金に変えることはできるのだが、その財宝の情報の問題がある。

 それゆえに財宝の売却は安いものを売却にするにしてもいざというときの最終手段となった。

 この財宝の値段に関してはシエラも値段の算定をしたが、やはり結構な額になる。

 アズラットとしては財宝を失うのは痛くないが自分の腹を探られるのは嫌なので普通に金策をすることにした。

 とはいえ、アズラットは冒険者ではないため金策と言っても簡単な話ではない。

 魔物を倒すにしても素材の持ち込みをどこに持っていくかの問題があるし、そもそもそこらにいる魔物の素材を持ち込むのも難しい。

 港から遠く離れた場所に行くのも港の状況、船の出航予定の変更などが行われると困る。

 そのためあまり離れることはできず、金策もなかなかうまくいくような要素がない。

 色々な意味でアズラットは金策のし辛い立ち位置であり面倒くさい立場である。

 結局、アズラットは財宝を売っての金策をすることとなった。

 売り文句は船に乗って遠くに逃げたいから急遽お金が欲しい、である。

 もちろん安値で売り払うことはしなかった。

 ちゃんとシエラの算定通りの値段に近い額で売っている。

 まあシエラの算定基準の問題もあって少し本来よりは安いかもしれないがそこは仕方ないだろう。


「ああ、普通に海の上を船旅というのは……ちょっと嬉しい」


 アズラットは海という環境にあまりいい思い出はない。殆どの記憶は海中や海底だ。

 それゆえに海の上、船の上で普通に過ごすというのは今までにない状況である。

 まあ、スライム姿の時に密航していたことはあるが、それともまた違う人としての姿での過ごし方である。


『そんなに楽しい? 私も船は初めてだからちょっとわくわくするけど』

『そうなのか。まあ、俺は一応船には隠れて乗ったことある程度、しかも二回だけ……殆ど船の部屋の中で過ごして、二回目なんかは大きな蛸に出会ったからな。それから船を守るために戦ったり……』

『へえ! 凄いねアズラット……そんなことやってたんだ。流石アズラットだね!』

『そんなに褒められることでも……いや、結構あれを相手にするのは凄いことか?』


 魔蛸との戦いに関してはやはり十分凄いことと言えるだろう。

 あれだけの魔物を相手に戦える人間は少ない。

 そもそも海の魔物は巨大だったり水中での戦いだったりで人間では戦いづらく倒しにくい。

 それを倒せるだけでも十分評価はされるだろう。

 とはいえ、今の人の姿では戦いにくいと思われるが。


「よう、坊主。こんなところで何一人で黄昏てんだ」

「船員さん? いや、別に黄昏てなんかはないですよ」


 普通に海を見ていた、船の上を満喫していたアズラットにこの船の船員が話しかけてくる。

 黄昏ているように見えた……というのは実に彼の主観による感想である。

 実際は普通に海を見ていただけだ。

 まあ、海を楽しそうに見る人間というのは彼には考え辛いのかもしれない。

 あまりそういう人間がいないのかもしれないし。


「っと、そうだった、坊主は客だったな。なんつーか、いつもの仕事とは別で客との距離感がつかめねえや」

「いつもの仕事?」

「ああ。冒険者を運んで海の魔物を討伐してんのさ。最近はこの近くでも海の魔物が結構でてくるようになっててな。それで冒険者使って魔物をなんとかしてんだ。まあ、退治まではいかずともこの近くから逃げてくれるんならそれでいいんだがな。この船のような客乗せて向こうまで渡すような船だと魔物が出てくると対処しきれねえこともあるからそうやってなんとかしないといけねーんだわ」

「へえ……」


 最近この近辺にはそれなりに魔物が出現している……ということらしい。

 彼はこういった客船の担当ではなく、冒険者を乗せせて魔物を退治するような船の船員である。

 しかし魔物の出現が多く、今回の客船の船員だけでは場合によっては対処できないと考えられる。

 そのため彼のようなある程度戦闘経験のある船員を乗せ、いざという時に戦うための対応をしているということだ。

 もっとも、通常そういった情報は客に伝えられるものではない。

 あまり伝える意味がなく客を不安にさせるからだ。

 いざという時のために避難訓練みたいなことはした方がいいが、かといって何か起きるかもしれないことを事前に伝える必要性はない。


「っと。これは秘密だったわ。悪いな坊主、他の奴には黙っててくれねえか?」

「別に構わないけど……」

「なら頼むわ。それじゃ俺は仕事があるからよ。じゃな!」


 そう言って船員はその場から離れていく。


『随分軽い人だね。あれ言っちゃってよかったのかなあ?』

『ダメじゃない? しかし、魔物の出現が増えてるのか……』


 理由は不明であるがここ最近海に魔物が出現する頻度が増えている。

 その情報は少し不穏な物である。


『魔物、出てこないかな?』

『わくわくしながら言うことじゃないと思うけど? 出てこないほうがいいよ。船が沈められたらまた海に沈むことになるし……』

『海の中かあ。そういえば、私がアズラットと出会ったのって海の近くだったね?』

『そうだっけ?』

『そうだよ! 海の岩場当たりだったでしょ!』

『そうだったかなあ…………確か、シエラと出会ったのは人魚に陸に運んでもらったあたり、だったかなあ……』

『むうううううう!! なんでアズラットは昔のこと覚えてないのよ! 怒る! 怒るよー!!』

『……ごめん』


 自分との出会いを覚えていない、とアズラットに対し怒りだすシエラ。

 まあ、現在は幼い姿をしているとはいえ彼女も女性だ。

 精神的には十分成熟しており、そのため自分との出会いを覚えていないと言われたら流石にむかっとくるらしい。

 まあ、出会った時のことを忘れているとか好きな相手に言われると怒りたくもなるだろう。


『……いいもん。アズラットなんてしばらく私がいなくて退屈すればいいんだー!!』


 そういってシエラはその姿を消す。

 もちろんどこかに行ったわけではなく指輪の中に戻ったのであるが。


(……姿隠しちゃったか。覚えてない、っていうか曖昧な記憶というか……ちょっと悪いことしたかな? とはいえ、昔に事は全部完璧に覚えているってわけでもないしなあ……まあ、大体の感じでは覚えているけど……)


 すべてを忘れているわけではないものの、やはり印象に残っていないことや別のことに被さったことは覚えていないこともある。

 厳密には覚えていないのではなく思い出しにくい、というのもあるかもしれないが。


「まあ、とりあえずしばらくは船の上でのんびりさせてもらおう。シエラがいないのはそれはそれで寂しいけど……ま、怒らせたのは俺だししかたないか」


 普段からアズラットにシエラはくっついているのでいないというのも少し新鮮な感じがするアズラット。

 いないはいないで寂しいが、そういう時にのんびりするというのも悪いことではないだろう。

 とはいえ、シエラの方もアズラットに構われないのは辛いのか、少ししてすぐに出てきたが。




 と、そんな感じにアズラットは船旅をのんびりと満喫していた。だが平穏も少しの間だけの話。

 アズラットは船員から情報を聞いていた。俗にこういうことはフラグが立つとでも言うのだろう。

 いや、別に話を聞いたからその出来事が起きたわけではない。

 事前にそういうことが起きる可能性が指摘されていただけである。

 つまりは……海の魔物の出現である。それも大きな、船を沈められる可能性があるような。

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