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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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270 海に向けて

 シエラを同行させつつ、人の姿で旅をつづけるアズラット。

 シエラの姿は見えることになるが、誰かに見つかることを考慮しても仕方がない。

 この世界に幽霊という存在に関してその概念があるのであればそういった存在であると思われるかもしれない。

 そもそもシエラが見えたところでシエラがどういう意図でアズラットに憑いているのかもわからないだろう。

 仮にそういった存在を祓うような能力やスキルがあるにしてもシエラの存在は独特な物。

 アズラットの持つ指輪が持つ特殊な能力によるものであり、またその指輪は神格の力を宿している。

 それゆえにシエラの存在はそう簡単に消え去るようなものではないと思われる。

 シエラが消える可能性があるのは指輪がシエラを遺すために満たす条件を満たさなくなった場合。

 つまりは心残りの完全消滅だが、それはシエラの場合ないと思われるため、今のところは大丈夫だろう。

 もしかしたらシエラが消えすようなスキルが能力もあるのかもしれないが、そのためにはまずアズラットに関わる必要がある。

 アズラットとしてもシエラを無為に消し去るようなつもりはない。

 ゆえにそういった話をされても受け入れることはない。

 シエラがいることによる害はないのだから、見える側にとって複雑に思うだけで別に問題はないわけであるし。

 まあ、魔物をこの世界から消すことを目的とする聖国の人間がそういう力を持っていると厄介かもしれないが。


「……ふう、ようやく港のある街か」

『どこか別の大陸に行くつもり?』

『ああ。アルガンド……まあ、正確にはそこにある迷宮に行くつもりだけど。故郷もあるし』

『へえ。アズラットの故郷かあ……ちょっと見てみたいかな』


 基本的にアズラットのシエラとの会話はシエラがしてきた会話の回線を通してである。

 旅の途中、人のいない場所でならば普通に声で会話をしてもいいがさすがに街中はそうではない。

 人のいるところで誰もいないのに誰かがいるように話しかけていると頭がおかしいと思われかねないだろう。


『それで、船に乗るの?』

『まあ、そうなるかな……』


 この世界において別の大陸に移動するため海を進む船はちゃんと存在する。

 ただ、海の危険は魔物の存在もありかなり大きく、安全のために色々と対策が取られている。

 そしてそういった危険の大きさもあり、必要な船旅の金額も大きい。

 日数的には比較的少なく済む場合もあるがやはり金銭的な対価は大きいだろう。


「……お金足りるかな?」


 色々な形でお金を消費してきたアズラットとしては路銀の少ない状態である。

 海を渡るための船の代金を払えるか、少し不安になっている。


『足りないならスライムの姿で隠れて乗ったらダメなの? 夜に隠れて乗るとか……』

『密航を進めるのはよくないと思うんだが……まあ、倫理的な問題でよくないというのもあるが、それ以前に船側は船に乗る人間を管理していると思うぞ? 下手に隠れて乗ったら俺のことを怪しまれる可能性が高い。見つかったら面倒なことになるし、隠れてずっと過ごすのも嫌だ。シエラは隠れて外も見れないままでいたいか?』

『それは…………アズラットといっしょなら別にいい! って言いたいけど、ちょっと嫌かな?』

『だろう? なら普通に船の代金を支払ってお客として乗ったほうがいろいろと安全だと思う』


 活動のしやすさ、見の保全などを考慮しアズラットは普通に船に乗る方がいいと考えている。

 ただ、やはりその場合の問題は現在持っているお金だろう。

 アズラットが直接お金を得たのは盗賊相手から。

 その盗賊が持っていたお金だけしか手に入れていない上に途中で幾らか使用している。

 そして船旅の代金は結構高い。

 ゆえに現在のアズラットでは船旅の代金を支払えない可能性は高い。


「とりあえず、一度宿をとって……いや、その前にアルガンドのある大陸の方に行く船の出航の予定とか調べたほうがいいか。いつ出るかわからないと困るし。すぐに出るわけでないなら金策もしやすいし……すぐに出るなら持ってる物を換金するしかないか? 怪しまれる可能性とかもあるが、大陸を移るならそれほど気にする必要性はないかもしれないし……」


 色々と考えるアズラット。

 船はすぐに出るか、あるいは出航までしばらく時間的猶予があるか現時点ではわからない。

 まずは何よりも情報収集が肝心である。

 出航日時、予定、船旅の代金、色々と調べておいた方がいいだろう。






 事前に色々と聞き込みをしたり、予定が書かれている物を見たりと情報を集めたアズラット。

 船は少し前に出たらしく、すぐにまた出るということはしないようである。

 まあ、この世界において船がそう高頻度で出ることなどあり得ないだろう。

 船旅の危険、海の攻略の難しさなどを考慮するとそういうことになる。


「とりあえず、今すぐは無理みたいだな」

『そうだねー。それで……どうするの?』

「金策だな……時間があるとはいえ、念のためお金は作っておきたいけど……」

『んー……冒険者さんなら楽なんだけどね。アズラットは冒険者じゃないもんね』

「なれなかったからな」

『何か持ってないの? 売れる物があれば売ればいいと思うけど……』

「あるにはある」


 そう言ってアズラットはかつて<同化>で回収した様々な財宝を……ある程度出す。

 流石に全部出すと整理も面倒で重みもあるし下手に見つかると面倒になるかもしれない。

 そう考え、あまり大きさがなくそれなりに値段が付きそうな一品物の財宝を出していく。


『……………………ふええ』


 アズラットの出していく財宝に思わず震え声が出てくるシエラ。

 普通はそれほどの量の財宝が出てくることなどあり得ない。

 それにアズラットはあまり気にせず出しているが、仮に売るのであればその値は結構なものとなることだろう。

 シエラは旅商人の娘。旅商人とは言え、商人は商人。

 彼女も店を開いたことはあるし、相応に物の価値の鑑定ができる。

 ゆえに彼女はそんなふうに震え声を出してしまうわけである。

 アズラットの出したものの価値を理解して。


『ちょ、ちょっとお!? こんなの何処で手に入れたの!?』

「……海底にあった船だけど」

『す、すごい、すっごいお宝ばかっりじゃない!? 私だってこんなとっても価値のある物ほとんど見たことないよ!? なんでアズラットはそんな簡単にぽぽぽって出しちゃうの!? おかしいよー!?』

「いや、海底に沈んだ沈没船で回収したものだから……簡単に手に入れた物じゃないから……」

『海底? 海底にどうやって行くの……わけわからないよ……』


 シエラの感覚は比較的一般人のそれである。

 商人とはいえ庶民のそれであり、アズラットの冒険譚はとんでもない内容である。

 ゆえに理解が追いつかない。

 アズラットがそれくらいに凄い存在であるとわかっても、やはり受け入れきれない。

 まあ、実際に目の前に手に入れた財宝を見せつけられている以上信じるしかないのだが。


『えっと……それって売るの?』

「売れるなら……」

『流石に無理だよ? 売れないよ? 売ろうとしたらお尻の毛まで毟ろうって言うのが商人だと思うよ? 私だってこんなの持ってこられたら根掘り葉掘り聞いちゃうよ……まあ、私がしてたのは魔物を売る店だからこんなの持ってくる人はいないけど』


 シエラでもそのような形の行動をとる……シエラのそれは比較的穏便なもので、悪徳商人ならアズラットを脅して情報収集しかねない。

 少なくとも売ろうとした商人からしつこく出所の情報に関して聞かれるのは間違いないだろう。


『もっと価値のないものはある?』

「…………これとか?」

『うん……そういう物の方がいいかな。下手に価値のありそうなものを出すとよくないね……でも、こういうのは一枚だけとかあまりよくないし、やっぱりどこで手に入れたのかって聞かれるかな? そうだと…………装飾品系、宝石系がいいかな。お父さんとかお母さんの形見、家に伝わっているとかなら言い訳もできそうだし』

「じゃあこういうやつの方がいいか」

『うん、それくらいなら……まだ売っても大丈夫かも? ちょっと怪しいかもしれないけど』


 アズラットはシエラに財宝を見せ、色々とその財宝の価値、売れる可能性について吟味していく。

 そんな感じにシエラの手を借りつつ、船旅のための金策のために財宝を調べて行った。

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