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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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268 指輪の行き先

 とりあえずシエラや戻ってきた指輪に関してはあまり気にしないことにしたアズラット。

 いくら考えたところであまり意味はないというか、気にしすぎても仕方のないことというか。

 自分の下に飛んでくるかつて自分が知り合った相手に渡した指輪。

 そしてそれに憑くその少女の残滓。

 アズラットが制御できるものではない。なので気にしないで対応する方がいい。

 そもそも、彼女も指輪も別に悪いものではない。

 まあ、気にかかるところはいろいろとあるかもしれないが。


「……ところで、この指輪どうすればいいかな?」

『え? そんなこと言われても。指輪はアズラットの物、アズラットに返ってきた物なんだからアズラットがどうするか決めればいいと思うよ?』

「うーん……そう言われても」


 アズラットは別にそれほど自分のつけている装備を気にしているわけではない。

 指輪は装飾品、着けることで少しは身だしなみを気にしていると思われるくらいか。

 あるいはその指輪に価値を見出した何者かがアズラットの指輪に目をつけて襲ってくるか。

 アズラットは特に他人の目を気にするわけでもないので、指輪を装備する意味はそれほどない。

 そもそもこの指輪はシエラのような心残りを持つ存在の残滓を宿すのみであり、特別何か力があるわけではない。

 アズラットの下に空を飛んで帰ってくるみたいなわけのわからない動きはしたが、それは例外的な特別なものである。

 下手に付ける方が面倒を招きかねないのであまり着けるつもりはない、というだけの話である。


「とりあえず、<同化>で……って、これを<同化>した場合、シエラの存在はどうなるんだろう?」


 気にかかるのは<同化>で指輪をアズラットが自分のうちに取り込んだ場合。

 シエラは指輪に憑いている、指輪に関わる存在である。

 アズラットが指輪を取り込むことがどう影響するかわからない。

 彼女は幽霊のようなものだ。本来はこの世界に留まるべきではないのかもしれない存在である。

 しかし、せっかく彼女の願いが叶い、今アズラットとともに入れる状態なのに。

 それがアズラットが不意に何かをしてしまった結果、その想いが無為に意味のないものになってしまうかもしれない。

 そうなるのはなんとなく嫌だと思う。ゆえにアズラットは気にしているのである。


「……どうなるかわかる?」

『私は多分特に問題ないと思うかな? 指輪が壊れるとかそういうことでもない限り、私は消えないと思う。うーん、でもアズラットと入れて幸せーってなったら消えるかも? ううん、アズラットと過ごす限りはずっとアズラットといたいと思い続けるから、特に問題はないのかな? まあ、アズラットが何をする気かわからないけど、指輪を壊すようなことでもしないのなら、たぶん大丈夫だよ』

「そうか」


 シエラがそういうのであれば特に気にせず<同化>して自分の中に取り込んでも構わないだろう。

 彼女は指輪に憑いているだけであり、指輪の持つすべての能力、性能を知っているわけではない。

 ある程度は指環を通し彼女が知ることになっているが、それでもあらゆるすべてを知っているわけではない。

 ゆえにシエラが語ったように本当に大丈夫とは限らないのだが、あまり細かく気にしすぎても仕方がない。

 そう考えアズラットは指輪を<同化>によって自分のうちに取り込む。


『わ。凄い。消えちゃった』


 ずっ、と入り込むように指輪はアズラットの体の中に取り込まれる。

 その様子をシエラは面白そうに見ていた。彼女にとっては物珍しい光景である。


「とりあえず、これでいいかな…………んん!?」


 指輪を己のうちに取り込み、それ以上特に気にする必要はなくなった。

 そうアズラットは思ったのだが。


「……指輪が戻ってきた。っていうか、いつのまにか指に嵌めてるんだけどどういうこと?」

『私に聞かれてもわからないよ。でも、指輪がそこにいたい、その位置がいいって言っているんじゃないかな?』

「指輪の意思ってあるのか?」

『じゃないと私だけでアズラットに向けて飛んでいくことできないよ。でも、私みたいに意思って言えるほどのものでもないかな?』

「……よくわからないなあ」


 物に宿る意思、物が持つ意思というのは物の役割に関わるものである。

 武器ならば戦闘に使われたい。防具ならば戦いの時に着て行ってほしい。

 料理ならば食べられるべきである。

 指輪であるそれは指輪として持ち主であるアズラットに嵌めてもらいたいという意思がある。

 また、持ち主の下に返りたいというのはあらゆる持ち主から離れた物にあるだろう。

 そういった意思に関しては思考を持つものではない。

 ゆえにシエラのような、心とは別物の意思なのである。


「とりあえず、指輪を………………外れない」

『やっぱりそこがいいからじゃないかな? ずっとその場所に指輪はいたいんじゃないかな?』

「……人の姿だと強制的にこの位置に来るとか? なら……」(これならどうだろう?)


 アズラットは人の姿からスライムの姿に戻る。


『あ! アズラットだ!』

『いや、元々から俺はアズラットだけど……っと、まあ今まで人の姿をしていたもんな。シエラにとってはスライムの姿の方が馴染みがあるか?』

『うん、そうだね。スライムの方がやっぱりアズラット、って感じかな。あれ? でもアズラットってスライムでも喋れるの?』

『いや、シエラの話しかける回線を通じて話しているだけだから。やっぱりこれに関しては<アナウンス>に似ている感じかな……っと、それよりも指輪の方だな』


 スライムの姿になって、アズラットの持っている指輪は失われている。

 <人化>によって人の姿になっているときはその指輪は指に……左手の薬指に嵌められていた。

 位置に関してはともかく、嵌められていた指輪は<人化>を解除すると消えている。

 正確には<同化>している状態に戻っている。

 <人化>している場合は何故か<同化>しているのに表に出てきていたようだ。


『どうやらあの指輪はスライムの姿に戻った時は<同化>している状態に戻るようだな……シエラは特に問題なさそうだし』

『問題ないよ! アズラットの方は特に何かない? 大丈夫?』

『問題ないかな。っと、スライムの時はとりあえず問題なし、<同化>しているのはわかったから、<人化>した場合どうなるか調べないと……』


 そう言って再度<人化>するアズラット。

 先ほどのアズラットの姿そのままにアズラットは<人化>する。


「っと……指輪は普通に薬指にあるなあ……」

『そうみたいだね……ってことは、勝手に指にでちゃうのかな? そこから離れるつもりはない、ってことかも?』

「…………強制的に装備、となるとまるで呪いの装備品みたいだなあ……まあ、別に大して問題にはならないと思うけど」


 どうやら指輪は強制的にアズラットに装備されるようである。

 ところで、<人化>した際に装備している装備はどこにあったものなのか。

 そもそもスライムに戻った時にも装備は一瞬で消えてスライムのアズラットの姿のみである。

 装備品に関しては<人化>を使う際、<同化>が自動で使われるのか、スライムになるときは内に取り込まれ人の姿になるときは最後に装備している状態で自動で外に出るようである。

 指輪に関してもそれと同様であると考えればなんら指輪の消え方現れ方は変なものではないはずだ。

 ただ、他とは違う点で指輪は外そうとしても外せない、またアズラットが望む望まずに関係なく外へと出てきた。

 呪いの指輪……というとあれだが、やはり特殊な傾向のある装備品であることには違いないようだ。


「とりあえず、<人化>しているほうが都合がいいからこのままでいくか……指輪を装備していることで問題が起きなければいいけど」


 あまり気にしても仕方のないことであるが、やはり気にかかる事柄ではある。

 もっとも、そもそもアズラット自体がいろいろな意味で特殊なため、そこだけを気にしても仕方がないだろう。

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