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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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267 残滓

「……シエラなのか」


 アズラットにとってシエラとの思い出はそれなりにいい思い出として残っている。

 しかし、衝撃的なものではなく、どうしても思い出しにくいものではあるだろう。

 それなりに色々とあったのだが、やはり出来事としてはマネーリアやクルシェと比べると弱い。

 前者は環境的な要素が強く、後者はやはり一番最後というのが大きいだろう。

 そもそも渡した指輪のこともすぐに思い出せないくらいなのだから。


『うん、そうよ。それにしても、アズラットは見た目が大きく変わってしまったのね。あんなに小さかった、幼い私でも抱きしめられるようなスライムだったのに。今では大人とは呼べないけど人間の姿になってしまって……スライムなのにどうやってそんな姿になったの?』

「ああ、それは……まあ、ちょっと訳ありで得た<人化>っていうスキルで、かな。でも、俺の方も確かに見た目は変わったけど……シエラも結構変わってるだろう?」

『当たり前よ。私がアズラットであったのは幼いころだったけど、私はその後もちゃんと成長したの。どう? 美人に見えるかしら?』

「まあ、平均以上には」

『もう! 何よそれ! なら……これは?』


 ふわりと女性の姿が少女の姿に変化する。

 それはアズラットが見たことのある幼いシエラの姿より少し成長したような姿に見える。


『どう? かわいいかしら?』

「…………姿、変えられるのか?」

『うん、そうよ? 私の姿はアズラットに出会った頃から、大人の私になったころ……アズラットに最初に見せた姿の私まで、自由に変化させることができるよ。でも、それより大人はちょっと無理かな。私がシエラから受け継いだ記憶が限度だから、シエラの心が壊れないギリギリだった時まで、ちょっと大人になった私までが限度かな』

「………………へえ。そういえば、そもそもの疑問なんだけど、なんでシエラが……幽霊みたいな感じになってるの? そもそも、指輪と一緒に飛んできている時点で意味がよくわからないんだけど」


 今回シエラが指輪と一緒に……というよりは、飛来する指輪という時点でわけがわからない。

 その指輪からシエラが現れたという点に関してはまだ指輪を手に入れた時の女性の存在から理解はできなくもない。

 だが指輪が飛んでくるというのはやはり理解の外側にある。

 仮にスキルであってもよくわからない。


『私自身は大したことができるわけじゃないよ。全部この指輪のおかげ』

「指輪の?」

『うん。これはアズラットが私にくれた指輪だけど、アズラットはこれについてどれくらい知ってるの?』

「…………うーん? ほとんど特には知らない、かな?」


 アズラットは明確に指輪がどういうものであるか、というのは知らない。

 もしかしたら何か聞いていたかもしれないが詳しくは覚えていないだろう。

 そもそもどれほどその内容を重要視したかも疑問である。

 あっさりとシエラに渡してる辺り大した物と思ってなさそうだ。


『この指輪はね、何かすごい代物なの。神様の何か? そんな感じ?』

「神様の、ね……」

『うん。神様の力を宿している、ちょっと特殊な指輪。これは私がこの指輪に宿っている原因でもあるんだけど、この指輪は持っている人の心残りを指輪に宿して、その心残りが解消されるまでその心残りの持ち主の想いを残してくれる指輪なの。だから私はずーっと、アズラットにこの指輪を返すという想いと、アズラットともう一度会いたいという想いと、アズラットと一緒に過ごしたいという想いを抱えたまま、指輪と一緒にアズラットに会える機会が来るのを待ってたの。これは私もそうだけど、指輪の方もそうだった見たい。その願い、想いが解消されるまで指輪は私と一緒に、アズラットを待ってた。それでね、私が作ったお店にアズラットが来たでしょ? それでアズラットの存在を感じて、指輪と私で一緒にアズラットを目指したの。飛んできたのはそれが原因かな?』

「……………………何というか」


 思わず頭を抱えたくなるような内容である。

 一つはそれだけの想いを抱えていたシエラのこと。

 少なくともこれまでずっと抱え続けていた想い、というのは中々に重い。

 まあ、指輪の影響で解消されない限り永遠に残り続けるものである。

 そう思うとアズラットがいなくなっていたらその想いは解消されず永遠に指輪とともに残り続けただろう。

 それは地獄に等しい。まあ、指輪がなくなれば解放された可能性もあるのでそこまで苦しいものでもない……かもしれない。

 いや、指輪の由来を考えると指輪が壊れる可能性はかなり低いものと思われるが。

 そして、その指輪の異常性に関して。

 シエラの想いを宿していることではなく、アズラットに対して飛んできたこと。

 一体この指輪は何なのか。なぜ指輪が空を飛ぶような機能を持つのか。

 いろいろな意味でツッコミを入れたい気分である。


「……シエラは、シエラ本人じゃないのか?」

『……うん。私はシエラが指輪を手に入れた時から、その時のアズラットへの心残りから続いている想い。シエラの記憶はあるけど、シエラ自身じゃない。シエラがアズラットに対して持ち続けた想い、シエラ自身が耐えられなくなるほどに強くなった想い、これ以上持ち続けても、これ以上アズラットを想っても仕方ない、どうしようもない、そんな状態になった私からアズラットへの想いを全て奪ってこの指輪に宿し、私自身とした、シエラの十数年間のアズラットへの心残り。あえて言うなら、私はシエラの残滓、かな』

「そうか……」


 シエラ本人ではない。

 シエラ本人であるか、シエラ本人でないかはそれほど重要と言えるものではないだろう。

 しかし、やはりシエラであってシエラでないというのはアズラットとしては少し複雑だ。


『……シエラじゃない私がいるのは迷惑かな?』

「いや、そんなことはない。ただ、どう言えばいいかな……ずっと想われ続けたというのも、それを強いることになったって言うのも、ちょっと精神的には複雑かな……」

『気にしないで。私の想いは私が抱いたもの。シエラがアズラットと出会った結果からのものであるけど、それはシエラにとってはとても大切なものだから。それこそアズラットと会ったことが良くないことだなんて、私は思わないよ?』

「……そうか」


 本来のシエラにとっても指輪に宿ったシエラにとってもアズラットに抱いた想いはとても大きい。

 それを否定してしまえば、シエラのしてきたこと全て、シエラの抱いた想いのすべて、シエラの人生そのものを否定するようなもの。

 ゆえにシエラがどれだけ苦悩するようなことであったとしてもそれは決して悪いものではない。


「……えっと、シエラに関してはともかく。指輪が飛んできたのは?」

『私も詳しくはわからないけど、指輪の力みたい? 指輪はアズラットのものでしょ? 私がずーっと会いたがってたのと同じで、指輪もずーっとアズラットに戻りたがってたの。それで、指輪は私と一緒にその想いをかなえるために、戻るための力を宿していたみたい?』

「…………よくわからないな。アノーゼに聞くことができれば少しはわかったかもしれないけど……」


 アズラットの持っていた指輪に関して少なくとも何かを知っている可能性が高いのは神である彼女だろう。

 もっとも、今は<アナウンス>が使えないためその情報源を当てにすることはできない。


『アノーゼ?』

「ああ、よく相談に乗ってくれた天使だよ。今は話すこともできないけど……」

『そうなんだ』


 ちょっと不満そうなシエラである。


「……ところで、シエラは大丈夫なの?」

『え? 何が?』

「いや、俺が知っているシエラみたいなのは、指輪を見つけてあげたら消えちゃったからさ。えっと、心残りを解消すると消えるみたいにシエラも言ってたと思うけど……」


 シエラの心残りはアズラットに指輪を返すこと、再開すること、そして一緒に暮らすこと。

 そのうちの二つは既に解消されている。であれば、残りの暮らすことだけになる。

 そうすると消える可能性はかなり高いのでは……と思うところである。


『それは大丈夫だよ。私はアズラットと一緒に暮らしたいの。ずっと、ずっと、ずーっと、ずぅーっと!! 一緒に暮らせば暮らすほど、もっと一緒に暮らしたいと思うでしょ? だから大丈夫。それに指輪もなんとなく、そんな感じはあるかなって』

「…………それでいいのかなあ?」


 色々な意味でシエラのことが心配になるアズラットである。

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