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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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266 かつて渡した指輪

 アズラットは今街の外を歩いている。

 街の中はもう色々と見て回り、これ以上滞在する必要性はないと考えたためだ。

 一般的な人間であれば、体力的な問題で休息を求め宿をとるのかもしれない。

 しかしアズラットはスライムである。

 スライムは睡眠が必要ない存在であり、体力も存在しない。

 精神的な疲労はあるかもしれないが、それもある程度休めば回復する。

 宿をとり翌日に街で色々とするのもいいかもしれないが、アズラットとしてもこの世界においての目的がある。

 クルシェを探すこと。

 その結果どういう答えが出てくるにしてもその結果がでるまではそれなりに頑張るつもりである。

 そもそも休んだところでアズラットは眠りも必要としない以上あまり意味はないと言える。

 それこそ一日中ずっとどこかで色々と活動をしていたらそちらの方がよほど怪しいだろう。

 なので外に出て移動する。夜は比較的おとなしく、場合によっては<人化>を解除して隠れるのもありだろう。

 いや、どちらかというとスライムの姿で移動する方がいい。体力的な問題はないのだから。

 と、そういう感じでアズラットは街を出て歩いていた。


「…………ん?」


 そうして歩いていると、ふと何かがすごい勢いで自分に向かってくることに気づく。

 ただ、振動感知でも感知できるほどに速いが、その振動感知から得られる情報にも少し謎がある。

 あまりにも小さい。まあ、振動感知で感知できるといっても、速度的な意味で問題は大きい。

 それゆえに正確に感知できていないのでは、と考えられないこともない。


「………………何か飛んでくる」


 それは明らかに自分に向かって飛んできていた。

 まあ、かなりの勢いよく飛んできているが、アズラットには何が来てもあまり意味はない。

 アズラットはそもそも通常の生物ではなく、<人化>している際も性質はほぼスライムである。

 仮に今の状態のアズラットの頭部が破壊されたところでアズラットが死ぬことはない。

 アズラットの生死を分けるのは核への攻撃であり、その核が攻撃されない限りは現状安全である。

 なので今飛んできているものが当たっても大丈夫なのだが……それが一体何なのか、どういう目的で飛んできたのかがわからない。


「誰かが投げた……スキル? いや、それにしても……」


 <投擲>などで物を投げることはある。

 <加速>で速度を上げることもできる。

 しかし、そういったスキルを考えても、アズラットを狙い撃ちにスキルは果たしてある物か。

 そういう物に関してはアノーゼに聞くのがいいが<アナウンス>は今も使えない。

 まあ、彼女が知っているとも限らないわけであるが。


「っ! とりあえず……受け止めるか」


 流石に自分に迫る危機に難の対処もしないというわけにはいかない。

 アズラットは飛来してくるそれを受け止めることにした。

 街道はそれほど人がいるわけではないし、そもそも旅にも季節柄というものもある。

 目的がなければ移動はしない。

 馬車くらいはいるかもしれないが、それだって常に列をなして走っているわけではない。

 アズラットがいる場所近辺は特に人の気配はなく、どのようなことをしても……よほど目立つことをしない限りは何か怪しまれることもない。

 アズラットは構えを取り、しっかりとした体勢で自分に飛んできた何か小さな物を待ち構える。


「……………………今!」


 その飛んできた物を掴もうとする……まあ<加速>を使えばどのような速度でも対応できるだろう。

 ただ、そもそも飛来する物体を掴む、というのはアズラット自身あまり経験のないことである。

 ゆえにその飛来する物体を掴む事はできず、その手に受けるだけだった。


「んんっ!?」


 しかし、その後の展開が実に奇妙な物。

 飛んできた物を受けたのはいいのだが、それが突如停止したのである。

 あの勢いであれば、アズラットを貫通するということはなくとも結構な位置にめり込むくらいにはなったはず。

 だが実際に起きたことはアズラットの体に触れてそのまま勢いが消失したこと……いや少し違う。


「……なんだ? 落ちない? 離すことができない? んー、って言うかくっついた?」


 それはアズラットの体にぴたっ、とくっついた状態になっている。

 手を振っても落ちないし、それを取ろうとしても外れない。

 ある意味アズラットに対する嫌がらせとしては最適な行為かもしれない。微妙に嫌な感じである。

 もっとも、それは意図的なものではないわけであるのだが。


『アズラット!!』

「え? 今の……<アナウンス>? いや、回線が違う感じだし…………」

『っと、とととっ! えっと、こう……えいっ!』

「っ?」


 ふわり、と今アズラットが自分の手にくっついている何か……よく見ればそれが指輪だということくらいはわかっただろう。

 その指輪から、ふわりと何かが躍り出る。

 ただ、それはアズラットの感覚で知覚する限り、通常の存在ではない。

 それには振動感知による感知が届かない。

 そこに確かにいて、眼に見える存在であるのだが、そこに実在する存在としては感知できない。


「…………君は」

『ようやく、ようやく会えた……アズラット』

「何故、俺がアズラットだとわかる?」

『この指輪のおかげ、かしら? 確かに私の知っているアズラットの姿とは違うけど、指輪があなたがアズラットだって教えてくれるの』

「指輪? …………ああ、この手にくっついているのか」


 目の前に現れた指輪から現れた存在。それは女性である。

 少なくとも、アズラットの記憶にその女性の姿はない。

 ゆえに自分のことを知っている、という点ではいろいろと疑問が多い。

 そもそもアズラットは自分のことを名乗る機会もほとんどなく、他者に個人情報を知られるような機会もない。

 今の所この世界のこの時代でそんな機会があったとすれば、冒険者ギルドでの登録の時くらい。

 過去、アズラットが迷宮を作る前でもアズラットのことを知っているのはクルシェやネーデ、あとはシエラやマネーリア。

 しかし、その全員を考慮しても、目の前の女性の姿はない。

 年齢的に見合うとすればクルシェくらいだろう。


「………………指輪?」


 しかし、彼女の言葉から指輪が何かあるのか、と思い指輪をしっかりとみて、そして思い出す。

 アズラットはかつて指輪を持っており、その指輪を一人の女の子に渡している。

 そしてその指輪は少々特異性がある。

 今の目の前の女性のように、振動感知で知覚できる存在ではないものが憑いていた、という事実。

 そもそもかつて渡したことのあるその指輪はそういった者を作ることのできる特異性を持つ。

 アズラットは目の前に現れた女性の姿を見てみる。

 <アナウンス>のような会話はかつて同じ指輪に憑いていた女性と似通っている。

 そして、その女性の見た目……髪や目の色を確認する。

 顔立ちに関しても確認し、それらの情報を統合し自分の記憶と重ねた。


「…………もしかして」


 年齢が違うゆえに、正確に判断できるものではない。

 しかし、特徴の多くが一致するのであれば、可能性は低くない。

 アズラットは彼女に昔出会ったことがある。

 そしてこの指輪を渡した。目の前にいる女性はその女の子だ。


「シエラか?」

『そうよ! ずーっと、ずっと、ずぅーっと!! ずっとアズラットに指輪を返すために待ってたの。ずっとアズラットに会うために待ってたの。お久しぶり、初めまして、やっと見つけた、やっと会うことができた!』


 シエラ。かつてアズラットの出会ったことのある小さな女の子。幼い年齢の女の子。

 すぐに思いつかないのは当然と言える。

 なぜならばその見た目は大きく違う。印象が違う。

 それは小さな女の子が成長した姿だ。

 当然記憶の中のそれとは違う見た目ゆえに、すぐに思いつけるものではなかっただろう。

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