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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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263 盗賊の持ち物

 アズラットは人間を相手に戦い余裕で勝利を掴める。

 そもそも人間がアズラットを害することがほぼ不可能と言っていい。

 ゆえにアズラットは無謀と思われるような行動も簡単にできる。

 だが、出来るからやるというわけではない。

 そもそも盗賊が拠点として使っている場所に罠があったり見張りがいないとも限らない。

 捕まっている人間がいたら自由に暴れることもできない。

 流石にアズラットがとんでもなく強い存在だとしても、そういった他者への配慮は必要である。

 そこにいる人間への配慮もそうだが、アズラットの正体に関してもバレないように注意しなければいけない。

 仮にアズラットが好きに暴れようとした場合、そのスライムの能力、特性、性質を存分に使うことになる。

 そうした場合確実にその存在の異常性がバレることになり得る。

 ゆえに人がいないほうが都合がいいのである。

 そういったことを事前に調べるため、アズラットは<人化>を解除して元のスライムの姿に戻り、拠点に侵入する。

 盗賊たちは外に出ていた八人を失っている。その八人は決して少ない人数ではない。

 そもそも盗賊と言っても彼らはそこまで大きな盗賊ではない。

 ゆえに八人も喪失すれば今後の活動はし辛くなるだろう。

 まあ、このまま侵入し殲滅するのだから今後のことを考える必要はない。


(ふむ…………振動感知で把握する限りでは、人数はそれほどでもないな。流石に倍残っている、というほどでもないか。おおよそ半数より少ない数が外に出ていた、と行った所か)


 外に出ていた八人は半数より少し少ない人数……盗賊たちは全体でおよそ二十人程だった、ということである。

 内部に残っているのは十三人。どうやら盗賊以外の誰か捕まっている人間はいない様子である。

 ただ、振動感知による構造把握、音による知覚は万能ではない。ゆえに確実な情報ではない。


(あ、こういう時こそ<知覚>を使えばいいのか。なんというか、こういうスキルは自分だけだと使うところを忘れがちというか、判断を間違えやすいよな……もっとあれこれ積極的に使えばいいんだろうが…………)


 <知覚>を使い改めて内部の情報を把握する。

 スキルも完全に万能なものではないが、情報把握能力はかなり高い。

 少なくとも己の感覚だけで判断するよりははるかにいいだろう。

 そうして<知覚>により、現在侵入している盗賊の拠点の内部情報、そして盗賊たちの存在について情報を集める。

 もっともアズラットが事前に感知したように残っている盗賊は十三人。

 ある程度は武装し見張りをしている様子である。

 別に盗賊たちもずっと己の仕事をしているわけではない。

 休息もいるし、日常的な仕事も必要になる。

 普段過ごすうえで娯楽もあったほうがいい。

 そういう点ではよく盗賊が酒を飲んだり女を犯すのは娯楽の少なさゆえか。

 しかし彼ら盗賊は寝ているやつがいたり、見張りをしているものだったり、今は大人しい状況である。

 捕まえた獲物がいないので退屈しのぎもできない、あるいは外に出た仲間の帰還を待っているか。

 もしくは何者かが襲ってくることを考え体力を消耗しないようにしているか。

 ともかく、彼らはここ拠点で大人しくしている。

 それはアズラットにとっては実に都合がいい。

 洞窟という拠点は暗く比較的目による確認がしづらい。

 見張りもいるし、松明やランタンのような明るくする物もあるが、それでもアズラットは見えづらいだろう。

 そのうえ<変化>を使って影になっているところを進むようにすれば、ほとんど発見はできないと見ていい。

 移動もゆっくりであればその存在の把握はできない。

 地上にいると踏まれたりして見つかりそうなので壁沿いを進むのがいいだろう。

 と、そんな感じで盗賊の拠点内部をアズラットは進んでいる。


(見張りが機能していない……まあ、一体のスライムを確認するのはそこまで単純、簡単ではないんだろうが。<変化>を使って見えづらくしていれば余計にわかり辛いわな。明るくもないし。おかげで変に勘繰られることもないからいいけどさ。さて、しかしここからどうするか)


 問題は彼らの始末をどうつけるか、だ。別に殺すだけならば容易に可能である。

 しかし、重要なのは彼らは殺すが彼らの持ち物はできるだけ残したいという点。

 外にいる盗賊たちはできる限り殺すことを重点にして持ち物にあまり被害は出していない。

 <穿孔>を用いて顔面を貫き殺す……単純で高威力で他に被害を出し辛い殺し方をしている。

 そうしているのは偏に相手の持ち物をできる限りまともに残したいから。

 ここにいる盗賊相手でもできればそうしたい。

 そうなると天井から大きくなってどさりと落ちて飲み込む、という手法はあまりよろしくない。

 取り込んだ物を溶かさないようにとある程度の選別はできるが、それくらいだ。


(…………ん? そうだ、別に溶かす必要はないのか? 水に包まれているような感じなら、呼吸を塞ぐ……体内に包んで出さないようにさえすれば、それでいいのか。<圧縮>は駄目だな、やったら持ち物とかも潰れるし、服も一緒に潰れる。戻す分には問題なくても血がたっぷり入ってるとあれだし。まあ、呼吸をどうにかすればうまくいきそうかな。とりあえずここにいる奴らを全員殺して、それから一度外で殺した奴らを回収しよう。放置してたら獣とかに荒らされそうだからもったいない)


 できれば全部回収して、どれがどう使えるのか、何がどのように役に立つのか調べたい。

 まあ、ここにいる盗賊全部を潰してからならば時間的余裕はできるだろう。

 何より人が近づくような場所ではない。

 最悪人が来たとしてもここにある物を全部回収して隠れていればそのうち人がいなくなる。

 それからやることをやればいい。






「……うーん、まさか体型の問題とかがでてくるとは……それに盗賊産だと臭いとか現在の状態とかも考慮しなければいけないか?」


 盗賊を殺し尽くしてそのものを奪うことができたアズラット。

 しかし、欲しいと思っていた服や防具は少々微妙な感じである。

 この世界にいわゆる既製品の類はあまり多くない。

 あるとすれば古着として売られている物だろう。

 自分の体にぴったりという服は少なく、自然と少し大きめの服、余裕のある服にすることが多いだろう。小さいよりはいい。

 しかし、問題となるのはアズラットと他の盗賊たちの体型の違い。

 これに関してはアズラットはどちらかというと平均より少し小さめだ。

 そして盗賊をやっていた男たちはどちらかというとしっかりした体つきである。

 どうにも体型的に合わない。

 まあ、だぼっと大きめのサイズである分にはそこまで大きな問題にはならないかもしれない。

 だが気になることは気になる。そんな服を着て旅をするのは変に思われるかもしれない、と。

 そこは少々アズラットの気にしすぎな点もあるが、他にも着替えとなる服がそれぞれ違う体型に合わせたものというのも変だろう。

 それに汚れやほつれ、服の消耗具合に関してもやはり気にかかる点はある。

 特に臭いなんかは盗賊が使っていたから臭いかもしれない。

 そういった部分ではアズラットは臭いの影響がないので気にする必要はないが、逆に臭いがあるかどうかがわかりづらい。

 仮にその臭いが原因で他者に奇異に思われると困る。

 また、アズラットの出した臭いと思われるのも本人的には待ったをかけたいところである。


「まあ、しっかりと洗って……使えそうなものだけでも使うかな。<同化>で取り込んで<人化>できっちり合わせてくれるとか……は流石にあり得ないか。そこまでスキルは便利ではないし。防具も微妙だけど……まあ、武器が手に入った分にはちょっとありがたいな。使い道はあまりないけど、見かけだけでもちょっとは冒険者に見えるだろうし」


 服や防具の一方で武器はちゃんと手に入った。

 もっともやはりこちらも消耗具合が気になるところではあるが、そこはあまり気にする必要はないだろう。

 どちらかというと適性のあるスキルを持たず武器を持った戦いができなさそうな方が問題になる。

 なぜその武器を持っているのか、その武器を持って旅をしているのかと怪しまれかねない。

 まあ、こういったことはアズラットがあまりにも考えすぎな気もするが、無駄に深読みして考えるのが彼の特徴である。


「それにお金もしっかり入ったし。一番重要なのはこれだったかな?」


 お金。この世界で現在使われている貨幣。

 これが手に入ったのが今回の一番の収穫だろう。

 武器や防具、服なども重要であるが、一番重要なのはお金だ。

 前の三つが仮に手に入らずとも、お金さえあれば新たに手に入れることができる。

 そういう意味合いでは盗賊を襲ったことで得た最大の収穫となるだろう。

 もっとも盗賊のためか余りため込んではいなかったが。


「よし、とりあえずこれで街に行ける。見た目は流石にどうしようもないけど、服装を変えれば少しは怪しまれにくくなるな……」


 街に行く分には別に今のままで問題はないが、やはり活動資金は必要だった。

 何も買えないまま街で話を聞いて回るだけ、というのは本人も納得いかないしもっとあれこれやってみたいと思っていた。

 盗賊退治という善行を果たしつつお金を奪いそれを使うことができる。

 今回はそんな今までからの脱却の大きな一歩だった。

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