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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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261 森の中の隠れ人

 以前冒険者ギルドに入ろうと考えて入り込んだ街は今でも特に大きな変化はない。

 アズラットの存在に関してはいろいろと彼らも不安に想っている物かと思ったが、特にそういうことはないようだ。

 これに関してはアズラットの存在に関しての情報の共有がされていないのが大きいだろう。

 アズラットの存在を逃した、敵対し街中に出してしまった。そのことに関してまともに伝えると冒険者ギルドの失態となる。

 またそもそもの目的が不明であり人の姿をして街の中に入り込んでいたりもしていたわけである。

 その存在に関して情報を下手に伝える方が疑心暗鬼になり他の人間を怪しむ危険性が高い。

 移動して外に出て言ったアズラットが街中に戻ってきているとも思えないし、戻ってこないかもしれない。

 情報の共有をする意味合い、重要性が低いとされており、捜索も難しいと積極的に探されてはいない。

 まあ、見つければもちろん報告するように、と冒険者ギルドからは言われている。

 冒険者は<人化>している魔物も見つけられるスキルを持っている者もいる。

 一応見た目はある程度分かっているし、探すことはそこまで難しくはない。

 やはり積極的に探しているわけではないが。

 そんな感じであるため、アズラット自身が入り込み姿を見せない限りは大丈夫だろう。


(そんな感じなのか……街道を<人化>して進む分には大丈夫か? まあ気にしすぎても仕方ない気もするが。そもそも誰が魔物を探知するスキルを持っているかもわからないし、魔物を探知スキルを持っているからと言って俺がそうだってわかるわけでもないし……)


 魔物を探知するスキルはアズラットのみが引っかかるわけではないため、人の姿をしていてもアズラットであると断定はできない。

 他の人型の魔物、人に類似している魔物として引っかかる存在と思われる可能性はある。

 まあ、アズラットの場合その見た目が一度冒険者ギルドで見られているのでばれてしまいそうだが。


(まあ、この近辺ではあまり<人化>をしないで進むほうがいいか。流石にすべての冒険者に周知されている、ってことはないだろうし……)


 この近辺ならばともかく、遠方の冒険者や冒険者ギルドに情報共有がされている可能性は低い。

 冒険者といっても、その冒険者の住む場所、中心に活動する場所以外へ行くことは少ない。

 情報共有にしても今回のことは街側にも伝えていないため、他の冒険者ギルドに伝えられている可能性は低い。

 そもそも、伝えたところでどうにかできる者でもない。

 出現情報をまとめるにしても難しいだろう。

 ゆえに、このことはこの近辺だけで調べ、他の所に行っていれば知らないふりをする、という状況である。

 まあ、彼らも色々と都合があるというか、面倒ごとはごめんというかそんな感じなようだ。


(とりあえず、とっととあっちに行こう……ある程度進んでから<人化>するか。別にスライムの姿でもいいけど、どうせいろいろとみて回るなら情報収集の観点でも人型の方が都合がいいんだよな。移動に関しても楽だし……問題は見た目だな。情報の周知がされていれば見た目に関しての情報も知られているだろうし……せめて装備だけでもどうにかしたいかな……お金がないからな。その換金のために冒険者ギルドを使うつもりだったんだけど。まあ、そんなこと言ってもしかたないけどさ)


 色々と問題もあるが、<人化>して人の姿でいる方が都合は良い。

 まあ、スライムの姿にはその姿の良さもある。

 ただ、以前はずっとスライムの姿であったため今は人の姿で得られる情報を主に欲しい、と考えている。






 そうして街をスライムの姿で通りすぎ、ある程度街から離れたところで<人化>し人の姿をとるアズラット。

 そのまま街道を進む。特に人の姿があるわけではないのでそこまで気にすることもない。

 しかし、進んでいく中森の近くにある街道まで来て、アズラットは周囲の警戒をし始める。


「………………」


 アズラットは他人の姿になっていても、感知能力はスライムの時と大きく変わってはいない。

 まあ、人の姿ゆえに持ち得る視界であったり、触感性能であったりと、スライムから変わる部分もある。

 しかし、その反応自体はスライムであったときと大差はない。

 形が人の姿をしている、というだけだ。

 当然振動感知能力の高さもスライムのときのまま。

 迷宮内のような狭い範囲での感知ほどではないが、かなりの広範囲高精度を持つ。

 その感知能力が森の中にいる人の存在を感知していた。


「………………?」


 森の中にいるその人物は特に動く様子が見られない。それがどうにも奇妙に思えた。

 しかし、それを気にしてもしかたがない。

 森の中にいるのならばアズラットが特に関与するようなことはないだろう。

 そう思いながらアズラットは街道を進んでいた……すると、その森にいた人物たちが動き、森の中から出てきた。

 そして、アズラットの前に立ちふさがったのである。


「よう、兄ちゃん」

「……何か用ですか?」


 その人物はアズラットに話しかけてきた。

 その人物ともう一人、弟分のような人間がアズラットの前にいる。


「用事っちゃあ用事かな」

「俺たちのような人間をなんていうかわかってんだろ? おら、金目の物をよこせよ」

「………………盗賊かあ」


 盗賊。この世界でも見られる、食い詰めた農民から力ある冒険者まで多種多様な人間がなる悪党。

 アズラットの知識の元である存在がいた世界ですら、盗賊や山賊、海賊の類は存在している。

 こんな魔物がいて危険で力こそが正義と言ってもいいくらいの世界においてそういった者たちが存在しないはずがない。


「わかっているなら大人しく持っているもん全部を渡せ。そうすれば殺さないでいてやるよ」

「まあ、殺さないからって無事でいられるとは限らねえけどなあ……いてっ」

「妙なこと口走るんじゃない。大人しくしてくれたほうがいいだろうが」


 彼らとしても金目の物をもらえば大人しく相手を返す……などと善良なことをするわけではない。

 まあ、場合によっては身代金を要求するとかそういうこともあるかもしれないが、アズラットのような旅人でそれはないだろう。

 奴隷として売り払うなり、甚振って楽しむなり、人間にはいろんな使い道がある。


「そう言われても……俺のことを見てみたらわかると思うけど、これといって何も持ってないけど?」

「はあ? んなことたーねーだろ?」

「旅人だろう。何も持ち物を持ってないってことはねえ。食い物も水もなしに旅なんてできるかよ。魔物だって襲って来るってのに」

「へえ。じゃあ俺が何か持っているように見えるのかな?」

「…………見えねえな」

「ええっ!? こいつ何も持ってねーのかよ!? 頭おかしいんじゃねえのっ!?」


 旅をしているのに着の身着のまま、食料も水も装備も持たず旅をしているなんて精神異常者かと思わざるを得ない。

 実際それで旅をできる方が異常であり、そうして旅をしているアズラットは有り得ない存在だ。

 そこでアズラットの存在を怪しむべきなのだが彼らはそんなことよりも己の実入りの方が大事だ。


「へっ。でも金を待たねえなら仕方ねえな」

「見逃してくれると」

「んなわけねえだろっ! てめを捕まえて売り飛ばすに決まってるだろうが!」

「……そういうことなのか?」

「まあ、そうだな。大人しくしてくれりゃあ手荒なことはしねえ。俺たちとしても、売っぱらう人間を傷つけるともったいねえからな」


 お金を持っていなくとも人間という時点で資産にすることができる。

 ゆえに人が見逃されることはない。

 大人しくしていても捕まり、売り払われる。物を渡しても捕まり売り払われる。

 結局のところ結果は変わらない。

 抵抗すると怪我をしたり、場合によっては売り払う代わりに盗賊のおもちゃにされる。

 あるいは女性であれば……ということもある。


「はあ……まったく」


 とん、と軽く地面を蹴るアズラット。

 その姿は、男のうちの片方、弟分の目の前に移動していた。

 その顔面を、その腕が貫いた状態で。


「…………あれ? いなくなってやが……なっ!?」

「悪いけど、容赦はしない……森の中に残っている奴らも含めてな」


 流石に自分を害しようとする存在、そして自分以外も害するだろう存在を生かして返すつもりはアズラットにはなかった。

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