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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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260 再び元の場所へ

 ネクロノシアにおいてのクルシェの痕跡をアズラットは追っていたが、どうやらネクロノシアにはいないとわかった。

 そうして考えられることは別のどこかにいる可能性が高いということ……まあ、ネクロノシアにいないのだから当然だが。

 そういうことで、別の大陸へと移動してみることにしたアズラット。

 ネクロノシアのある大陸のどこかにいる可能性を考えていないのは存在の痕跡が見られないからだ。

 かつていた、という情報はあるが、その後の情報のつながりがない。

 また、ヴァンパイアの特殊能力の痕跡がない。

 例えば貧血で倒れた、話に合ったように気絶者が出た、一時的記憶喪失の人間がいる等の情報がないということ。

 また、ヴァンパイアが使う使い魔として蝙蝠が大量に存在しているような様子もない。

 これに関しては確定的なことではないものの、そういった情報からこちらにはいないのではないか、と思うところである。

 特にこの大陸はかなり広範囲に聖国の手が入っているため、ヴァンパイアを含め魔物はいづらい所だろう。

 そんなところにクルシェがいつまでも残っている可能性は少ない。そう考える所だ。

 かといって、別の大陸に移動するにしても少し厳しいところはあるだろう。

 ヴァンパイアはまずその弱点が明確であるという点だ。日光には圧倒的に弱い。

 そんな状態で海を渡り大陸を移動するなどとても難しいと言わざるを得ない。

 それを考えれば、ネクロノシアのある大陸から橋を渡った先の大陸にいるので、と考えるところである。

 あくまでそれは一番高い可能性であり、別の手段……何らかの手段で海を渡って別の大陸へ移動した可能性もある。

 その何らかは不明であるし、海を渡る手段にしても日光さえどうにかできれば問題はない。

 そのため絶対にこちら側の大陸にいるとは限らない。聖国と神山のある大陸か、あるいは竜生迷宮のある大陸か。


「……可能性として高いのは、俺が迷宮を作った場所の近くにいる、だけど。でも特に何か俺を探しているような蝙蝠がいた、とかそんな感じではないし。でも、こちら側に来る方向は見てみたけど、その向こう側の方は特に調べてないな。別に大陸の端ってわけでもなしい、あちらの方に居を移している可能性はある……まあ、仮にあちら側にいないのであればそれはそれでやはり別の大陸に行っている可能性は高い……此方を調べるのも考えておいた方がいいだろうけど、聖国の人間がここまで多いこちら側にいる可能性はたぶん低い。ネクロノシアみたいに入れば見つかってバレる、みたいな場所もあるかもしれない……ならやっぱり余所に行っている可能性の方が高い。ともかく、一度橋を渡って向こうに戻ろう」


 考えをまとめ、アズラットは自分が迷宮を作った大陸の方へと戻ることにした。

 また、最終的には恐らく自分が生まれた迷宮がある大陸へと向かうつもりでもある。

 どうするにしてもクルシェを探すという目的を果たすことがそうする理由の一つである。




 そうしてアズラットは橋へとくる。

 自身の見た目の関係や隠れやすさ、安全性の関係上その姿はスライムの姿である。

 <人化>を使ってもバレるときはばれるのはネクロノシアで判明している。

 場合によってはネクロノシアに出現した人型に化けることのできる魔物の情報が共有されている可能性がある。

 もちろんアズラットの<人化>した姿が知られている可能性、その姿の見かけの情報が伝わっている可能性がある。

 服装などに関して、アズラットは自分の姿を変えるような手段が今のところない。

 ならば普通のスライムに紛れられるスライムの姿でいるのが一番安全なわけである。


(さて、ここまで来たはいいけどどうしたものか。って、前と同じでいいんだろうけど…………流石にここまで警戒網はない、って感じか。あるいは街や都市、村の方の安全を優先しているとか。そういうことはありえるな。俺の目的がわからない以上、逃げられるだけで済むこの橋の警戒はそこまでではないという可能性はある……かもしれない。まあ、そこまで単純とは思えないけど…………そこまで警戒する必要性もないかな?)


 現状の橋の警戒は以前とほぼ変わりがない。

 まだ情報の伝達が済んでいないか、情報が来ていてもそこまで警戒されていないか。

 聖国の目的は魔物のこの世界からの排除であるが、魔物の討伐に極端に積極的、力を入れているわけではない。

 逃げた魔物も脅威であれば多少警戒し追ったりもするが、執拗に確実に殺すまで追いかけるということはしない。

 いや、一部の本当に魔物に恨みがある人間ならば話は違ってくるかもしれないが、多くの聖国の人間はそこまでではない。

 魔物の討伐、掃討、排除を題目に掲げていても、基本的な人間と同じ感覚の者が多い。

 そこまで極端に魔物をこの世界から排除しようとは少なくとも末端の多くは賛同していない……いや、賛同していないわけではない。

 ただ、別に完璧にこの世界からその存在を完全に失くそうとはしていない、というだけだ。

 魔物の存在がいないほうがほとんどすべての人間にとっては安全なのだから。


(まあ、警戒されていないのならありがたい話だ。以前と同じ方法で橋を渡ればいいだけだし)


 前と同じ、橋を渡る馬車に隠れて潜み、橋を渡る。結局のところやることは以前と変わりがない。

 警戒されてはいるが、それでもアズラットの存在を見つけるほどではない。そもそも以前も見つかってはいない。

 聖国の兵士全てが魔物の存在を探知できるわけではなく、そこまでの戦闘能力を持たないものも多い。

 兵士たちの多くは騎士にはなれない、強さとしてはかなり弱い側だ。

 ゆえに得ているスキルもそれほど強くない。

 ゆえに、警戒をきちんとしてうまく隠れていれば、特に見つかることもなく脱出できる。

 多くの聖国の兵士や騎士にとってはアズラットは倒すべき相手ではあるが、絶対に追い続けなければ存在ではない。

 そのため、アズラットは包囲網……というほどのものはないが、多少警戒される中を抜けることができた。






「とりあえず街道を進みながら移動、あの街に進むつもりで行くべきか? それとも山とか森とかそっち側で隠れて進むとか……うーん、どうせなら前に運んでもらったところあたりとか一度見てみたいところだけど、そう簡単にたどり着けないよな……やっぱりあの街に向かうつもりで、別にあの街に入らず脇を抜けて進んでいけばいいだけか。迷宮へと続く道の方は迷宮があるだけ……迷宮に戻る? 別に利点はないよな。やっぱり普通に進んでいくしかないか……人に見つかる危険性、とかだとあっちの大陸ほど気にする必要はない。冒険者は少し怖いけど、そこまで気にしなくてもいい……と思う。もしかしてこちらでも指名手配、とかそういう感じになってたりはしない? 流石に大丈夫か……?」


 橋を渡った先でもアズラットはいろいろと考える。

 誰に聞かせるまでもなく、独り言を漏らしながら。

 これが<アナウンス>が生きていればアノーゼから的確かどうかはともかく助言がもらえるのだが、今は誰もその言葉には答えない。

 一人寂しく誰も聞くことのない独り言を漏らす姿は実に寂しい物である。

 まあ、そんなアズラットの寂しい姿はともかく、色々と考えるものの、考えたところで話は進まない、何も意味はない。


「ま、なるようになるしかないな……とりあえず、あの街の先へと向かうことにしようか」


 結局のところアズラットはあまり難しく、深く考えて行動はしない。

 深く考えることはあっても結局行動してどうなるか、で決めている。

 そのあたり大雑把なものだが、考えすぎたところで行動できなければ意味はないのだからそのほうがいいのだろう。

 なるようになる、やってから考える、起きてから対応する。

 行動しないと始まらないのだからまずは行動する、そういうことである。

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