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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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258 対聖国の騎士

「はあっ!」

「っと」

「ちっ! このくそ野郎! 避けるんじゃないっ!」

「いや、さすがにこちらを斬り捨てようとする相手の攻撃は避けるものだと思うけど?」


 街の中、聖国の騎士の武装をした三人の男が一人の男を襲っている。

 通常街の中でそのようなことがあれば大きな騒ぎになる。

 実際この場においてかなりの騒ぎとなっていた。

 もっとも、聖国の騎士はネクロノシアの住人には信頼されている。

 それはこれまでの実績がしっかりとあるからだ。

 ゆえに聖国の騎士が一人の男を襲っていても、それに何らかの理由があるのではと考える。

 もしかしたら聖国の騎士が自己の欲で何かを仕出かしている、あるいは彼らの格好をした暴漢なのではとも思うこともあるかもしれない。

 しかし、そういった考えすら浮かばないくらい、聖国に対しての信頼度は高い。


「それにしても、いきなり街を歩く普通の住人に向けて斬りかかってくるなんて、いったいどういうつもりなんですか?」

「はっ! 貴様が普通の住人だと? 我々の攻撃を避けている時点でそれはあり得んな!」

「魔物風情が人間を騙るかっ! 大人しく死んでおけっ!」

「っと……ま、さすがに僕はこの街の住人で普通の人間です、と言ったところで信じないか。最初からわかってるから斬りかかってきたわけだろうし」

「その通りだっ!」


 彼らが襲ってきた理由。聖国の騎士が戦う目的はほぼただ一つ。

 魔物をこの世界から掃討するため、である。

 つまり彼らが襲う相手は魔物である。それはただの勘違いや妄想ではもちろんない。

 魔物という存在は人間とは明確に違い、スキルで魔物を判定するようなスキルもこの世界には存在する。

 聖国の騎士はすべてがそういったスキルを持っているわけではないが、彼らの仕事の都合上そういったスキルを持っている。

 それは魔物がどこにいるか、それを調べるためでもあるし、今回みたいな人の姿をした魔物を判定するためにも必要である。

 人の姿をした魔物は多くの場合極めて厄介である。

 その姿が人であるため、どうしても戦いづらい。

 なぜなら人の姿をしているからだ。傍から見れば人を襲っているようにしか見えないだろう。

 それに人の波に紛れれば逃げられる可能性は高くなるし、他の人間には相手が魔物かどうかの判断ができない。

 仮に一般人の多くいる街の中にいられれば極めて危険なこととなるだろう。

 それに、人の姿をとる魔物は基本的に人並みの知恵を持つことが多い。

 でなければ人に紛れることは難しいだろう。

 多くの場合魔物は高い知性を持つことはあっても人ほどの複雑で多様な意識を持つことは殆どない。

 人間の持つ、道具を扱う、スキルを扱う、集団で戦う、多様な作戦と高度な戦略を行う。

 ある程度は集団で過ごす魔物ならば持ち得る技法もあるが、人間ほどの物は持ち得ないことが多い。

 まあ、多くの場合人型魔物は高い知恵と理性、知識を持ち得ることも多いのであるが。

 それでも、彼らは人型魔物であり人間の姿を持つ魔物ではない。

 人に化ける、というのは人型であるということとは違う。

 例えば人型に化ける魔物の代表例はドッペルゲンガーやミミックの一種などだろう。

 明確に人と同じ姿をする、というのが重要だ。

 特に前者のドッペルゲンガーは完璧に人の姿と同一になり、そのうえその姿の当人と同じ知識を持つ。

 それゆえに極めて厄介で人になり替わる魔物の代表例として扱われる。

 もっとも、その人物になり替わる以上のことはしないことが多いのだが。

 それでも魔物は魔物である。どれだけ本人と同一に振る舞ったところで本人ではなく魔物である。

 色々と思うところはあるが、倒さなければいけない。

 振る舞いが人間であるがゆえに倒すまでがまた厄介になることも多い。

 倒すこと自体はそこまで難しくはなくとも、やはり人型の魔物は極めて厄介である。

 今回の場合、相手は<人化>のスキルで魔物になっているわけであるが、それも分からない状態だ。

 そもそもどういう魔物かどうかの判断も言所ではできていない。しかし、少なくともその身体能力からただ人型である魔物というわけではないだろう。


「しかし、よく避けたな。今のは<跳躍>のスキルか?」

「さあ? どうだろうね」


 相手から情報を得られれば少しは相手がどういう魔物かわかる。

 しかし、人に化けている彼は答えない。

 答えない、という点である意味一つの解答だ。

 少なくともスキルというものの存在を認識し理解している。

 そして、そういった魔物である以上スキルは持ち得ている物だと判断するべきであるだろう。


「ちっ、スキルを持っているか。厄介だな」

「そもそも相手は何の魔物かもわからん。人の姿をしているが、ドッペルゲンガーやミミックとも違いそうだ」


 今聖国の騎士が戦っている相手はどうにも彼らの知る人型をとる魔物とは違って見える。

 そもそも、人型をとる魔物はかなり特殊な事例が多い。

 魔物は本来の魔物の姿があるため、元々人の姿をとる魔物でなければ人の姿をとることがない。

 しかし、目の前の魔物はそういった魔物に該当する性質を持っているように見えない。

 攻撃を避けた、というのもそうだが、スキルを使っているのもやはりそうだ。

 人の姿をとっている魔物が冒険者のような、屈強な人間の姿をしていればまだ理解はできる。

 しかし、普通の街の人に近い姿、それも大人の男性というにはまだ若く見える男の姿である。

 それがスキルを使いこなし、魔物戦う聖国の騎士の攻撃を避ける。

 それはとても奇異に思えてしまうことだろう。

 もっとも、それは彼らが知っている魔物では考えられないというだけで、彼らの知らない魔物の中にはそういった魔物もいるだろう。

 あるいは……例えば、かつてこのネクロノシアを支配したヴァンパイアのような魔物とか。


「貴様、もしかしてこのネクロノシアに住んでいたヴァンパイアかっ!?」

「なにっ!?」

「……え?」

「まさか戻ってくるとはな! 日の光をどのように克服したかわからないが、かつての非道、この場で成敗してくれるっ!!」

「……ええっ?」


 なぜか聖国の騎士たちは目の前の魔物がかつてこのネクロノシアに住んでいたヴァンパイアではないかと考える。

 本来ヴァンパイアは日の光に弱く、日中の街中を歩くということはありえることではない。

 しかし、魔物の中には成長し己の弱点を克服することもある。

 ヴァンパイアは日の光に弱いという話はあるが、成長することで耐性ができるという話がある。

 もちろん彼らは成長したヴァンパイアなど見たことがなく、またその話も噂話くらいで実際にはどうなのかは不明だ。

 だがそのヴァンパイアが現れいなくなった時期を考えると、そう考えることもできなくもない。

 少なくともそれくらいの年月は経っている。

 かつて支配したが、理由があり留まることができなくなった都市を再度支配する。

 そのために戻ってきた。

 大人の男の姿をしていないが、ヴァンパイアゆえに成長できないのならばそういうこともあり得るのではないか。

 彼らの攻撃に反応したり、スキルがとても洗練されているのはそれだけの経験があるから、と考えるならばありえないことではないだろう。


「変な勘違いされているな……」


 実際の所、この魔物はそのヴァンパイアではない。

 いや、今更だが、この魔物はアズラットである。

 ネクロノシアを歩き情報収集を終え、さてどうしたものかと考えているところに侵入を探知した聖国の騎士に見つかった。

 そして襲われたのを回避し、戦いとなったのである。

 それが今は妙な勘違いをされている状態だ。


「面倒だから……逃げさせてもらおうっ!」

「なっ! 貴様! 戦いから逃げるかっ! 卑怯者!」

「おいおい、魔物にそんなこと言っても仕方ないんじゃないか?」

「だがなっ!」

「そんなこと言ってないで追うぞ! まだ追いつけ……ないっ!?」


 <跳躍>で高く跳びあがり、さらに<空中跳躍>でさらに高く跳ぶ。

 そのまま屋根の上に到達し、一気に駆けぬけるアズラット。

 聖国の騎士たちもそれを追うことはできず、街の中普通の通路を進み追うが、自由な経路をとれるアズラットと比べるとはるかに遅い。

 そもそもアズラットは<加速>のスキルを持っているため、<跳躍>に合わせて使うことで同じようなスキル無しで追うことは不可能だ。

 同じ人間としての行動ができる時点で<加速>のスキルが大きな差をつけることになる。

 そして、彼らは街の外に出たアズラットの存在を見失った。

 彼らは騎士と兵士たちを合わせ、逃げたアズラットを追う。

 もっとも、彼らの懸命な捜索の甲斐はなく、アズラットの姿を見つけることはできなかった。

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