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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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255 ネクロノシアへの道

 橋を渡った先、そこからネクロノシアへ向かうアズラット。

 しかし、その道も楽なものではない。

 以前アズラットがこちらの大陸へときたときはかなり昔の話であるが、そもそも馬車での移動だったわけである。

 村や街など、その時々所々で色々な場所に寄ってはいるが、やはり馬車での移動は歩きよりも早い。

 そしてアズラットの移動手段と言えば、<跳躍>か<人化>しての徒歩、あるいは<加速>を併用しての移動。

 ただのスライムであればばれないようなものでも、それぞれのスキルを使えば相応にその姿は見られてしまう。

 まあ<人化>に関しては変なスライムとして見られないのでまだいいのだがやはり見た目が怪しい。

 そもそも橋の方からネクロノシア方面へと向かうという点ではアズラットの見た目はやはり奇妙に思えるだろう。

 せめて旅の馬車に乗っているのであればまだ観光旅行であると言い張れるが、アズラットはそれができない。

 財産はあるのだがお金、通貨、支払うための金銭を有していないのである。

 ゆえに馬車に乗ることはできない。

 だから歩いて移動するしかないので面倒なことになっている。


(しかし、ここも結構変わったな……前はこんなに発展してなかったような)


 ネクロノシア方面への道、ネクロノシアという都市が観光地となっているためか、元々それなりにこちらの方面は発展している。

 しかし、今はその時以上に発展しているように見える。

 まあ、アズラットが眠りについてから結構な時間が経っている。

 それだけの時間があれば相応に発展するだろうと言われればおかしな話ではない。

 しかし、気にかかる点として都市の発展の仕方、発展したことによる街の様子の違いだ。

 別に人が増える、街が大きくなる、そこはいいのだがそこにいる兵士たちの存在が気にかかる。


(…………あの兵士達、橋でも見たよな? いや、人物が同一人物であるとかそういうわけではなく。装備が同じ……ってことは、ここからあの兵士たちは橋へと行っている? それもまた何か違うような気もするが……)


 橋を渡ってきたときに見た兵士達。向こう側、こちら側に存在する兵士達とその姿は同じ。

 来ている装備が同じ、と考えるとこの街から彼らは来ていると考えられる。

 厳密にそれは間違ってはいない……と、アズラットは思っているのだが、それもまた違うような気がするのである。


(<知覚>で得られる情報にどの程度個人情報があったかな……使ってから考えてもいいけど、<知覚>は情報収集としては優秀だけど積極的に使いたいものでもないからな。必要なら使うけど、無駄に情報が入るんだよな……まあ、情報の遮断をすれば限定的な情報に絞れるけど、それでも範囲内の情報はほぼすべて入ってくるからなあ……無駄なゴミとか汚れとか、汚い物の情報が入ってくるとか、人と人の絡みとか……まあ、個人情報手に入れるくらいなら? っていうか情報収集する相手を限定すればいいだけだけどさ。でも、情報はあくまで情報、っていうか、情報で得られる個人情報は本当に個人の情報だからな……)


 <知覚>は便利なスキルであるが万能なスキルではない。

 得たい情報が確実に手に入るようなものではない。

 なんというか、<知覚>で得られる情報はかなり物質に寄るものである。

 例えば地理的なものや地層的な物、空気の流動やその空気中の物質の情報など。

 微生物から土の内部にいる生物の情報、生物たちの構造の情報など。

 しかし、それらを得られるとして、生物の持つ知恵や知識は得られるかと言えば、そうではない。

 個人の持つ記憶、知識、情報までは<知覚>で得ることはできない。

 流石にそれができると強力過ぎる。

 仮にそういった情報が欲しいのならば、情報系のスキル、あるいは読心系統のスキルとなるだろう。

 そして、物の名前、個人の名称などは本来は<知覚>で得られる情報とはなり得ないことが多い。

 まあ、それも場合によって、ということもあるが、少なくとも多くの情報は得られることはない。

 ゆえにアズラットは<知覚>を使うことで兵士たちの情報を得るつもりにはならないというわけである。

 いや、気分の問題ではなく情報収集の手段として適切ではない、情報を得られないという意味で。


(詰所とかあるかな? いや、そこに行っても情報が得られるとは限らないか……そもそも、仮に行ったとしてどういう情報が得られる? 知識面で? 個人的な? 何かを知ることはできても、そもそも何を知ることができる? スライムの姿で行くべきか? 人の姿になって行くべきか? ふうむ……やっぱりこういう時こそ<アナウンス>を使いたいんだけどなあ……)


 個人でいくら考えてもわからないものはわからない。

 アズラットはこの世界の住人よりも知識はあるが、頭がいいと言えるほどでもない。

 また、この世界の知識、に関してはこの世界の住人よりもはるかに少ないと言える。

 迷宮暮らしが長く、眠りについていたゆえに。

 現代の知識でないもの……アズラットが眠りにつく前のものであれば、一応ネクロノシアで得られた知識はあるだろう。

 しかし、それも相応に限定的な範囲の知識や情報であり、また結構な時間が経ったことで意味のない情報となっているかもしれない。

 逆に中途半端に知識を持っているせいで今の時代の情報とは噛み合わず、勘違いしたり間違ったりしていることもあるだろう。

 そういったことが考慮されるため、アズラットは自身の知識を信用しないことにしている。

 だからこそ情報収集が必須であるのだが……いろいろな意味でその情報収集に苦労しているというか、困っているというか。


(まあ、できないことはできないな。とりあえずあまり街には寄らず、素通りしていくか……なんというか、無意識的なのかどうかわからないけど、あまりあの兵士達とは関わりあいになりたくないんだよな……本能的な感覚かな?)


 アズラットはその街の中にいる兵士、装備が似通った彼らにあまり近づきたくない。

 そもそも、この街を守る兵士達とと考えても、少し人数がいすぎというか、守るための配備としては多いように感じられる。

 そういう点では彼らはただの普通の兵士とは考えづらい。仮に橋を守るために集められている兵士達だとしても。






 そしてアズラットはネクロノシアの方面へ、街道を沿って進む。

 その間に各街や村へと寄っていく。

 やはりどこもアズラットが覚えているのに比べて大きく発展している。

 ネクロノシアが観光地だからと言っても発展しすぎではないか。

 そして、少し奇妙というか、他では見られないような特徴……少なくとも多くの場所ではありえないような特徴に気づく。

 魔物の数が少ないこと。街中に見られる魔物がほとんどいないこと、街道沿いの魔物が少ないこと、それらに気づく。

 また、たまにいる魔物も多くの場合それらが狩られていることに気づく。

 ただ、奇妙なことにそれを行っているのが例の装備をした兵士達であるということが気にかかることになっている。

 冒険者が魔物を狩るということは珍しくないのだが、兵士が街の外に出て積極的に魔物を狩るのは奇妙に思える。

 また、その装備が同じこと……つまりある意味巡回みたいな感じで兵士が街道を見回っているのも妙に思えた。


(………………そういえば、冒険者は?)


 そして、冒険者の数が多くないということにも気づく。

 これは別に場所によると言わざるを得ない話になるわけなのだが。

 迷宮のある土地の場合、迷宮を目指す冒険者が来て冒険者の数が増えるものだ。

 その逆で迷宮のない場所には少ない。

 しかし、それでも魔物の脅威はあるし、仕事も様々あるはずであり、そこまで少ない、大きく数を減らすということはないはずだ。

 だが、一つ考えられる点がある。兵士の存在だ。


(魔物の数が減らされているから……か。冒険者との奪い合い? それも何か違うような……どう考えても組織的だし……)


 色々とこの大陸に起きている変化の様子に戸惑いながらもアズラットはネクロノシアへと向かう。

 もっとも……その目的地たるネクロノシアこそ、アズラットが困惑するくらいに最も変化しているところであると、そこで知るのだが。

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