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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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253 街を追われて

 冒険者ギルドにて迷宮主であると見破られ、その結果街を追われることになったアズラット。

 しかし、アズラットの心情としてはそこまでそのことに関して気にしてはいない様子である。


「はあ……ま、しかたがないか」


 元々アズラットは魔物であるということは事実として変わらないことである。

 今回は冒険者登録の際に冒険者ギルド側に指摘された形であるが、それ以外のことで見咎められることはあったかもしれない。

 例えばアズラットの行動の結果、何かのきっかけで人間でないことがばれるとか。

 あるいは冒険者たちの持つスキルで魔物であることがわかる、強さが知られてしまうなどが理由になるとか。

 結界など魔物を排除する何らかの機構、施設などで判別されてしまうなど。

 街の中に魔物は入り込んでいられるが、アズラットのような人間に近い位置での行動はあまりできるものではない。

 多くの魔物は小さく野にいてもおかしくないような動物系の魔物や、一部の比較的有益で危険の少ない魔物くらいだ。

 まあ、そういう点でいえばアズラットのようなスライムも街中に入り込んでいるわけだが、さすがに<人化>するような存在はいない。

 そもそもアズラットは迷宮主、魔物としての強さ、レベルとしても異常なため明らかに別物である。


「しかし、ちょっとなあ……予定は未定とはいうけど、やりたいことをやることもできなかった感じではあるな……しかたないんだけど、やっぱりなあ……未練だな」


 冒険者になること、それができなかったということにやはり思う所はある。

 しかし、それ以上に……冒険者登録もそうであるのだが、やりたいこと、やろうとしていたことができなかったことも痛い。

 アズラットはそもそも<人化>するにしても、その状態での行動は難しい。

 なぜならアズラットの見た目は冒険者っぽくは見えないような見た目だからだ。

 身体的にも、服装的にも。

 一応見た目を変えようと思えば変えられないわけでもないのだが、面倒である。

 ゆえに冒険者登録をしたり、装備を整えたりで少しは冒険者らしく見せたいと思っていた。

 それに、冒険者云々のもの以外に関してもしたいことはあった。例えば旅の道具の購入。

 何が売っているのか見て、それを実際に買って扱ってみたい、集めたい。

 必要なら自作も面白いだろう。

 冒険者に関しての話にもなるが、冒険者の装備、武器防具だってほしい。

 そういったことも冒険者ギルドに登録できなかったゆえにできなかったと言える。

 まあ、登録できたからといって簡単にできるとも限らなかった。

 アズラットの持っている財宝の換金がうまくいく保証はなかった。

 その場合は依頼を行いそれでお金を稼ぐつもりではあったが、それに関しても穴は大きいだろう。

 とはいえ、実際にやってみるまではできるかできないかの判別はできない。

 試してダメならば仕方のない話ではあるが、試す前からダメになったので納得がいかない、という話になる。


「まあ今更か。とりあえず、今後どうするかだな……とはいっても、街に戻るわけにもいかないし、別の街に行っても……大差はないよな? っていうか、冒険者ギルドも今回対応間違ってるんじゃないか? あそこで冒険者暴れさせちゃダメだろ……闇討ちすればよかったと思うんだが……まあ、俺としては別にどっちでも結局あまり変わらないし、あちらの対応に関して言い出しても詮無き事、だよなあ。ともかく、何処に行ってもそこまで大きく対応が変わるとは思えない。また同じことになると面倒だし、そもそも他の冒険者ギルドにも情報が回っている可能性はある。情報共有の何かシステム的なものでもあったりは……するのかな? 流石に詳しくはわからないからな……」


 今回の冒険者ギルドの行動に関してはともかく、アズラットが関わるとなると今回のような出来事はまた起こり得るだろう。

 別に今回の街の冒険者ギルドだけが今回の対応をするというわけではなく、何処の冒険者ギルドでも結果的には似たような対応になるだろう。

 流石にいきなりアズラットを迷宮主として指摘したりはしないと思われるが。

 あの行動に関しては流石にそれを行った受付の対応が悪いと言わざるを得ない。

 迷宮主は普通の冒険者が相手になるような魔物ではない。

 まあ、相手がアズラットだからこそ穏便に済んだわけであるが。

 仮に対応するのであれば、表向きは普通に対応するだろう。

 そして裏では行動の観察を行い、何を企んでいるのかを調べ、相手の弱点を探す。

 その間に倒せるような冒険者を集める。

 また冒険者カードの方でも情報は得られるし何らかの行動を起こせばそれからも情報を得られる。

 少なくともいきなり迷宮主だと叫び、戦うような愚を犯すことはあまりない……と思われる。

 まあ、普通は迷宮主と出会うような者はなかなかいないため、出会ったことで混乱し普通ではしないような行動をすることはありえないわけではないだろう。

 そんなふうにいろいろ考えていると、ふと今回のことで忘れていた物、忘れ物のことを思い出す。


「あ……そういえば冒険者カードって作られた可能性はあるんだよな。あれ、回収したかったんだけど……どうしよう。流石に今から戻って忍び込む、ってわけにはいかないし……それに今どこにあるかもわからないな。あの時点なら内部に入り込めばなんとかできた可能性はあっただろうけど、さすがに今からは無理だよな……」


 今回のことで恐らく作られた可能性のある冒険者カード。その回収が今回は行われなかった。

 冒険者カードは冒険者……およびそれを持つ者の情報の塊である。

 実績はともかく、レベルに称号、スキル、名前、記載されている情報はそれなりにある。

 そのうえ、実績以外は自動で更新される。

 実績に関しては冒険者に関してを冒険者ギルドが管理するためのものであるため別物である。

 そんな冒険者カードの役目は大きく、また、それが他者の手に渡ることの危惧も大きい。

 情報が自動で更新されるということはつまりどのような活動をしているかがわかるということ。

 また、その強さに関しても分かるだろう。

 とはいえ、アズラットの情報は今更それほど意味のある物ではなさそうではある。

 称号以外はレベルやスキルはほぼ更新されないし、そもそもそこに存在する情報だけで色々な意味で絶望的だ。

 人間の冒険者で最高峰でもレベル七十から八十が限界であり、しかもそれはある程度の年月をかけて到達する点。

 どこかの人間の少女はわずかな期間を駆け抜けレベル六十近くになったが、そんな人生を戦いに極振るような存在は例外的なものである。


「……ま、いっか」


 冒険者カードが本来の所有者の手から離れている場合、どうなるかはアズラットにはわからない。

 もしかしたら記載される情報の更新が成されるかどうかも不明だ。

 近くにあるならばともかく、遠くにある状態でどの程度情報が反映されるだろうか。

 それに、種族が出ないのならばまだそこまで脅威ではない。

 スキルもバレたところでそこまで大きな問題にはならない。

 アズラット自身の強さは十分なほどあり、また単純な強さという点でも十分。

 相手がヒュドラよりも強いような相手でもなければ恐らく大丈夫だろう。

 ゆえにそこまで冒険者カードが向こう側にあることを危険視しないことにした。

 実際、冒険者カードは個々のステータスを映し出すための仕組みであるため、その情報元から離れるとあまり大きく更新はされない。

 映されているステータスが消えるということにはならないが、しかしその更新はほぼされないと見ていいだろう。

 まあ、一定範囲に近づけばどうなるかはわからないが、アズラットはもうこの場所に近づくつもりは今のところない。

 なので特に問題はない。まあ、アズラットはそのことを正確に理解しているわけではないが。


「とりあえず、ネクロノシアに向かうか……ここからだとかなり遠くになるな」


 今アズラットのいる場所はネクロノシアのある大陸から巨大な石柱の橋を渡ってきた大陸である。

 ネクロノシアにはかなりの距離を移動しなければならない……かつて、旅商人の馬車に乗って移動した距離である。

 迷宮を作る際では自力で移動したが、あの時でも結構な時間がかかった距離だ。

 今回もその時くらいに時間がかかることだろう。

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