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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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250 街に近づいて

 色々と考えた結果、アズラットは山を下りて街へ向かうこととした。

 ただ、この時普通の街道を通ることはしない。たとえ<人化>で人の姿に慣れるとしても。

 理由としてはやはりその見た目、一人での旅だという点だろう。特に見た目が問題だ。

 これが冒険者であれば、まだ一人旅でもおかしな話ではない。

 珍しくはあるが、そういう行動をしてもおかしくはない。

 しかし、アズラットは見た目でいえば冒険者ではなくどちらかというと一般人だ。

 もちろん村から街に出向くような人間もいるから一般人の旅人がいないというわけではない。

 だがそれでも、簡単な武器くらいは持っているだろうし、少なくとも迷宮に向かう道から戻ってくることはない。

 そもそも冒険者などに見つからずに行動するという意図もあり、山を下りるのは道を外れた自然の中を潜り抜けてだ。

 もちろん<人化>で人の姿をとってではなく、いつものスライムの姿で。

 基本的に山を進むのはもう今更な話である。それなりに何度も山登り山下りをしており、苦労もない。

 襲ってくる魔物や獣の類も特になく、安全にのんびりと山を下りた。

 そして、普通に街へと向かうのであった。


(……………………街の前に兵士がいるー。まあ、そうだよな、こんな世界だと街を守るうえで門番みたいな感じで配置される兵士くらいいてもおかしくはないよな……そもそも昔からいたし。いや、俺も<人化>をすれば入ることは……できる、よな? 入るのにお金がいるとか、そういうのがよくあるし、格好で怪しまれたりするかもしれない……か? どうだろう……ちょっとわからないな……クルシェ、ネーデ、シエラ……まともに街に入るとき一緒だったのってシエラくらいか? それでも特にその時はそういうこと気にしてなかったしなあ……シエラに抱かれていたからそっちの方ばかり気にしてたし)


 アズラットはいろいろな意味で怪しい存在である。

 そもそも、その出自に関しても詳しく話すことは難しい。

 例えば近くにどんな村があるのか、この大陸の名前は何か、国の名前は何か、街の名前は何か。

 もちろんそういうことを知っている人間ばかりではないだろうが、しかし全く何も知らないということもないだろう。

 アズラットは基本的にいろいろと知識はあるが、どちらかというとこの世界の常識よりは元々持っている知識のものが大きい。

 一応ネクロノシアで経験し学んだこともあるが、それでもこの世界の今の常識と近しい物かどうかもわからない。

 迂闊にネクロノシアにいた時に得た知識を披露してしまえば、その知識の古さに怪しまれるかもしれない。

 それゆえに、アズラットはまともに街へ入ることはできない。

 まあ、まともでなければいくらでもできる。

 迷宮を出てきたときのように<変化>を使い自分の見た目を変え、侵入をバレにくくするとか。

 まあ、そもそも入口から入らなければいけない、というわけではない。


(よし、外壁を登ろう)


 街を守る、街を囲う外壁が多くの街にはある。

 その外壁を登るのはアズラットのようなスライムならば容易である。

 まともに壁を登ればそれこそ人にばれて攻撃される危険もあるが、<変化>をアズラットは持っている。

 街に入るときは流石に見つかりやすくて危険が大きいが、壁ならばバレにくいだろう。

 そう思い、アズラットは壁を登り街の中に入るのである。

 割とあっさり街の中に侵入できてしまうのはいかがなものか。

 まあ、元々街の中には普通に魔物が入り込んでいるし、別に珍しい話でもない。

 ただ夜のような見つかりやすく見張りが少ない時ならばともかく、昼間に堂々と、というのは珍しいかもしれない。






(…………よし、この辺りに人はいないな。<人化>)「っと……よし、こんなものか。流石に街の中では……この格好でも特に怪しまれるということはないかな? 確実にそうだとは言えないだろうけど、まあ大丈夫だろう……最悪見つかっても逃げればいいだけだし」


 割と楽観的なことをつぶやくアズラット。

 <人化>の姿は今の姿一つだけなので見つかると後々に響きそうな気もするが。


「さて、街の中に入ったし……まずは服装とかを変えるか? それとも冒険者ギルドに向かう? できれば服とか鎧とか、そっちは先に仕入れておきたいかな……格好さえ何とかなれば別に無理に冒険者登録しなくてもいいかも……まあ、登録はしたいかもだけど。とりあえずまずは服とか日用品をそろえておくか?」


 できれば先に人間として見せかけての活動の準備を。

 アズラットはそんなふうに思うわけである。

 見かけだけでもなんとかなれば、実際に冒険者としての登録をしなくとも何とかなる、そう思う次第だ。

 しかし、前提としてまずそれを成すのにはいろいろと問題がある。


「……お金がないんだった。えっと、財宝の換金か……こういうのって宝石屋とかで換金……っていうか、ここに宝石屋とかあるのか? それとも質屋とか? あるいは金物屋とか? 武器屋防具屋? えっと、そもそもこういうものをどこに売りつければいいのかわからないんだけど……いや、待て、そもそも仮に、俺がそこに持ち込んだとして、買い取ってくれるか? 普通に考えれば信用的に買い取ってくれるかは怪しい。まず俺がいきなり持ち込んだことを怪しまれるし、盗品として思われるかもしれない……仮に買い取ってくれるとしても、相場通りに買い取ってくれるかどうか。そもそも相場も知らないわけだ。まあ、そこを気にしすぎても仕方がないか……? ともかく、普通の店に持ち込んで買い取ってくれるかはわからないよな……仮に偽物です、と言われて安値で買われると困るし。買い取ってくれる所ってむしろ色々な意味で怪しい所? 帰り際に襲われたりとかしない?」


 色々な意味で深く考えすぎているアズラット。別にそこまで稼ぎを重要視していないのなら、ある程度の資金になればそれでいいはずだ。

 しかし無駄にいろいろと考える性質のあるアズラットは深読みしすぎである。

 まあ、アズラットの言うところも間違ってはいないだろう。実際アズラットのような人間がいきなり金を持ち込んで買い取ってくれるかは怪しい。

 そもそもアズラットの持っている金は沈没船の財宝であり、色々な意味でその歴史的価値は大きい。

 それをその辺の街に何処にでも良そうな村人のようなよくわからない人間が持ち込む……誰がどう見ても怪しい。

 そんな人間から物を買い取れるかというと難しいし、仮に買い取るにしても安値で買いたたくことができる可能性が高い。

 アズラットは自分で売っているがそもそも相場を知らないわけであるし。


「冒険者ギルドなら、きちんと査定してくれる……かな? でも冒険者になったばかりでいきなり持ち込んでも………………やっぱり直接売って稼ぐ、というのは考えないほうがいいのか?」


 冒険者ギルドまで怪しむようなら末期である。まあ、そう考えるのもわからないでもないが。

 結局人間の組織相手にいきなり持ち込みをしてお金を得るということ自体がいろいろと無理のある行動と言える。

 ある程度妥協し、当座のお金だけを求めればいいのにそれ以上を求めるから問題となるのである。

 結果として、お金稼ぎはもっと単純でわかりやすく、一般冒険者的なやり方で稼ごう、とアズラットは考える。


「冒険者ギルドに入って冒険者として普通に活動しよう。魔物を狩って、その素材を持ってくることくらいなら、今の俺のような人間でもできるはず……まあ、俺自身は人間じゃなくてスライムだから特に問題なく稼げるよな? まあ、何を持っていけばいいのかわからないけど、依頼を見ればなんとなくわかるのもあるか。とりあえず冒険者登録だな」


 そう考え、アズラットは冒険者ギルドに向かう。

 そこは虎の口、虎穴であるアズラットのような魔物にとっての危険地帯。

 アズラットはいろいろな意味で自分の抱える問題を単純で簡単に考えているが、そんなに楽な話ではない。

 冒険者に登録することに関して様々な火種を抱えているということをアズラットは知らない。

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