表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
273/356

246 人の姿を得ても人には非ず

 アズラットは迷宮を進んでいる。

 普段のスライムの姿ではなく、人の姿であるためか罠を受ける頻度が大きい。

 とはいえ、アズラットは他人の姿をしているが別に人ではない。スライムである。

 ゆえに罠の攻撃を受けたところで特に害があるわけではない。

 まあ、罠を受けること自体が害ともいえるが。

 本来襲ってくるだろう迷宮に住むスライムはアズラットのスライムの格の違いゆえに襲われることはない。

 そもそも上位種であるゆえにアズラットは率いる立場、命令する立場にある。

 襲われないのはそちらの理由が大きいか。

 まあ、基本的にスライムの群れと罠が問題な迷宮であり、アズラットはその両者を無視できる立場である。

 なので下階層というかなり厳しい階層から登ってくるという状況でも問題はない。

 元々迷宮は深い階層ほど難易度が高く、浅い階層の方が難易度は簡単である。

 上れば上るほど楽に安全になる。


「ふう…………だいぶ罠は少なくなったな。迷宮の構造は相変わらずだが」


 基本的にこの迷宮はスライムと罠しか存在しない迷宮であり、前にいた竜生迷宮とは全くと言っていいほど違う。

 構造も遺跡構造が中心であり、それ以外の構造はほぼ存在しないと言える。

 隠し通路に宝箱があるということもなく、ただひたすらにスライムと罠ばかり。

 攻略する側も攻略する気にならないし、こうやって安全に上ってくるアズラットもまた飽きが来るくらいである。

 まあ、そもそも迷宮は攻略されないようにするものなのだからそういう意味ではいいのかもしれない。

 攻略する気を失うような迷宮であれば攻略されることはないだろう。

 危険度も低ければ余計に攻略されない。

 とはいえ、そんなことは下から上ってきたアズラットには関係ない。

 もう少し外に出るまでに楽しめればいいのに、と思っている。

 もっとも、この迷宮を作り上げたのは一応アズラットになるわけなのだが……まあ、本当の意味で本人が作ったわけではない。


「こんな迷宮誰が攻略するのか……スライムの確保をしたい人が来るくらいか? でも、確かこの迷宮って……俺が寝た場所で生まれたとするのなら山の中になるわけだよな? そこまでわざわざ来てスライムを確保するという冒険者はいるだろうか……スライムなんてそこら中にいるんだから確保するのにわざわざ迷宮に来る必要はないし。まあ、この近辺にこれ以外に迷宮がないとかだったら迷宮に来る人間はいるかもしれないが……いや、そもそもここまでくるのに結構な労力がいるよな……」


 アズラットは迷宮をつく際に人の来ないような山を迷宮の作る場所を選んでいる。

 とうぜん人間が来るのは大変な場所だ。

 それこそこの迷宮が見つかるのは人にばれないように採掘に来た人間がいなければあり得なかった。

 当然冒険者と言えども交通の便がない行きにくい迷宮に行きたいと思う者は少ない。

 そしてこの迷宮も迷宮の攻略の意味がない迷宮であり、冒険者を送り出すような理由もない。

 危険度合もスライムしかいないのであればある程度対応できる人間がいればいいくらいだ。

 それこそ入口を監視する兵士でもいれば、だいたいのことはその兵士で十分である。

 仮に迷宮から魔物を溢れさせる目的を抱く者がいたとしても、スライムしかいない迷宮だといろいろな意味でやりづらい。

 迷宮から魔物があふれてもスライムしかでてこないのだから。

 まあ、この周りがスライムだらけになるのは影響はあるかもしれない。

 しかし、迷宮の内部と違い外部はちゃんとした生態系があり、そこにスライムが入ったところで捕食される対象が増えるくらい。

 まあ、ある程度の分解の役目は果たすかもしれないがそれでもそこまで大きな変化はないだろう。

 つまりここには入口の監視さえ置いていれば安全ということになる。ほとんど人はこないだろう。


「……っと? これは」


 そんな迷宮であるが、全く攻略者がいないというわけではない。

 ここが迷宮であるという事実には変わりない。

 この迷宮の攻略者はいくらかに分かれる。

 一つはこの迷宮のことを全く知らず、迷宮というだけで来た人間。

 そういった冒険者の場合、攻略を開始してそうそうに出戻ることが多い。

 スライムしかいないからだ。

 冒険者として迷宮に来るのは強くなる、稼ぐが目的であり、この迷宮はその目的にそぐわない。

 危険こそ上の階層はそこまでではないが、装備がだめになりやすいし食料が失われやすく攻略の難易度が高い。

 ならばこんなところに来るよりは、と別の迷宮へと移動する。

 そんな迷宮であるが、攻略の難易度の高さは有名だ。

 それゆえに攻略に来る者もいる。これもまた一つだろう。

 スライムと罠しかないとはいえ、その難易度ゆえにこの迷宮は攻略しづらい迷宮であると言われている。

 それゆえに、この迷宮を攻略すれば相応に難易度の高い迷宮を攻略した実力者と認識される。

 もちろん魔物の強さとしては流石にどうかと思うが、逆に言えば魔物は弱いのに難易度の高い迷宮ということでもある。

 実力がなくとも攻略できる可能性はあるし、そんな迷宮なのに難易度が高い迷宮だからこそより評価される可能性はある。

 とはいえ、いまだに最下層付近まで到達した冒険者すらいないのだからその難易度は推して知るべし。

 そして、一部の魔物嫌い、迷宮嫌いの冒険者。

 これは迷宮という場所が嫌いということではなく魔物を生み出す迷宮そのものが嫌いということ。

 聖国の人間のような、魔物をこの世界から消し去ることを至上命題としている人間や、迷宮を無くすことを目的とする人間である。

 もっとも、そんな彼らでも挫けそうになるくらいにこの迷宮の攻略は難しいのだが。

 そういった迷宮であるがゆえに、ある程度上層階に来れば少しは迷宮攻略者に出会う。

 アズラットはその迷宮に挑む冒険者のことを感知したのである。


「……どうする? 近づいても大丈夫か?」


 今のアズラットは人の姿をしている。

 その状態であれば冒険者に近づいても襲われることはないだろう。

 そもそもこの迷宮はスライムばかりの迷宮なのだからスライムがいたところで襲ってこなければ気にされないかもしれない。

 まあ、この迷宮のスライムは襲えるような状況だと積極的に襲ってくるような活発なスライムばかりだ。主に食事の関係で。

 とはいえ、彼らも無謀な行動ばかりするわけではなく、罠の発動に合わせてとか、スライムと戦っているところを狙うなどの本能的な知恵を持つ。

 スライムに意思や思考の類はないが、そういった対処をしないわけではない。

 でなければ動くものを無差別に襲うだろう。


「………………いや、さすがに怪しまれるな」


 問題となるのはアズラットの格好……服装だ。

 今のアズラットは迷宮に入る冒険者の服装をしていない。

 当然ながらここまで来る冒険者となれば相応の装備をしているだろう。武器だって持っている。

 そして、アズラットが服装変えたとしても武器は用意できないし、逆に冒険者らしくしても怪しく見られる可能性が高い。

 一つの理由はソロであること、もう一つの理由は恐らくアズラットが変化させた服装は新品に近い状態になる可能性が高いから。

 この迷宮は装備がボロボロになりやすい迷宮だ。

 スライムが頻繁に襲ってくるため、消化されそうなってしまう。

 そんな中新品の装備をつけて武器も持たない人間は極めて怪しい。


「スライムの姿に戻ってやり過ごすか……それとも気づかれないように抜けていく? <隠蔽>はあるから可能かな? それともルートを変えるか……?」


 色々と対処手段はあるが、どれにしようか迷っている。

 まあ、彼らが近づいてくるまでに判断することだろう。

 もしかしたら彼らの存在をアズラットは感知したがアズラットの方には来ず別ルートに行くかもしれない。

 ともかく、今のアズラットは人の姿をしているが必ず人間に信用されるとは限らない。

 それを考慮に入れておくべきだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ