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スライムのしんせいかつ  作者: 蒼和考雪
六章 神と人と魔物
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245 スライムの楽園?

「っと…………竹槍? いや、竹ではないか……落とし穴とか古典的な罠だな……まあ、効果的か? っていうか、周りにスライムの気配が……仮に落ちて無事でもスライムが降ってきて襲われるのかこれ……いやらしい。っていうか、これ落ちて無事なやつって普通はいないだろ……俺はスライムだから別に平気だったけど。さっきも天井が降ってきたり、壁が吹っ飛んできたり……スライムでなかったらとっくに死んでたな。まあ、スライムでも弱かったらたぶん死んでただろうけど……そう考えると今の俺だから大丈夫って言うのはあるのか。なんというヤな迷宮……出てくる魔物もスライムばかりだし、食べる物にも困りそうだな……スライムも食べる物には困るけど」


 この迷宮には魔物がいない。いや、厳密にはほぼスライムしかいない。

 そして基本的には罠が主体の迷宮である。

 自然的環境で鉱石があったり、森のような自然の恵みがあったりせず、この迷宮に入るなら外からの食料が必須である。

 そして、それは魔物側……つまりスライムも同様であるということ。これがまた面倒くさい。

 スライムは同じスライムを餌にすることもあるが、それは相手が弱い種である場合。

 アズラットが階層を移動したときに食われそうになったように、格下を食らうということ。

 しかし、通常そのようなことは迷宮では珍しく、同じ階層にいるスライムは同じ強さの段階であることがほとんど。

 つまり、スライムたちは同族であるスライムでも食らう相手がいない。つまり食事がない。

 飢えたスライムたちは食料を持ち込んだ人間に襲い掛かる……いや、そもそも人間もまた食料になるわけだが。

 彼らも格上に襲い掛かるということをするつもりはないが、飢えに飢えたら話は違う。

 他に食うものがなければ餓死しかねない状況でたとえ自分がやられる可能性があるとしても襲い掛かるしかない。

 死に物狂いのスライムの群れが迷宮に入った人間に襲い掛かるのである。恐ろしい話だ。

 もっとも実際にはこの迷宮を移動するスライムの死骸、スライムが発動させた罠などがある。

 迷宮の壁床天井をスライムたちが食することはできないが、発動した罠などで天井や壁や床から離れた物は違う。

 スライムは基本的に生き物の類を好むが、別に鉱物でも食らえないわけではない。

 他に食らう物がないのならば当然食料としてそれらを食らう。

 ゆえに発動した罠などが迷宮内部残ることはない。

 スライムの死骸も食され残らず、どこにも何もない迷宮……のように見えるわけだ。


「しかし、この迷宮攻略する意味が見えないよな……出てくる魔物はスライムばかりだし、迷宮の内部も罠しかないし……宝箱とかそういう物が置いてあるわけでもなし、食料や素材になるような魔物がいるわけでもなし、森とか川とかそういうものもないし……せめてどこかに鉱物類でも埋まってれば話は違うだろうけど……あれ? そもそも迷宮って掘れるのか?」


 迷宮における壁掘りなどはできるところとできないところがある。

 遺跡のような迷宮は壁を掘ることはできないことがほとんど。

 まあ、隠し通路などの類ではそこの通路につながる場所を破壊できる、ということはある。

 基本的に洞窟系などの自然系迷宮は壁を掘ることができたりする。

 なお、掘った壁は自然に回復する。

 そういう点でやはり迷宮は資源の宝庫ともいえるわけだが。

 この迷宮は明らかにその手の迷宮ではない。


「スライムばかり……俺が作ったから? でも、竜生迷宮では竜王が迷宮主だったわけだけど、竜しかいなかったわけじゃないよな?」


 迷宮は迷宮主の意思を反映し作成されるが、別に迷宮主の望む姿そのものになるわけではない。

 そもそも同種の生物しかいないのであれば共食いしかできなくなる。

 竜生迷宮はそうならないように気を使った感じではある。

 あるいはそもそも生態系の環境として迷宮が作られたか。

 そもそも迷宮主の意思をどこまで反映しているかにもよるだろう。

 そういう意味ではこの迷宮も完璧に迷宮主の意思を反映しているとは言い難いだろう。

 アズラットは冒険者にとって難易度の高い迷宮を、と望むが別に誰も来れないような過酷な迷宮を望むわけではない。

 できれば冒険者はこないでほしい、しかし冒険者が来たならば充実し十分満足できる迷宮を。

 そんな感じだ。

 冒険者が来ないでほしいは完璧……かどうかはともかく、厳しいくらいに反映されているのに、充実し満足できる迷宮ではない。

 この迷宮を攻略しても得られる物と言えばアズラットが残した財宝のみで他はスライムの残骸しか得られない。

 もちろんスライムと言えども全く価値がないわけではない。

 上位種のスライムであれば相応に価値はあるだろう。

 しかし、結局のところスライムはスライム。そこまで多様な利用価値があるわけでもない。

 つまりこの迷宮は攻略に多大な苦労と消費を求められるのに得られる物が少ない迷宮ということにある。

 はっきり言って誰も攻略したがらない迷宮と言える。

 流石にアズラットとしても迷宮にそこまでの難易度は求めない。

 まあ、仮にこの迷宮に挑んでくるのがスライムであれば、ほとんどの場合無事最下層まで楽に行くことはできるだろう。

 あくまで道に迷ったりするかどうかを考慮せず魔物に襲われない罠の危険が低い食事の問題がないという意味合いでだが。

 スライムの上位種ならばスライムに襲われることはなく、食事も先に十分食べておけば行って戻るくらいは問題ない。


「こうもスライムばかりだと……スライムの楽園と言ってもいいのかな。スライム好きにはある意味楽園か……いや、さすがにそんなのはいなさそうだけど。スライムに食われないように対策しないと全身覆いつくされて食われて終わるわけだし……まあ、スライムしかいないのなら外に出ていく魔物もスライムしかいない、となるとそこまで危険はないともいえるのかな?」


 スライムとて、迷宮から外に大量に出てきたらそれはそれで厳しいものがある。

 しかもこの迷宮ならば上位種の発生する可能性もそれなりにあるだろう。

 そう考えると危険性は高い。だが流石にビッグスライム以上のスライムが外に出る可能性は低い。

 そもそもそこまで成長できるだけの余地がこの迷宮の環境にはないだろう。

 なので迷宮自体が外にまき散らす魔物の危険はそこまでではないという点でこの迷宮は比較的安全と言えるだろう。

 その代わり攻略の難易度と得られる物は他と比べ明らかにおかしいため、攻略のために来る冒険者は少ないだろう。

 一応迷宮攻略の名誉のために挑む者はいそうだが、それも最初の内の少しだけですぐに諦めることになるだろう。

 出費ばかり増えて入ってくる収入がほぼない迷宮なのだから攻略自体が続かない。

 ちなみにスライムの楽園とアズラットが言っているが、ここはスライムにとっては楽園ではない。

 スライムの数は多いが決して楽園と言えるような環境ではない。

 スライムの餌となるものが少ないのだから楽園とはなり得ない。

 食生活的な意味合いでスライムにとってはかなり厳しい迷宮と言える。

 それ以外では悪いわけではないのだが。


「っと……また罠だ。こう罠ばかりだと面倒だな……スライムが噴出してきたけど、すぐに逃げていく……俺には意味のない罠か。冒険者は流石にやばめかな。しかし、スライムが罠に入っていたのか、罠がスライムを利用しているのか……単純に罠とスライムだけの迷宮とか需要がないよな……まあ、誰も挑まず誰も攻略しないのなら迷宮的にはいいのか?」


 迷宮の核に特に意識があるわけではない。

 なので攻略されようとも、されなくとも構わないという話である。

 とはいえ、迷宮も積極的に迷宮を壊させるつもりで迷宮を作るわけではなく、誰も来ず破壊されないほうがいいと考える。

 なのでそういう意味ではこの迷宮はとても長生きする迷宮だと言える。

 迷宮にとっては良いことだ。

 まあ、それを管理し危険を見張る側の人間としてはこんな迷宮はない方がいいのだが。

 いつか攻略する者が現れることを祈ろう。

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